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1.恋愛初心者
21.彼女
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体育祭委員と共に、生徒会メンバーは体育祭の後片付けをする。多くのクラスは今日打ち上げを開くらしいけれど、私達は参加できない。
体育祭委員の子達のなかには、途中参加すると言っている人もいる。正直、こんな疲労感のなか、途中からでも参加するなんてすごい体力だなあ…と感心してしまう。
そもそも明日も普通に授業があるのに、打ち上げを開けること自体がすごいと思ってしまう。
私達は今週の土曜日に打ち上げを開く。学校から予算が出て、バーベキューをする予定だ。(正確には生徒会の予算で賄われる)
…でも。クラスの打ち上げには永那ちゃんが参加するんだよね。
当然、体育祭委員でも生徒会でもない永那ちゃんは、土曜日のバーベキューには参加しない。
なるほど。途中参加でも行きたい気持ちがなんとなくわかった気がした。
全ての道具をしまい終える頃には、6時半になっていた。
急いで学校を出る人もいれば、少し休んでから帰ると言っている人もいる。
私はストレッチするように少し伸びて、帰る支度をする。
スマホを見ると『穂、終わったら教えて』とメッセージが入っていた。
「空井先輩、帰りませんか?」
後ろから日住君に話しかけられる。
「ああ、うん。帰ろうか」
スマホを鞄にしまって、私達は帰途につく。
「日住君」
学校が見えなくなった辺りで話し始めた。
「なんですか?」
「私ね、永那ちゃん…両角さんね。…永那ちゃんとお付き合いしてるの」
私が意を決して言うと、日住君が深呼吸する。
「ずっと日住君には言わなきゃって思っていたんだけど、体育祭の準備で忙しかったでしょ?だからなかなか言えなくて。…日住君には相談に乗ってもらったから」
日住君は笑いながら「俺は特に何も…」と小さく言った。
「まさか永那ちゃんが“好きな人”のカードを取って、私を連れて行くなんて予想外だったけど」
「ああ、みんなにすごい食いつかれてましたよね」
「特に金井さんが…。すごい真剣に聞かれてちょっと怖かったよ」
2人で笑い合う。
「ちなみに、空井先輩は両角先輩のどういうところを好きになったんですか?」
「えっ…うーん…。最初は、誰にでも分け隔てなく話せる人で、いつも寝てるのに周りに人がたくさん集まっててすごいなあって思ってただけだったの」
日住君が頷く。
「用事があるときだけ話しかけたことがあったんだけど、みんなは私に敬語を使うのに、永那ちゃんだけは普通に話してくれて、嬉しかった」
「じゃあ、最初から結構好きだったんですね」
日住君が苦笑する。
「うーん…。好き、とは少し違うかな?私もあんなふうになってみたいっていう、憧れに近いのかも。でも絶対なれないこともわかってて。…ああ、そういう意味で言えば、いつも日住君のこともすごいなあって思ってるよ」
私が笑いかけると、日住君は目を大きく開く。すぐに視線をそらされて「そうですか」と相槌をうってくれる。
「5月の頭くらいにね。私が掃除当番のとき、クラスメイトに掃除に関して厳しく言っちゃったことがあって…それからほとんど毎日私が掃除することになって」
「…なるほど。なんだかいつも空井先輩掃除しているなあって思っていたら、そういう経緯があったんですね」
「…うん。まあ、みんなのやり方に不満があったし、掃除は嫌いじゃないからべつによかったんだけど…それでも、寂しさというか、ちょっとしたイライラみたいなのは感じてたの」
「そりゃあ、そうですよね。クラスメイトに何か指摘されたからって、決まってる当番を放り出していい言い訳にはならない」
私は苦笑する。
掃除の時間、手を動かさずにずっと喋っている女子達。箒を野球のバットに見立てて遊ぶ男子達。
彼ら、彼女らを見て苛立った私が「ちゃんと掃除をしないなら邪魔だから出ていって。そんなふうにやるなら、これからはやらなくていい」と言ってしまったのだ。
気づけば、私が当番じゃない日にも、クラスメイトから「掃除苦手だから」とか「部活で忙しいから」とか、何かと理由をつけて、押し付けられるようになった。
“空井さんが掃除を始めるから、放課後に教室に残ってはいけない”というルールが勝手に決められ、いつも1人で掃除をするハメになったのだった。
「でも、永那ちゃんはね。…寝ていて、掃除を手伝ってくれるわけじゃないんだけど、永那ちゃんは、ずっとそばにいてくれたの」
1人で掃除する日々を思い出して、そこにずっと永那ちゃんがいたことを思い出して、胸がきゅぅっと締め付けられる。
「何回起こそうとしても起きないし、起きても殺気をおびた目で睨まれるし、最初はおっかなびっくりだったんだけど…そのうち、なんだか楽しくなってきて」
「なんでそこで“楽しい”になるんですか」
日住君が口元を手で押さえて笑う。
「わからない。…わからないけど、どうすれば自然に起きてもらえるんだろう?って考えるようになって」
「それで“実験”ですか」
「そう。それで、仲良くなって」
「…あっという間に」
うぅ…と、顔が熱くなる。
「付き合ってから、体育祭で忙しくて私が掃除に手が回らないっていうのもあったんだけど、永那ちゃんがみんなに掃除するように言ってくれたんだ」
目を伏せて、鞄の持ち手を握りしめる。
いつも分かれる十字路で、私達は少しの間立ち止まって話していた。
「良かったですね」と日住君は言って、自転車に跨る。
「ご、ごめんね。長話に付き合ってもらっちゃって」
「いえ、聞けて良かったです」
彼が1歩踏み出して、自転車を走らせた。でもすぐに止まって、振り向く。
「そうだ、先輩」
「何?」
「恋人ができたなら、もう俺達一緒に帰らないほうがいいですよね?」
その言葉に衝撃を受ける。
(…そっか、恋人ができたら、そういうこともあるのか)と。
「でも、いきなり一緒に帰るのをやめたら、生徒会のみんなに怪しまれないかな?…永那ちゃんも、他の子と帰ったりしてるし。気にしなくて、大丈夫じゃないかな?」
「…そうですか?」
私が頷くと「わかりました」と笑顔を見せて「じゃあ、また土曜日に」と言って、自転車をこぎ始める。
体育祭委員の子達のなかには、途中参加すると言っている人もいる。正直、こんな疲労感のなか、途中からでも参加するなんてすごい体力だなあ…と感心してしまう。
そもそも明日も普通に授業があるのに、打ち上げを開けること自体がすごいと思ってしまう。
私達は今週の土曜日に打ち上げを開く。学校から予算が出て、バーベキューをする予定だ。(正確には生徒会の予算で賄われる)
…でも。クラスの打ち上げには永那ちゃんが参加するんだよね。
当然、体育祭委員でも生徒会でもない永那ちゃんは、土曜日のバーベキューには参加しない。
なるほど。途中参加でも行きたい気持ちがなんとなくわかった気がした。
全ての道具をしまい終える頃には、6時半になっていた。
急いで学校を出る人もいれば、少し休んでから帰ると言っている人もいる。
私はストレッチするように少し伸びて、帰る支度をする。
スマホを見ると『穂、終わったら教えて』とメッセージが入っていた。
「空井先輩、帰りませんか?」
後ろから日住君に話しかけられる。
「ああ、うん。帰ろうか」
スマホを鞄にしまって、私達は帰途につく。
「日住君」
学校が見えなくなった辺りで話し始めた。
「なんですか?」
「私ね、永那ちゃん…両角さんね。…永那ちゃんとお付き合いしてるの」
私が意を決して言うと、日住君が深呼吸する。
「ずっと日住君には言わなきゃって思っていたんだけど、体育祭の準備で忙しかったでしょ?だからなかなか言えなくて。…日住君には相談に乗ってもらったから」
日住君は笑いながら「俺は特に何も…」と小さく言った。
「まさか永那ちゃんが“好きな人”のカードを取って、私を連れて行くなんて予想外だったけど」
「ああ、みんなにすごい食いつかれてましたよね」
「特に金井さんが…。すごい真剣に聞かれてちょっと怖かったよ」
2人で笑い合う。
「ちなみに、空井先輩は両角先輩のどういうところを好きになったんですか?」
「えっ…うーん…。最初は、誰にでも分け隔てなく話せる人で、いつも寝てるのに周りに人がたくさん集まっててすごいなあって思ってただけだったの」
日住君が頷く。
「用事があるときだけ話しかけたことがあったんだけど、みんなは私に敬語を使うのに、永那ちゃんだけは普通に話してくれて、嬉しかった」
「じゃあ、最初から結構好きだったんですね」
日住君が苦笑する。
「うーん…。好き、とは少し違うかな?私もあんなふうになってみたいっていう、憧れに近いのかも。でも絶対なれないこともわかってて。…ああ、そういう意味で言えば、いつも日住君のこともすごいなあって思ってるよ」
私が笑いかけると、日住君は目を大きく開く。すぐに視線をそらされて「そうですか」と相槌をうってくれる。
「5月の頭くらいにね。私が掃除当番のとき、クラスメイトに掃除に関して厳しく言っちゃったことがあって…それからほとんど毎日私が掃除することになって」
「…なるほど。なんだかいつも空井先輩掃除しているなあって思っていたら、そういう経緯があったんですね」
「…うん。まあ、みんなのやり方に不満があったし、掃除は嫌いじゃないからべつによかったんだけど…それでも、寂しさというか、ちょっとしたイライラみたいなのは感じてたの」
「そりゃあ、そうですよね。クラスメイトに何か指摘されたからって、決まってる当番を放り出していい言い訳にはならない」
私は苦笑する。
掃除の時間、手を動かさずにずっと喋っている女子達。箒を野球のバットに見立てて遊ぶ男子達。
彼ら、彼女らを見て苛立った私が「ちゃんと掃除をしないなら邪魔だから出ていって。そんなふうにやるなら、これからはやらなくていい」と言ってしまったのだ。
気づけば、私が当番じゃない日にも、クラスメイトから「掃除苦手だから」とか「部活で忙しいから」とか、何かと理由をつけて、押し付けられるようになった。
“空井さんが掃除を始めるから、放課後に教室に残ってはいけない”というルールが勝手に決められ、いつも1人で掃除をするハメになったのだった。
「でも、永那ちゃんはね。…寝ていて、掃除を手伝ってくれるわけじゃないんだけど、永那ちゃんは、ずっとそばにいてくれたの」
1人で掃除する日々を思い出して、そこにずっと永那ちゃんがいたことを思い出して、胸がきゅぅっと締め付けられる。
「何回起こそうとしても起きないし、起きても殺気をおびた目で睨まれるし、最初はおっかなびっくりだったんだけど…そのうち、なんだか楽しくなってきて」
「なんでそこで“楽しい”になるんですか」
日住君が口元を手で押さえて笑う。
「わからない。…わからないけど、どうすれば自然に起きてもらえるんだろう?って考えるようになって」
「それで“実験”ですか」
「そう。それで、仲良くなって」
「…あっという間に」
うぅ…と、顔が熱くなる。
「付き合ってから、体育祭で忙しくて私が掃除に手が回らないっていうのもあったんだけど、永那ちゃんがみんなに掃除するように言ってくれたんだ」
目を伏せて、鞄の持ち手を握りしめる。
いつも分かれる十字路で、私達は少しの間立ち止まって話していた。
「良かったですね」と日住君は言って、自転車に跨る。
「ご、ごめんね。長話に付き合ってもらっちゃって」
「いえ、聞けて良かったです」
彼が1歩踏み出して、自転車を走らせた。でもすぐに止まって、振り向く。
「そうだ、先輩」
「何?」
「恋人ができたなら、もう俺達一緒に帰らないほうがいいですよね?」
その言葉に衝撃を受ける。
(…そっか、恋人ができたら、そういうこともあるのか)と。
「でも、いきなり一緒に帰るのをやめたら、生徒会のみんなに怪しまれないかな?…永那ちゃんも、他の子と帰ったりしてるし。気にしなくて、大丈夫じゃないかな?」
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