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229.先輩
自分にしてあげられることがないのが、辛い。
私は、永那ちゃんに…何をしてあげられるんだろう。
学校の先生に相談するのが一番良いと思ったけど、永那ちゃんが嫌だと言うなら、それはできない。
…お姉さんは、なんで一緒に住んでいないんだろう。
お祖父さんは、どうして助けてあげないんだろう。
どうして、お母さんは…。
離婚したお父さんは、どこに…。
そんな、考えても仕方のないことを延々に考えていた。
…私のお父さんは、どこにいるんだろう。
何をしているんだろう。
元気にしてるのかな。
私のこと、覚えてるかな。
誉のことは…?
誉が料理をしてくれる。
「誉、上手になったね。もうなんでも作れちゃうんじゃない?」
「大袈裟だよ」
そう言いつつも、誉が嬉しそうに笑う。
「誉」
「なに?」
「お父さんいなくて寂しい?」
「あっつ」
手をぶんぶん振りながら、誉が飛び跳ねる。
「大丈夫?」
「う、うん…なに?急に」
「いや…どうなのかな?って」
「んー…わかんない。姉ちゃんが、いてくれるし…そんな、寂しくはないと、思う。…でも、そりゃあ、いてくれたらどんなかなあ?とは思ったりするよ」
「そっか」
「姉ちゃんは…寂しいの?」
誉が上目遣いに私を見る。
「今は、そうでもない」
「そっか」
「誉、一緒にいてくれてありがとう」
誉はパチパチと瞬きをした後、頬をピンク色にして、唇を尖らせた。
ご飯を食べた後、部屋で勉強をしていたら、スマホの通知が表示された。
『あたし、本当に明日行っても大丈夫なのかな?』
千陽もいてくれたら、何か状況が変わるんじゃないかと思って、流れで千陽を誘ってしまった。
でも千陽からすれば、永那ちゃんの事情を昨日初めて知ったわけで、戸惑うのも無理はない。
部屋のドアを閉める。
フゥッと息を吐いて、イヤホンをつけて、通話ボタンを押す。
「穂」
「千陽、ごめんね」
「なにが?」
「急に、巻き込んじゃって」
「べつに…永那のことは、ずっと知りたかったから、知れて嬉しかった。あたしには、教えてくれると思ってなかったから」
「…そっか」
「昔…永那の家に行きたいって言ったことがあったの。でも“絶対嫌”って言われて…本当にあたしが行っても大丈夫なのか、心配になっただけ」
「…そう、だったんだ。ごめんね、何も知らずに…誘って」
「謝らないで。…ただ、大丈夫なのか、聞きたかっただけだから。永那の家に行けるなんて、それも、あたしにとっては嬉しいことだし。でも…お母さんのこととか…その…穂は前に会ったんだよね?あたしが会っても平気なのかな?」
「そっか。…お母さんは、私が会ったときは、すごく優しくて、可愛い人だったよ」
「可愛い人?」
「うん。少し…無邪気な子供みたいな…そんな雰囲気だった」
「ふーん…」
「緊張する?」
「…うん」
「お母さんは、千陽が家に行っても、喜んでくれると思うし…永那ちゃんも“嫌じゃない”って言ってたから、きっと大丈夫。嫌なら嫌って言ってくれると思うから」
「わかった。ちょっと、安心した」
「…ありがとう、千陽。私1人じゃ、どうすればいいのか、わからなくて…。永那ちゃんに何もしてあげられないことが、悔しくて」
「大丈夫」
「え?」
「あたし、穂と一緒にいると安心する。穂が、いてくれるだけで、安心する。永那も同じだと思う。穂が大事にしてくれようとするたびに…心が…あったかくなる。その気持ちが、一番嬉しいの」
ポタポタと、涙が机に落ちる。
「穂、好き」
いつも言ってもらっている言葉なのに、いつもより喜びが胸に溢れる。
涙が溢れて、胸が締めつけられて、何も返せない。
「好き、大好き」
耳に直に響く彼女の声が、あまりに優しくて。
「好き」
必死に鼻を啜って、目を拭って。
「私も…千陽が好き」
なんとか返す。
フフッと彼女が笑って「あんまり誰かと通話ってしたことがなかったけど、穂となら毎日してもいいかも」なんて言う。
「ま、毎日は…」
「冗談。…半分くらいは」
絶対半分じゃないじゃん。
焦っていた気持ちが、落ち着いていく。
「時々、してもいい?」
「うん」
「好き」
熱烈だなあ。
「じゃあ、また明日。穂」
「うん、また明日」
プツッと通話が切れる。
しばらく机に突っ伏して、呼吸に集中する。
千陽の“好き”がまだ脳に響いてる。
永那ちゃんの叫びが蘇って、目を閉じた。
今度は私が、永那ちゃんを引っ張り出してあげたい。
違う世界に連れていってあげたい。
どうにもならないことはあったとしても、それでも。
私1人ではどうにもならなくても、千陽となら…。
もしかしたら、優里ちゃんにもお願いして。
そうやって、1人で閉じこもるんじゃなくて、みんなを頼って。
…そう、教えてくれたのは、永那ちゃんだったから。
永那ちゃんは“何かをしてあげようと思ったわけじゃない”と言っていたけど、それでも…。
私は、永那ちゃんに…何をしてあげられるんだろう。
学校の先生に相談するのが一番良いと思ったけど、永那ちゃんが嫌だと言うなら、それはできない。
…お姉さんは、なんで一緒に住んでいないんだろう。
お祖父さんは、どうして助けてあげないんだろう。
どうして、お母さんは…。
離婚したお父さんは、どこに…。
そんな、考えても仕方のないことを延々に考えていた。
…私のお父さんは、どこにいるんだろう。
何をしているんだろう。
元気にしてるのかな。
私のこと、覚えてるかな。
誉のことは…?
誉が料理をしてくれる。
「誉、上手になったね。もうなんでも作れちゃうんじゃない?」
「大袈裟だよ」
そう言いつつも、誉が嬉しそうに笑う。
「誉」
「なに?」
「お父さんいなくて寂しい?」
「あっつ」
手をぶんぶん振りながら、誉が飛び跳ねる。
「大丈夫?」
「う、うん…なに?急に」
「いや…どうなのかな?って」
「んー…わかんない。姉ちゃんが、いてくれるし…そんな、寂しくはないと、思う。…でも、そりゃあ、いてくれたらどんなかなあ?とは思ったりするよ」
「そっか」
「姉ちゃんは…寂しいの?」
誉が上目遣いに私を見る。
「今は、そうでもない」
「そっか」
「誉、一緒にいてくれてありがとう」
誉はパチパチと瞬きをした後、頬をピンク色にして、唇を尖らせた。
ご飯を食べた後、部屋で勉強をしていたら、スマホの通知が表示された。
『あたし、本当に明日行っても大丈夫なのかな?』
千陽もいてくれたら、何か状況が変わるんじゃないかと思って、流れで千陽を誘ってしまった。
でも千陽からすれば、永那ちゃんの事情を昨日初めて知ったわけで、戸惑うのも無理はない。
部屋のドアを閉める。
フゥッと息を吐いて、イヤホンをつけて、通話ボタンを押す。
「穂」
「千陽、ごめんね」
「なにが?」
「急に、巻き込んじゃって」
「べつに…永那のことは、ずっと知りたかったから、知れて嬉しかった。あたしには、教えてくれると思ってなかったから」
「…そっか」
「昔…永那の家に行きたいって言ったことがあったの。でも“絶対嫌”って言われて…本当にあたしが行っても大丈夫なのか、心配になっただけ」
「…そう、だったんだ。ごめんね、何も知らずに…誘って」
「謝らないで。…ただ、大丈夫なのか、聞きたかっただけだから。永那の家に行けるなんて、それも、あたしにとっては嬉しいことだし。でも…お母さんのこととか…その…穂は前に会ったんだよね?あたしが会っても平気なのかな?」
「そっか。…お母さんは、私が会ったときは、すごく優しくて、可愛い人だったよ」
「可愛い人?」
「うん。少し…無邪気な子供みたいな…そんな雰囲気だった」
「ふーん…」
「緊張する?」
「…うん」
「お母さんは、千陽が家に行っても、喜んでくれると思うし…永那ちゃんも“嫌じゃない”って言ってたから、きっと大丈夫。嫌なら嫌って言ってくれると思うから」
「わかった。ちょっと、安心した」
「…ありがとう、千陽。私1人じゃ、どうすればいいのか、わからなくて…。永那ちゃんに何もしてあげられないことが、悔しくて」
「大丈夫」
「え?」
「あたし、穂と一緒にいると安心する。穂が、いてくれるだけで、安心する。永那も同じだと思う。穂が大事にしてくれようとするたびに…心が…あったかくなる。その気持ちが、一番嬉しいの」
ポタポタと、涙が机に落ちる。
「穂、好き」
いつも言ってもらっている言葉なのに、いつもより喜びが胸に溢れる。
涙が溢れて、胸が締めつけられて、何も返せない。
「好き、大好き」
耳に直に響く彼女の声が、あまりに優しくて。
「好き」
必死に鼻を啜って、目を拭って。
「私も…千陽が好き」
なんとか返す。
フフッと彼女が笑って「あんまり誰かと通話ってしたことがなかったけど、穂となら毎日してもいいかも」なんて言う。
「ま、毎日は…」
「冗談。…半分くらいは」
絶対半分じゃないじゃん。
焦っていた気持ちが、落ち着いていく。
「時々、してもいい?」
「うん」
「好き」
熱烈だなあ。
「じゃあ、また明日。穂」
「うん、また明日」
プツッと通話が切れる。
しばらく机に突っ伏して、呼吸に集中する。
千陽の“好き”がまだ脳に響いてる。
永那ちゃんの叫びが蘇って、目を閉じた。
今度は私が、永那ちゃんを引っ張り出してあげたい。
違う世界に連れていってあげたい。
どうにもならないことはあったとしても、それでも。
私1人ではどうにもならなくても、千陽となら…。
もしかしたら、優里ちゃんにもお願いして。
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