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1.恋愛初心者
39.靄
彼女から何の返事もないから、上目遣いに彼女を見ると、訝しげな表情をしている。
「なんでそう思うの?」
「えっと…。そう、聞いたから」
「ふーん」
膝に頬杖をついて、目を細くする。
「私がいろんな人とそういうことしてたって知って、どう思った?」
声のトーンが低くなって、不安の色が滲む。
「永那ちゃんはモテるだろうし、そういうものなのかなって」
「嫌じゃなかった?」
「うーん…もちろん、快い気持ちにはならないけど、私とは違う人生を歩んでるんだし、本当に、単純にそういうものなのかなって思ったよ」
フッと少し悲しげに笑って、永那ちゃんはまっすぐ私を見る。
「穂に嫌われなくてよかった」
心底ホッとしてるような、でもまだ不安が残っているような、そんな表情。
「でも、やっぱり嫌われちゃうかなあ?」
彼女の悲しそうな笑顔に胸が痛む。
「私の初恋は、本当に穂だよ。…今まで、私は誰のことも好きじゃなかったんだなって心の底から思うほどに、穂が好き」
それのどこが、嫌う理由になるのだろう?
「初恋があればよかったのかもしれない。その人のことが好きだったから体の関係を持ったんだって言えたら、よかった」
私には未知の世界の話。
「現実は、違う」
彼女が俯いて、前髪が垂れ下がるから、表情が見えなくなる。
「ただ、ストレス発散だったんだ。…そういうことをするのが、楽しかった」
首筋をボリボリと掻いて、「ハァ」とため息をつく。
「いっぱい、いろんな人を傷つけたと思う。それでも、その関係が、私にとって都合がよかった」
自嘲するように笑って「キモいよね」と呟いた。
また彼女はため息をつく。
「知られたくなかったな、穂には」
笑うところじゃない。
今、笑うところじゃないのはわかってるけど、思わず笑ってしまう。
永那ちゃんが驚いて、こちらを見る。
「最初に刺激的なキスをしてきたのは誰かなあ?」
「えっ!?」
「あんなふうにされたらさ…ああ、上手だなあって誰でも思うと思う。上手だなあって思ったら、きっと経験豊富なんだろうなあって考えるのは自然なことじゃない?」
永那ちゃんが引きつった笑みを浮かべてる。
「だから永那ちゃんがそういうこと、たくさんしてたって聞いても、べつに不思議じゃなかったよ」
「そっか。穂は、すごいな」
「そうかな?」
「すごいよ。普通は引くと思う」
「引きはしなかったよ。…でも」
一瞬で永那ちゃんの顔に不安の色が浮かぶ。
つい、笑みが溢れてしまう。
それくらい、私のことを好きだと思ってくれているのだとわかるから。
「でも、不安だった」
「不安?」
「永那ちゃんのこと、まだまだ知らないことばかりで。…もし、永那ちゃんが、今までエッチしてきた全員のことを好きだったなら、私もそのうち飽きられて捨てられちゃうのかなって」
彼女の目が大きく見開かれてる。
「そ、そっか。…じゃあ、穂が初恋で、よかったのか」
「私にとっては、ね」
笑みを見せると、彼女も照れくさそうに笑ってくれる。
それに、こんな話までちゃんと真剣にしてくれる彼女に引くわけがない。
「私がいろんな人としてきたって穂に言ったの、千陽でしょ?」
永那ちゃんは膝に両腕をついて、気だるげにしている。
「えっ…」
私は隠すのが相当下手らしく、「やっぱり」と言われてしまった。
「想像できるんだよ、あいつがそういうの言ってるとこ」
また彼女は首筋をボリボリ掻く。
なんか、音からして痛そうだけど、痛くないのかな?
「佐藤さんってすごく可愛いけど、なんで永那ちゃんは…その…手を出さないの?」
「そんなことまで言ったの?恥ずかしくないのかよ」
永那ちゃん、少し口調が悪くなってる。苛立ってるのがありありとわかる。
「…自分でも、わからない。わからないけど、なんか、そういう気分にならなくて。なんなんだろう?」
宙を見て、考える。
しばらくの沈黙がおりて、でも彼女は答えが見つからないみたいだった。
「佐藤さん、泣いてた」
彼女が眉間にシワを寄せながらこちらを見る。
「佐藤さん、本当に永那ちゃんが好きなんだなって、思うよ」
「私達が付き合ってるって言ったの?」
「ううん、言ってない。言ってないけど、体育祭の打ち上げのとき、初めて手を振り払われたって言って泣いてた」
「ああ」
彼女は思い出すように、口元をさする。
「…そうだな」
何か考えがまとまったようで、彼女は2度頷いて、私を見た。
「千陽が私を本気で好きだってわかるから、手を出さなかったのかも。…私だって、自分を本気で大切に思ってくれる人を傷つけたいわけじゃない。絶対傷つけちゃうってわかるから、できなかったのかもしれない」
「そっか」
「ただ見た目がタイプとか、ただ優しくされたからとか、そういう理由で近づいてくる人と関係を持つのに躊躇いはあんまりなかった…と、思う」
彼女の耳が少し赤くなる。
口元を手で隠して、目をそらされる。
「なんか、自分で言っててめっちゃ恥ずかしくなってきた」
「え?なんで?」
「えー…なんでって…こんな話、あんましないでしょ。普通に恥ずかしいって」
「そうなんだ」
私は未知の世界の話を聞いているようで、けっこう興味深かったけど、普通はこういう話はしないんだ…。
恋話ってよくわからない。
「なんでそう思うの?」
「えっと…。そう、聞いたから」
「ふーん」
膝に頬杖をついて、目を細くする。
「私がいろんな人とそういうことしてたって知って、どう思った?」
声のトーンが低くなって、不安の色が滲む。
「永那ちゃんはモテるだろうし、そういうものなのかなって」
「嫌じゃなかった?」
「うーん…もちろん、快い気持ちにはならないけど、私とは違う人生を歩んでるんだし、本当に、単純にそういうものなのかなって思ったよ」
フッと少し悲しげに笑って、永那ちゃんはまっすぐ私を見る。
「穂に嫌われなくてよかった」
心底ホッとしてるような、でもまだ不安が残っているような、そんな表情。
「でも、やっぱり嫌われちゃうかなあ?」
彼女の悲しそうな笑顔に胸が痛む。
「私の初恋は、本当に穂だよ。…今まで、私は誰のことも好きじゃなかったんだなって心の底から思うほどに、穂が好き」
それのどこが、嫌う理由になるのだろう?
「初恋があればよかったのかもしれない。その人のことが好きだったから体の関係を持ったんだって言えたら、よかった」
私には未知の世界の話。
「現実は、違う」
彼女が俯いて、前髪が垂れ下がるから、表情が見えなくなる。
「ただ、ストレス発散だったんだ。…そういうことをするのが、楽しかった」
首筋をボリボリと掻いて、「ハァ」とため息をつく。
「いっぱい、いろんな人を傷つけたと思う。それでも、その関係が、私にとって都合がよかった」
自嘲するように笑って「キモいよね」と呟いた。
また彼女はため息をつく。
「知られたくなかったな、穂には」
笑うところじゃない。
今、笑うところじゃないのはわかってるけど、思わず笑ってしまう。
永那ちゃんが驚いて、こちらを見る。
「最初に刺激的なキスをしてきたのは誰かなあ?」
「えっ!?」
「あんなふうにされたらさ…ああ、上手だなあって誰でも思うと思う。上手だなあって思ったら、きっと経験豊富なんだろうなあって考えるのは自然なことじゃない?」
永那ちゃんが引きつった笑みを浮かべてる。
「だから永那ちゃんがそういうこと、たくさんしてたって聞いても、べつに不思議じゃなかったよ」
「そっか。穂は、すごいな」
「そうかな?」
「すごいよ。普通は引くと思う」
「引きはしなかったよ。…でも」
一瞬で永那ちゃんの顔に不安の色が浮かぶ。
つい、笑みが溢れてしまう。
それくらい、私のことを好きだと思ってくれているのだとわかるから。
「でも、不安だった」
「不安?」
「永那ちゃんのこと、まだまだ知らないことばかりで。…もし、永那ちゃんが、今までエッチしてきた全員のことを好きだったなら、私もそのうち飽きられて捨てられちゃうのかなって」
彼女の目が大きく見開かれてる。
「そ、そっか。…じゃあ、穂が初恋で、よかったのか」
「私にとっては、ね」
笑みを見せると、彼女も照れくさそうに笑ってくれる。
それに、こんな話までちゃんと真剣にしてくれる彼女に引くわけがない。
「私がいろんな人としてきたって穂に言ったの、千陽でしょ?」
永那ちゃんは膝に両腕をついて、気だるげにしている。
「えっ…」
私は隠すのが相当下手らしく、「やっぱり」と言われてしまった。
「想像できるんだよ、あいつがそういうの言ってるとこ」
また彼女は首筋をボリボリ掻く。
なんか、音からして痛そうだけど、痛くないのかな?
「佐藤さんってすごく可愛いけど、なんで永那ちゃんは…その…手を出さないの?」
「そんなことまで言ったの?恥ずかしくないのかよ」
永那ちゃん、少し口調が悪くなってる。苛立ってるのがありありとわかる。
「…自分でも、わからない。わからないけど、なんか、そういう気分にならなくて。なんなんだろう?」
宙を見て、考える。
しばらくの沈黙がおりて、でも彼女は答えが見つからないみたいだった。
「佐藤さん、泣いてた」
彼女が眉間にシワを寄せながらこちらを見る。
「佐藤さん、本当に永那ちゃんが好きなんだなって、思うよ」
「私達が付き合ってるって言ったの?」
「ううん、言ってない。言ってないけど、体育祭の打ち上げのとき、初めて手を振り払われたって言って泣いてた」
「ああ」
彼女は思い出すように、口元をさする。
「…そうだな」
何か考えがまとまったようで、彼女は2度頷いて、私を見た。
「千陽が私を本気で好きだってわかるから、手を出さなかったのかも。…私だって、自分を本気で大切に思ってくれる人を傷つけたいわけじゃない。絶対傷つけちゃうってわかるから、できなかったのかもしれない」
「そっか」
「ただ見た目がタイプとか、ただ優しくされたからとか、そういう理由で近づいてくる人と関係を持つのに躊躇いはあんまりなかった…と、思う」
彼女の耳が少し赤くなる。
口元を手で隠して、目をそらされる。
「なんか、自分で言っててめっちゃ恥ずかしくなってきた」
「え?なんで?」
「えー…なんでって…こんな話、あんましないでしょ。普通に恥ずかしいって」
「そうなんだ」
私は未知の世界の話を聞いているようで、けっこう興味深かったけど、普通はこういう話はしないんだ…。
恋話ってよくわからない。
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