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1.恋愛初心者
38.靄
「同じクラスになってすぐって…」
私が戸惑っていると、永那ちゃんは笑う。
「あのとき、男同士でキスしてるって学年中で話題になってたでしょ?」
男同士でキス?…そんなの話題になってたかな?
「あれ?覚えてない?」
「ゲイの人がいるっていうのは覚えてるけど…」
永那ちゃんは声を出して笑って「穂らしい」と言った。
「あれ、ゲイが話題になってたというより、キスしてたことが話題になってたんだよ?…もちろん、ゲイであることもだけど」
「そうだったんだ」
「それで、穂が“そんなことどうでもいい”って言い放ったんだよ」
…そうだっけ?
まあ確かに、永那ちゃんを好きになる前の私は、恋愛の話全般がどうでもよくて、話されてもよくわからないから、突っぱねていた記憶はある。
「私、それに感動したんだ」
「感動!?」
永那ちゃんの感動するポイントがわからなさすぎる。
引いたり、怖がったりするならわかるけど、感動はよくわからない。
「ほら、同性愛ってやっぱり良くも悪くも、異性愛よりも注目されがちというか…。直接否定されるようなことはあんまりないけど、やっぱりマイノリティだから、話題になりやすいんだよ」
私には恋愛そのものがよくわからないから、異性愛も同性愛も同じに感じる。
最初は友達との違いがわからなかったりもしたけど、よく考えてみれば、相手が男性だったとしても、例えば日住君みたいに“友達”と思っている人はいる。
男女関係なく“友達”は“友達”で、好きになる人は…特別な感じがする。明確に言葉にはできないけど、“どうしても、この人がいい”って思う。
「みんながその話題で盛り上がってるとき、正直私もどうでもよかった。こんな話題で盛り上がるなんて、ガキだなあって」
永那ちゃんは優しそうに見えて、けっこう辛辣なことを思っているんだなあ…と、内心苦笑する。
でもきっと、そういうメリハリみたいなのがちゃんとあるのが、好かれる理由なのかもしれないとも思う。
誰にでもいつでも優しい…なんて、少し嘘っぽい。
「だから話を振られても、“いいなあ、私も学校でしてみたいなあ。絶対ドキドキするよね”とか、適当に言ってたんだよ」
…ん?どういうこと?
「さすがに“どうでもいい”って言い放つ勇気はなくてさ」
永那ちゃんは楽しげに笑ってる。
でも私は全くついていけてなくて、目をパチクリさせることしかできない。
ふと彼女と目が合うと、彼女はプッと笑った。
「“ゲイ”ってことから話題を逸らしたかったんだよ」
「ああ!…なるほど」
「男女でも学校でキスしてる人、たまに見るんだよ。多少は話題になるけど、あんな学年中が盛り上がる…なんてことにはならない。同性同士ってだけで、すごい盛り上がるのが、なんか不服だった」
朝日に照らされる彼女の横顔が、不満気なのに綺麗と思えてしまう。
彼女は彼女なりの真念をもって行動しているのだとわかると、その美しさに磨きがかかるようで。
「だからね、穂が潔く“どうでもいい”って言ってくれて、感動した。スカッとした」
優しく微笑まれて、心を鷲掴みにされる。
「あれからね、空気が変わったんだよ」
永那ちゃんが頭を撫でてくれる。
「みんな、“そうだよね”って。“男女間でもキスしてるの、たまに見るよね”って。“そんな盛り上がることじゃないよね”って」
「そう…だったんだ。全然知らなかった」
「案外みんな、穂のこと、気になってるんじゃないかな?本当は友達になりたいって思ってる人もいるのかも」
「敬語で話されるのに?」
「そりゃあ、ズバッと正しいこと言われたらビビリもするよ、たぶん。…私は楽しいけどね」
「なんか、ちょっとバカにされてる気がする」
「してないよ!」
大爆笑しながら否定されても、全く真実味がない。
唇を尖らせて不満なのを主張するけど、永那ちゃんは目に涙まで浮かべて笑ってる。
彼女の手が伸びてきて、顎に触れる。
ふいに唇が重なって、心臓がトクンと音を立てる。
…ものすごくロマンチックな雰囲気だと思ったのに、彼女がまた笑い始めた。
何がそんなにおかしいのか、さっぱりわからない。
「好きだよ、穂」
「笑ってなければ、普通に嬉しかったのに」
永那ちゃんが左眉を上げる。
彼女はよくこの仕草をする。
鏡を見たときにやってみたけど、私には真似できなくて、器用だなあ…と、見つめてしまう。
彼女の眉を見つめていたら、急に近づいてきてびっくりする。
唇が重なって、ついばむように何度か触れ合った後、彼女が下唇を甘噛みした。
彼女のあたたかい手が、私のうなじを包み込む。
少し吸われるようにキスをしてから離れて、額が合わさる。
「これは、どう?」
優しく言われるから、なんだかモジモジしてしまう。
「…嬉しい」
「よかった」
しばらく見つめ合って、お互いに笑い合う。
小さな公園には、砂場とブランコとすべり台しかない。
公園を囲うツツジの葉が、2人きりの空間を守ってくれている。
永那ちゃんがブランコに乗ろうと言うので、2人でこいだ。ブランコなんて何年ぶりだろう?
永那ちゃんはよく1人で来るらしい。
「永那ちゃん」
「なにー?」
交互に揺れているから、永那ちゃんの返事が遠くで聞こえる。
私が前に出ると、永那ちゃんが後ろに引かれる。永那ちゃんが前に出ると、私が後ろに引かれる。
「永那ちゃんの初恋っていつ?」
「今だよ」
彼女が振り向きながら答えてくれる。
「嘘」
「本当」
「絶対嘘」
そう返したら、彼女はズズズと足でブランコを止めた。
「本当って言ってるでしょ」
少し睨むように私を見る。
「…でも永那ちゃん、いろんな人とエッチとかしてきたんでしょ?」
私が俯きながら言う。
少しずつペースを落として、私のブランコも止まる。
私が戸惑っていると、永那ちゃんは笑う。
「あのとき、男同士でキスしてるって学年中で話題になってたでしょ?」
男同士でキス?…そんなの話題になってたかな?
「あれ?覚えてない?」
「ゲイの人がいるっていうのは覚えてるけど…」
永那ちゃんは声を出して笑って「穂らしい」と言った。
「あれ、ゲイが話題になってたというより、キスしてたことが話題になってたんだよ?…もちろん、ゲイであることもだけど」
「そうだったんだ」
「それで、穂が“そんなことどうでもいい”って言い放ったんだよ」
…そうだっけ?
まあ確かに、永那ちゃんを好きになる前の私は、恋愛の話全般がどうでもよくて、話されてもよくわからないから、突っぱねていた記憶はある。
「私、それに感動したんだ」
「感動!?」
永那ちゃんの感動するポイントがわからなさすぎる。
引いたり、怖がったりするならわかるけど、感動はよくわからない。
「ほら、同性愛ってやっぱり良くも悪くも、異性愛よりも注目されがちというか…。直接否定されるようなことはあんまりないけど、やっぱりマイノリティだから、話題になりやすいんだよ」
私には恋愛そのものがよくわからないから、異性愛も同性愛も同じに感じる。
最初は友達との違いがわからなかったりもしたけど、よく考えてみれば、相手が男性だったとしても、例えば日住君みたいに“友達”と思っている人はいる。
男女関係なく“友達”は“友達”で、好きになる人は…特別な感じがする。明確に言葉にはできないけど、“どうしても、この人がいい”って思う。
「みんながその話題で盛り上がってるとき、正直私もどうでもよかった。こんな話題で盛り上がるなんて、ガキだなあって」
永那ちゃんは優しそうに見えて、けっこう辛辣なことを思っているんだなあ…と、内心苦笑する。
でもきっと、そういうメリハリみたいなのがちゃんとあるのが、好かれる理由なのかもしれないとも思う。
誰にでもいつでも優しい…なんて、少し嘘っぽい。
「だから話を振られても、“いいなあ、私も学校でしてみたいなあ。絶対ドキドキするよね”とか、適当に言ってたんだよ」
…ん?どういうこと?
「さすがに“どうでもいい”って言い放つ勇気はなくてさ」
永那ちゃんは楽しげに笑ってる。
でも私は全くついていけてなくて、目をパチクリさせることしかできない。
ふと彼女と目が合うと、彼女はプッと笑った。
「“ゲイ”ってことから話題を逸らしたかったんだよ」
「ああ!…なるほど」
「男女でも学校でキスしてる人、たまに見るんだよ。多少は話題になるけど、あんな学年中が盛り上がる…なんてことにはならない。同性同士ってだけで、すごい盛り上がるのが、なんか不服だった」
朝日に照らされる彼女の横顔が、不満気なのに綺麗と思えてしまう。
彼女は彼女なりの真念をもって行動しているのだとわかると、その美しさに磨きがかかるようで。
「だからね、穂が潔く“どうでもいい”って言ってくれて、感動した。スカッとした」
優しく微笑まれて、心を鷲掴みにされる。
「あれからね、空気が変わったんだよ」
永那ちゃんが頭を撫でてくれる。
「みんな、“そうだよね”って。“男女間でもキスしてるの、たまに見るよね”って。“そんな盛り上がることじゃないよね”って」
「そう…だったんだ。全然知らなかった」
「案外みんな、穂のこと、気になってるんじゃないかな?本当は友達になりたいって思ってる人もいるのかも」
「敬語で話されるのに?」
「そりゃあ、ズバッと正しいこと言われたらビビリもするよ、たぶん。…私は楽しいけどね」
「なんか、ちょっとバカにされてる気がする」
「してないよ!」
大爆笑しながら否定されても、全く真実味がない。
唇を尖らせて不満なのを主張するけど、永那ちゃんは目に涙まで浮かべて笑ってる。
彼女の手が伸びてきて、顎に触れる。
ふいに唇が重なって、心臓がトクンと音を立てる。
…ものすごくロマンチックな雰囲気だと思ったのに、彼女がまた笑い始めた。
何がそんなにおかしいのか、さっぱりわからない。
「好きだよ、穂」
「笑ってなければ、普通に嬉しかったのに」
永那ちゃんが左眉を上げる。
彼女はよくこの仕草をする。
鏡を見たときにやってみたけど、私には真似できなくて、器用だなあ…と、見つめてしまう。
彼女の眉を見つめていたら、急に近づいてきてびっくりする。
唇が重なって、ついばむように何度か触れ合った後、彼女が下唇を甘噛みした。
彼女のあたたかい手が、私のうなじを包み込む。
少し吸われるようにキスをしてから離れて、額が合わさる。
「これは、どう?」
優しく言われるから、なんだかモジモジしてしまう。
「…嬉しい」
「よかった」
しばらく見つめ合って、お互いに笑い合う。
小さな公園には、砂場とブランコとすべり台しかない。
公園を囲うツツジの葉が、2人きりの空間を守ってくれている。
永那ちゃんがブランコに乗ろうと言うので、2人でこいだ。ブランコなんて何年ぶりだろう?
永那ちゃんはよく1人で来るらしい。
「永那ちゃん」
「なにー?」
交互に揺れているから、永那ちゃんの返事が遠くで聞こえる。
私が前に出ると、永那ちゃんが後ろに引かれる。永那ちゃんが前に出ると、私が後ろに引かれる。
「永那ちゃんの初恋っていつ?」
「今だよ」
彼女が振り向きながら答えてくれる。
「嘘」
「本当」
「絶対嘘」
そう返したら、彼女はズズズと足でブランコを止めた。
「本当って言ってるでしょ」
少し睨むように私を見る。
「…でも永那ちゃん、いろんな人とエッチとかしてきたんでしょ?」
私が俯きながら言う。
少しずつペースを落として、私のブランコも止まる。
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