いたずらはため息と共に

常森 楽

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196.文化祭準備

■■■

「この前、あなたの机に資料を置きに行ったとき、机の中から、エロ本が顔を出してたの。…これからは、気をつけたほうがいいんじゃない?」

なぜ、私は今、こんなことになっているのでしょうか。
生徒会長の空井そらいさんが資料室に行って、副生徒会長の日住ひずみ君に「空井さんに資料をわたしてきてほしい」とお願いされたので、行っただけなのです。
決して、2人の秘密の関係を覗き見たかったわけではないのです。
…見たことで失神しかけたのは事実ですが。
そして、なぜ、今、私は、こっそりエロ本を持ってきていたことを、バラされているのでしょうか。
これは…あれですね。
“絶対言うんじゃねえよ、クソ陰キャが”と、暗に言われているんですね。
はい、わかっています。
絶対言いません。
…なので、どうか私を社会的に抹殺しないでください。お願いします。

…エロ本と言ってもBLもので、最近はアニメオタクにも優しい世の中になったと言いますが、さすがにエロ本を持っていたと知られたら、抹殺されること間違いなしです。
今までひっそり隠れていたのに。
目立たないように、誰にも目をつけられないように、努力してきたのに。
よりにもよって、こんな、陽キャの頂点みたいな人に目をつけられるなんて…思いもしませんでした。
「確認だけど、相手が誰か、わかってるよね?」
心臓がかつてない程に働いています。
運動が苦手で、運動をするたびにぶっ倒れそうになりますが、それ以上に心臓が動いていて、うるさいです。
「ねえ、聞いてる?」
「あ、あ、あ、あ、あ…あの…わ、私、だ、だ、誰にも言いません」

「そうじゃなくて、あたしがキスしてた相手、誰かわかってるか聞いてるの」
空井さんです。
空井さんでした。
最近、あの両角もろずみさんとお付き合いされていると公表なさった、空井さんです。
佐藤さとうさんの目の下がピクピクと痙攣して、怒りを表しています!
ギャー!やだー!いじめないでー!
「わかってるの?」
「そ、そ、そ、空井さ、ん…」
「ハァ」と大きくため息をつかれる。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
言いません、絶対に誰にも言いません。
許してください。許してください。

佐藤さんは机に乗っている椅子をおろして、足を組んで座ります。
私よりも低い位置にいるはずなのに、ものすごく見下ろされているような、そんな圧を感じます。
「ちなみに永那えなは、このこと、知ってるから」
…………え?
何度瞬きしても、景色は変わりません。
「空井さんは永那のだけど、あたしは空井さんのなの」
バッコンバッコン心臓が鳴って、意識が朦朧としてきました。
全く理解が追いつきません。
「だから永那に告げ口しても意味がないし…もしあなたがみんなにこのことを言ったら、あなたの秘密も…」
「はい!はい!絶っ対に、絶っっっ対に言いません。ど、どんな拷問を受けようとも、私は口を開きません!」
過去一大きな声が出たと思います。
それくらい、私の覚悟は決まっているということです。
どうか、伝わってください。
どうか、どうか…。

プッと彼女が笑いました。
…綺麗な顔。
ハッ…!調子に乗りました。すみません。
「拷問ってなに?」
優しく微笑まれて、私の心臓が、違う意味で、ドキドキ…しているような…。
「…じゃあ、まあ…これは、2人だけの秘密、ね?」
2人だけの…。
佐藤さんは唇に人差し指をつけて、私を見ます。
「空井さんにも、永那にも、言わないで?…お願い」
美女の上目遣い…!!!くはっ……!
こんな…こんな…お願いのされかた…反則、ですね。
「は、はい…もちろんです」
「よかった」
ようやく私は解放されて、彼女が教室を出るのと同時に膝から崩れ落ちました。

中学のとき、私は友達とBLについて話すのがとても楽しみでした。
お店でBL本を探しているとき、たまたま目に入った百合の漫画。
なんとなく買ってみて、どハマりしました。
友達に言うと“百合はちょっと…”と言われ、ショックでした。
それからはBLは友達と、百合は1人で楽しむようになりました。
高校に入って、2人の友人ができました。
彼女達は百合好きで、私は興奮しました。
私はリアルでの推しカプはいなかったのですが、2人が両角さん×佐藤さんカプを推しているという話を楽しそうにするので、自然と私もリアルに興味を持つようになりました。
…私は、空井さん派でした。
空井さんと両角さん、あるいは、空井さんと佐藤さんがくっつけばいいな…なんて思っていました。
でも友人の2人からは賛同を得られそうになかったので、その想いはひっそりと、自分の頭のなかだけであたためていたのです。
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