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2.変化
50.初めて
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土曜日、朝7時に目が覚めた。
お母さんが仕事帰りに買ってきた小花柄の白いワンピースが、クローゼットの扉に掛かっている。
(また白い…)と思ったけど、お母さんが楽しそうにしていたので、今日着ることにした。
薄紫色の小花が散りばめられていて、涼しげな見た目。
顔を洗い、朝ご飯を食べていると、お母さんが起きてきた。
休日にこんな早起きなんて珍しい…と思っていたら、誉を叩き起こし始めた。
「お姉ちゃん、今日ね」
寝癖がぴょんぴょん跳ねて、まだ半分寝ている誉の肩を持って、お母さんが言う。
「お母さん、誉と2人で遊園地行ってこようと思って」
ぎこちない笑顔。
すぐ、気遣ってくれたのだとわかる。
「あの…ほら、私達がいると勉強、集中できないでしょ?」
「そんな…いいのに」
私が苦笑すると、お母さんは慌てる。
「いや、でも、ほら…えーっと…」
「お母さん、永那ちゃんに会いたくない?」
「え!?」
こんなにも普通に不安を口にできている自分に驚く。
「違う!違うよ、穂!」
立ちながら船を漕いでいる誉を放って、私のそばに駆け寄ってくる。
誉が床に倒れて、びっくりして目を覚ましたみたいだった。
「そうじゃなくて…」
お母さんは眉間にシワを寄せて、必死に言葉を探してる。
「ごめん、気遣ってくれただけだよね。ありがとう」
まだお母さんの目に不安そうな色が滲んでいる。
「お母さんは、本当に、穂のこと、応援してるよ。永那ちゃんにも会いたいって思ってるし…いつか、絶対会いたいって思ってる。だから、誤解しないで」
「うん、ありがとう」
私が笑いかけると、お母さんの眉がハの字になって、少し安心したみたいだった。
「今日、楽しむね」
そう言うと、お母さんが嬉しそうに笑った。
2人は私と一緒に家を出た。
駅までだけど、なんだか3人で出かけるなんて久しぶりで、もう楽しい。
駅につくと、時計台の下に永那ちゃんが立っていた。
永那ちゃんは前に公園デートで着ていた黒のテーパードパンツに、白のTシャツを着ていた。
耳には、控えめに小さなピアスがついている。
私のそばにお母さんと誉がいることに気づいて、口をポカーンと開けた。
お母さんが「あの子?」と耳打ちするから、頷いた。
お母さんがニコニコしながら会釈するから、永那ちゃんも気まずそうにペコリと頭を下げた。
誉の頭にはハテナマークが浮かんでいる。
「誰?」と聞かれたので「友達」と答えた。
「綺麗な子ね。…もう会えちゃった!」
お母さんがはしゃぎながら私の肩を叩く。
永那ちゃんが駆け寄ってきてくれる。
「あ、あの…」
永那ちゃんの耳が赤くなっている。
「ああ、ごめんね。なんか、押しかけるみたいにしちゃって…。待ち合わせが30分後って聞いてたから、まさかもういるなんて思わなくて」
「ああ…いえ、すみません」
「なんで永那ちゃんが謝るの?私達が悪いんだから」
「いや…っ、そんなことは」
誰とでも仲良くなれる、先生とも仲良くしてるような永那ちゃんが吃っているのが可愛い。
視線を感じて永那ちゃんを見ると、少し睨まれた。
永那ちゃんは気を取り直して、手に持っていた袋を差し出す。
「あの、これ。今日家にお邪魔しちゃうので」
「えー!ありがとう!」
お母さんが袋の中を覗き見て、「ここのクッキー美味しいよねえ!」と喜んでいる。
無駄にテンションが高い。
「お母さん、まだ行かないの?」
誉が眉間にシワを寄せている。
お母さんが誉の肩を小突く。
「あ、じゃあ…。穂、これ家に置いといて」
永那ちゃんから受け取った袋を私に渡す。
私が頷くと、お母さんは「ごゆっくり~」なんて不自然に言って、誉の背中を押す。
永那ちゃんと2人で、2人の後ろ姿を見送る。
「おい」
右の口角を上げながら、永那ちゃんが私の肩を小突く。
「なに?」
「わざとでしょ?」
私が笑うと、永那ちゃんにデコピンされる。
「痛いよ」
「わざとでしょ?」
顔が近づく。
「…はい」
「やっぱり」
永那ちゃんは笑みを浮かべながらため息をついた。
永那ちゃんが待ち合わせ時間よりもかなり早くにつくことはわかっていた。
わざと鉢合わせるようにしたのは、私だった。
でも、今日も早く来るとは限らなかったし、永那ちゃんがいなかったらいなかったで、それはそれでいいとも思っていた。
手を繋いで歩き出す。
「でもさ、お母さんが出かけるって言わなければ、どっちにしても家で会うことになったんだから、変わらないでしょ?」
「変わるよ」
永那ちゃんがムスッとしながら言う。
「心の準備ってのがあるでしょ?」
私が笑うと、ジーッと睨まれた。
「そんな、いたずらばっかりして…後で覚えてろよ。お仕置きだ」
見下ろされるような視線と、薄っすら笑う表情に、心臓がトクンと鳴る。
お母さんが仕事帰りに買ってきた小花柄の白いワンピースが、クローゼットの扉に掛かっている。
(また白い…)と思ったけど、お母さんが楽しそうにしていたので、今日着ることにした。
薄紫色の小花が散りばめられていて、涼しげな見た目。
顔を洗い、朝ご飯を食べていると、お母さんが起きてきた。
休日にこんな早起きなんて珍しい…と思っていたら、誉を叩き起こし始めた。
「お姉ちゃん、今日ね」
寝癖がぴょんぴょん跳ねて、まだ半分寝ている誉の肩を持って、お母さんが言う。
「お母さん、誉と2人で遊園地行ってこようと思って」
ぎこちない笑顔。
すぐ、気遣ってくれたのだとわかる。
「あの…ほら、私達がいると勉強、集中できないでしょ?」
「そんな…いいのに」
私が苦笑すると、お母さんは慌てる。
「いや、でも、ほら…えーっと…」
「お母さん、永那ちゃんに会いたくない?」
「え!?」
こんなにも普通に不安を口にできている自分に驚く。
「違う!違うよ、穂!」
立ちながら船を漕いでいる誉を放って、私のそばに駆け寄ってくる。
誉が床に倒れて、びっくりして目を覚ましたみたいだった。
「そうじゃなくて…」
お母さんは眉間にシワを寄せて、必死に言葉を探してる。
「ごめん、気遣ってくれただけだよね。ありがとう」
まだお母さんの目に不安そうな色が滲んでいる。
「お母さんは、本当に、穂のこと、応援してるよ。永那ちゃんにも会いたいって思ってるし…いつか、絶対会いたいって思ってる。だから、誤解しないで」
「うん、ありがとう」
私が笑いかけると、お母さんの眉がハの字になって、少し安心したみたいだった。
「今日、楽しむね」
そう言うと、お母さんが嬉しそうに笑った。
2人は私と一緒に家を出た。
駅までだけど、なんだか3人で出かけるなんて久しぶりで、もう楽しい。
駅につくと、時計台の下に永那ちゃんが立っていた。
永那ちゃんは前に公園デートで着ていた黒のテーパードパンツに、白のTシャツを着ていた。
耳には、控えめに小さなピアスがついている。
私のそばにお母さんと誉がいることに気づいて、口をポカーンと開けた。
お母さんが「あの子?」と耳打ちするから、頷いた。
お母さんがニコニコしながら会釈するから、永那ちゃんも気まずそうにペコリと頭を下げた。
誉の頭にはハテナマークが浮かんでいる。
「誰?」と聞かれたので「友達」と答えた。
「綺麗な子ね。…もう会えちゃった!」
お母さんがはしゃぎながら私の肩を叩く。
永那ちゃんが駆け寄ってきてくれる。
「あ、あの…」
永那ちゃんの耳が赤くなっている。
「ああ、ごめんね。なんか、押しかけるみたいにしちゃって…。待ち合わせが30分後って聞いてたから、まさかもういるなんて思わなくて」
「ああ…いえ、すみません」
「なんで永那ちゃんが謝るの?私達が悪いんだから」
「いや…っ、そんなことは」
誰とでも仲良くなれる、先生とも仲良くしてるような永那ちゃんが吃っているのが可愛い。
視線を感じて永那ちゃんを見ると、少し睨まれた。
永那ちゃんは気を取り直して、手に持っていた袋を差し出す。
「あの、これ。今日家にお邪魔しちゃうので」
「えー!ありがとう!」
お母さんが袋の中を覗き見て、「ここのクッキー美味しいよねえ!」と喜んでいる。
無駄にテンションが高い。
「お母さん、まだ行かないの?」
誉が眉間にシワを寄せている。
お母さんが誉の肩を小突く。
「あ、じゃあ…。穂、これ家に置いといて」
永那ちゃんから受け取った袋を私に渡す。
私が頷くと、お母さんは「ごゆっくり~」なんて不自然に言って、誉の背中を押す。
永那ちゃんと2人で、2人の後ろ姿を見送る。
「おい」
右の口角を上げながら、永那ちゃんが私の肩を小突く。
「なに?」
「わざとでしょ?」
私が笑うと、永那ちゃんにデコピンされる。
「痛いよ」
「わざとでしょ?」
顔が近づく。
「…はい」
「やっぱり」
永那ちゃんは笑みを浮かべながらため息をついた。
永那ちゃんが待ち合わせ時間よりもかなり早くにつくことはわかっていた。
わざと鉢合わせるようにしたのは、私だった。
でも、今日も早く来るとは限らなかったし、永那ちゃんがいなかったらいなかったで、それはそれでいいとも思っていた。
手を繋いで歩き出す。
「でもさ、お母さんが出かけるって言わなければ、どっちにしても家で会うことになったんだから、変わらないでしょ?」
「変わるよ」
永那ちゃんがムスッとしながら言う。
「心の準備ってのがあるでしょ?」
私が笑うと、ジーッと睨まれた。
「そんな、いたずらばっかりして…後で覚えてろよ。お仕置きだ」
見下ろされるような視線と、薄っすら笑う表情に、心臓がトクンと鳴る。
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