いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
86 / 595
2.変化

86.友達

しおりを挟む
永那ちゃんとのあれ・・も。
私にとっては不設楽なことで、不必要なことで、ずっと意識的に避けてきた。
“意識的に”ということは、裏を返せば、物凄く興味があったのだと、今ならわかる。
だってこんなにも…こんなにも、だめだとわかっているのに、求めてる。
自分が自分についていけないほど、私の体は想像以上に彼女を求めていて、怖くなる。
隣の部屋に誰がいてもおかまいなしに彼女を求めようとした自分が怖い。
キュウキュウと締め付ける、この下腹部が憎い。
でも、憎い以上に、こんなにも心が満たされることに幸せを感じる。
ずっと見てみぬフリをしていた自分の寂しさとか、気づかずにつけていた重りとか、そういうものから解放されていくような気持ちにさせられる。
甘えていいんだって、泣いていいんだって、鎧を脱いでもいいんだって、そう、言ってもらえているような気持ちになる。
…何も考えずに笑っていられた日に、戻れたような。

そう。
お父さんがまだいて、お母さんが笑っていて、誉が生まれた…そんな日に。
いつの間にかお母さんを“お母さん”と思えなくなっていたことにも気づかなかった。
お母さんは私の“お母さん”なんだって、お母さんはロボットか何かじゃなくてちゃんと人間なんだって思えた。
ロボットみたいだったのは私のほうで、感情を殺していたのは私のほうで、何もかもを切り捨ててきたのは…私だったんだ。
こんなことを知れたのも、永那ちゃんが私をグイグイ引っ張って行ってくれるから。
今までの、ハリボテみたいな世界を壊して、永那ちゃんはどんどん私を新しい世界に連れて行ってくれる。
そんな永那ちゃんが、私は好きなんだ。

私の、ほんの些細ないたずらを、彼女は見逃さなかった。
そのいたずらは、ずっと私が無視してきた私の本心かんじょうからの、私に対する小さな抵抗だったのだと思う。
「気づいてよ」って、切り捨ててきた感情が声をあげたのだと思う。
彼女は私の本心を見逃さず、受け止めてくれた。
“起きないと、いたずらしちゃいますよ”
インターネットのサイトの広告に載っていたエッチな漫画の台詞。
もちろん、広告をクリックしたわけではない。
点滅するように漫画のワンシーンが広告として出ていただけだ。
それをたまたま目にして、ただなんとなく、言ってみただけだった。
たまたま目にして、嫌悪感を抱いたのに、逆に意識してしまって、口から出た。
(なんであんなことを言ってしまったんだろう?)と後悔した。
あの時の私には、本当の私が見えていなかったから。
でもきっと誰かに気づいてほしかったんだ。
その“誰か”が、永那ちゃんだったんだ。

「穂?」
鏡に、永那ちゃんが映る。
永那ちゃんが不安を顔に浮かべている。
「…ごめんね」
私はつい頰を緩める。
「なにが?」
振り向いて、彼女をまっすぐ見る。
永那ちゃんは目を彷徨わせて、口を尖らせる。
パンツ・・・取ったこと?」
謝るなら返してよ…と内心ツッコんで、笑いながら息が溢れる。
「後でちゃんと返してよ?何するのか知らないけど」
「…そのうちね」
とんだ変態に捕まってしまったものだ。
私は永那ちゃんを抱きしめる。
「好きだよ、永那ちゃん」
永那ちゃんが抱きしめ返してくれる。
「私も、好き。穂」
「プレゼントありがとう。大事にするね」
永那ちゃんの抱きしめる力が強まる。
スーッと空気を吸って「うん」と頷く。

「ところで永那ちゃん」
「ん?」
「私、どんな顔して優里ちゃんと佐藤さんのところに行けばいい?」
彼女の肩に指を食い込ませる。
「へ?」
素っ頓狂な声が返ってくる。
グググと指に力を込めると「痛い痛い痛い」と永那ちゃんが叫ぶ。
「ふ、普通に、普通の顔で、いいんじゃない?」
私はジーッと彼女を睨む。
彼女は肩を擦って、指はもう離れたのに、まだ痛がっている。
私は「ハァ」と息を吐く。
「恥ずかしすぎて、もう会えないよ」
「えー?大丈夫だよ」
なにが大丈夫なの?
キッと睨むと、永那ちゃんは目をまん丸くする。
「ほら、顔がまだ濡れてるよ?」
永那ちゃんは誤魔化すようにタオルを取って、私の顔を拭いてくれる。
私はそのタオルで顔を半分隠したまま、リビングに戻った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...