いたずらはため息と共に

常森 楽

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4.踏み込む

250.爆弾発言(237.先輩と同時進行)

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木曜日、永那ちゃんの家にみんなで行く日。
私は“お姉ちゃんの説得は厳しそう”と言う永那ちゃんの言葉を聞いて、お母さんに話す決心をした。
少しずつ、時間をかけて納得してもらえれば、もしかしたら…と、期待している。
「中間テストが終わったら、すぐに修学旅行だね」
私が言うと、優里ちゃんが顔を輝かせる。
「そうだね!楽しみ~!それだけがテストを頑張ろうと思える希望の星だよ」
「修学旅行?」
お母さんが首を傾げる。
「はい。今月末に行くんです」
永那ちゃんは頭をポリポリ掻く。
「3泊4日。…お母さん、ひとりになっちゃうけど」
「え~!楽しんでおいで~!」
「いいの?…前は“嫌だ”って言ってたけど」
お母さんからもそうハッキリ言われていたなんて、知らなかった。
「そうだっけ?」
「すぐ忘れんだから…」
えへへとお母さんが笑う。

「私には~、これがあるし~」
お母さんは大事そうに、私達と一緒に撮った写真を掲げる。
…私も写真印刷して部屋に飾ろうかな?なんて考える。
「少しくらい、寂しくないもん」
「ホントに?」
永那ちゃんが左眉を上げる。
「ホント~!みんなと、楽しんでおいで?」
お母さんが笑う。
永那ちゃんは何度も瞬きして、頷く。
すんなりお母さんからの了承が得られて、なんだか拍子抜けだ。
…良いことだけれど。
でも“すぐ忘れる”と永那ちゃんは言っているし、修学旅行までに何度か話そう。
何度も話題に出れば、お母さんの不安も、少しはやわらぐんじゃないかと思ってる。
永那ちゃんと修学旅行を楽しみたい。
文化祭は来年もあるけれど、修学旅行は今年しかないんだ。
2人にとって悔いのないように、できることは精一杯やろう。

「この前班分けしたんだよねー!」
優里ちゃんが言う。
「まさか千陽が森山さんを誘うとは思わなくてびっくりしたよ!文化祭で仲良くなったんだよね?」
千陽が頷く。

5人1組のグループに分かれて、当然のように永那ちゃんと千陽は他の人からたくさんのお誘いを受けていた。
永那ちゃんと千陽がみんなの誘いを断りながら私の席に来て、久しぶりに恥ずかしさを感じた。
クラスメイトと話すのにもだいぶ慣れたけど、やっぱり、全員から注目を浴びるのはまだ慣れない。
…委員長の仕事は普通にこなせるのに、変な感じ。
優里ちゃんは部活の友達もいるみたいだったけれど、慌てて2人の後を追いかけていた。
「ひどい!ひどい!」
優里ちゃんが半べそをかきながら言うから、千陽が楽しそうに笑って、永那ちゃんが「優里いたの?」とからかった。
「もう!いいよ!みんな私と一緒にいたくないんだ!」
叫ぶ優里ちゃんの肩を抱いて「んなわけないじゃん。優里がいるのが当たり前すぎて、つい、さ?」と永那ちゃんが言う。
「むー…っ」
「優里がいないとつまんないよ」
永那ちゃんが流し目で優里ちゃんを見る姿がかっこよくて、前髪を指で梳いた。

優里ちゃんがいないと、永那ちゃんの独断と偏見で全ての予定が決まってしまうことがわかった。
「廃墟見に行こう」
「え?意味わかんないんだけど…定番のところに行くでしょ!?」
「寺なんか行きたくない」
「…いやいや、それはクラス全員で行くところだからね?」
「昼はメイド喫茶で食べよう」
「その趣味は永那だけだから!」
千陽は我関せずと髪をいじっていた。
森山さんは俯きながら、たまに驚いた表情を見せながらも、何も意見を出さなかった。
「穂ちゃん…」
縋るように見られて、私は苦笑する。
私はみんなが行きたいところを…という考えだったけど、なかなか決まりそうになかったから、自由行動で行くところは優里ちゃんと決めた。
永那ちゃんは、最初こそ文句を言っていたけれど「永那ちゃん、私が行きたいところ、行きたくない?」と聞いたら「行きます!行きたいです!行きましょう!」と全面的に賛成してくれた。

「自由行動で行くとこ決めるの、ホント大変だった…」
優里ちゃんが座卓に顔を突っ伏す。
「そうなの?楽しそうなのに~」
「いや~…」
優里ちゃんは永那ちゃんを睨むけど、永那ちゃんはニヤリと笑うだけだった。
「いいな~、私も行きた~い!」
「いっそ、永那の代打で来てもいいと思います!」
優里ちゃんが言うと「え~!?」とお母さんが驚きながら笑う。

私と優里ちゃんがご飯を作って、みんなで食べた。
5人で食べるにはかなり狭かったけれど、お母さんは嬉しそうに永那ちゃんの肩に寄りかかった。
隣に座る私の腕を掴みながらだったから、お母さんの食事は全然進んでいなかった。
「ほら、穂が困ってるよ」
永那ちゃんが言うと、お母さんに「嫌?」と上目遣いに見られて「全然、嫌じゃ、ないです」と笑う。
「ほら~!穂ちゃんは優しいもん」
永那ちゃん、お母さん、私、千陽、優里ちゃんの順で円になって座っている。
千陽の足が私の足に触れていて、彼女を見たけど、目は合わない。
わざとなのか、そうじゃないのか、微妙にわからないのが…なんか、少し悔しい。
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