いたずらはため息と共に

常森 楽

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204.文化祭

3時半に、あと30分で文化祭が終わることを告げる。
4時10分前にも、もう一度告げる。
5分前になったら「本日は、○○高校文化祭にお越しいただき、ありがとうございました。明日も朝10時から午後4時まで開催予定なので、是非お越しください」と、4時になるまで繰り返した。
4時ちょうどに「本日の文化祭は、以上をもちまして、終了となります。みなさん、おつかれさまでした。片付けなど、作業のある方は、本日8時までに作業を終えてください」と3度繰り返して、マイクを切った。
日住君が音楽の音量を小さくして、フフッと笑った。
「今日は1日、大変でしたねー」
「まだまだ、今からも大変だよ?」
日住君は机に突っ伏す。
「そうですよね…残る必要もないのに、騒ぎたいがために残る生徒もいるんですよね…」
「うん」
去年、それで大変だった。

案の定、廊下をバタバタ走り回って、服を脱ぐ生徒がいた。
先生と、生徒会の男子メンバーが力づくで止め、なんとか押さえる。
8時になっても下校しようとしない生徒もいて、慎重に見回りをしつつ、早く帰るように促した。

翌日、千陽と副生徒会長の役割が交換となった。
クラスでも“千陽が来ると困る”とのことで、放送室での隔離は最適に思えた。
千陽は「みんなひどい」と頬を膨らませていたけど「でもラッキー」とニヤけてもいた。
「変なことしないでよ」と念押ししたけど「変なことってなに?」と言われて、無視した。
一通り音楽のかけかたを教えて、文化祭が始まる前に練習させた。
千陽は器用で、1回教えただけで覚えたみたいだった。
12時から2時までは、2人で休憩。
その間は、副生徒会長の2人が放送を担当してくれる。

10時の、文化祭開始の放送をした後は、音楽を流しつつ、しばらく待機。
何かしらの緊急の連絡が入れば、私が動かなければならない。
基本的には副生徒会長が対応してくれることになっているけれど、昨日みたいにオブジェが倒れる…なんてことがあれば、私が行かざるを得ない。
その間の放送は…千陽、できるかなあ?
一応それも教えたけど、彼女は心底面倒そうな顔をしていた。
何事もないことを願いたい。
すい
抱きしめられる。
「だーめ」
「これくらい」
「だめ」
彼女の手を解く。
彼女は頬を膨らませる。
仕方ないから、手を繋ぐ。
嬉しそうに顔がヘニャッとなるから、良しとした。

体育館での催し物の時間が近づくと、それを放送する。
トランシーバーから迷子のお知らせが入れば、その人の名前や特徴を言って、相手(主に保護者等)に校門に来てもらうように告げる。
たまに“友人を探してる”という迷子のお知らせもあるから、困りものだ。
他の時間は、各クラスの出店紹介。
千陽は真面目に音楽の調整をしたり、迷子のお知らせが入ったときには言われた名前や特徴をメモしたり、各クラスの出店情報が書かれている紙を捲ってくれたりした。
「ねえ、穂?」
「ん?」
「今日、あたし達、帰るの遅くなるでしょ?」
今日は文化祭に参加している全員、片付けがあるから、多くの生徒が8時近くまで残ることになる。
片付けが早く終わったクラスは、打ち上げをすることもあるらしい。
でも文化祭委員には、最後に、校内全体の清掃を手伝ってもらう予定だから、クラスの片付けが早く終わろうが終わらなかろうが、千陽は8時まで残ることになる。

「そうだね」
千陽の顔が浮かない。
「どうしたの?」
「…怖いの」
文化祭準備で7時近くまで残ることはあったけど、さすがに8時までは残らなかった。
…7時は大丈夫だけど、8時だと遅いから怖いってことなのかな?
「今日ね、家にパパもママもいないの」
彼女は椅子の上で膝を抱えながら、私を横目に見る。
スカートが短いから、太ももが露わになっている。
「8時に帰っても、家の中は真っ暗…それが、怖い」
「…そっか。じゃあ…うちに泊まる?」
「…穂が、あたしの家に来るんじゃ、だめ?」
上目遣いに見られて、心臓が跳ねる。
「え、えーっと…」
「あたし、疲れたから…今、あんまり…お母さんとたかと、話せる気がしなくて」
元々、千陽は人といても、口数が多い方ではないのは知っていた。
それを永那ちゃんがカバーしていたから、単純に、人が周りに集まってきていたのかもしれない。

「そっか。…わかった」
「来てくれるの?」
「うん。…ああ、でも、明日永那ちゃんと会う予定だから…朝には帰らなきゃいけないけど」
「ふーん…セックスするの?」
直球だなあ…。
一応、マイクがちゃんとオフになってるか確認する。
「んー…」
答えにくい。
「べつに、隠さなくてもいいじゃん」
彼女は唇を尖らせて、不機嫌そうにする。
「…うん。私は…シたい…」
…自分で言って、すごく恥ずかしい。
両手で顔を覆う。
「いいなあ」
それっきり、会話はなかった。
副生徒会長の2人が来て、私達は放送室を出た。
千陽に腕を組まれる。
彼女が楽しそうに笑うから、自然と私も笑みが溢れた。
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