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5.時間
330.考える
永那ちゃんとのこの期間も、限定。
千陽との関係も、限定。
…いつも楽しい時間はあっという間に過ぎて、何もかもが今しかないように思えて…全てを、取りこぼしたくなくて、どうすればいいかわからない。
自分の気持ちもブレブレで、右往左往しているうちに、いろんなことが過ぎ去っていく。
毎日必死で、淡々とした日々が懐かしく思える。
四つん這いに、窓のそばに寄る。
カーテンを少し開けて、「ハァ」と息を吐く。
白い円が窓に描かれる。
指で線を引く。
永那ちゃんの家の前には、誰も住んでいないであろう平屋の廃屋が立っている。
屋根が傾いて、草が生い茂っている。
夏は緑が綺麗にも見えるのだろうけれど、冬は寂しげで、指で突いたらすぐにでも壊れてしまいそう。
こうして上から見ると、なおのこと、そう思えた。
トントントンと階段を上る金属音がした。
…誰か、朝帰りだったのかな?なんて思っていたけど、玄関のドアがノックされて、肩が上がる。
すり足で玄関に向かう。
途中、部屋を覗くと、まだ永那ちゃんは寝ていた。
私は覗き穴を見た。
「千陽」
かじかむ手で鍵を開けて、ドアを開く。
千陽は目を大きく開いていた。
すぐにはにかんで、私に抱きついた。
「千陽…早いね」
彼女の良い香りが、ふわりと漂う。
「眠れなくて」
「そっか…」
「起きてるなんて、思わなかった」
「たまたま早く起きたの」
まるで、千陽のために早く起きたみたい。
彼女を中に入れる。
「寒かったでしょ?」
「うん」
千陽はこたつに座って、頬杖をつきながら私を見る。
彼女のお茶を淹れて、ついでに自分のコップにも注ぐ。
私もこたつに入ると、手を繋がれた。
「私が起きてなかったら、どうしてたの?」
「んー…ファミレスにでも行ったかな」
「そっか」
静かな時間が、流れる。
お茶を飲んで、空を見る。
徐々に明るくなっていく。
「昨日ね」
「うん」
「デートしたの」
千陽の澄んだ瞳が、私を試すように細くなる。
「だ、誰と…?」
「穂の知らない人」
「学校の、人?」
「ううん。レズビアンのね、集まりに参加したことがあって…そこで知り合った人」
「レズビアンの…」
「あたしも、穂と永那みたいな…特別な関係になれる相手が欲しくて」
千陽がお茶を飲む。
「そっか」
私は座卓の木目をジッと見た。
千陽は、限定品…。
私は何も聞けなくて、千陽も何も話さなくて、ただ、2人で手を繋いだまま、時が過ぎていく。
空はもう、澄んだ綺麗な水色に染まっていて、空気を裂くような太陽の光が射し込み始めた。
街が目を覚ましたかのように鳥が鳴いて、近隣の家のドアが開く音もした。
「キスされた」
心臓がドクドクと脈打つ。
「まだ2回しか会ってないのに」
フッと彼女が笑う。
「メッセージのやり取りは、ずっと、してたけどさ」
彼女が髪を耳にかける。
気づけば彼女のことを見ていて、彼女と目が合った。
彼女が破顔する。
「そんな…そんな顔、しないで」
繋いでいた手が離されて、頬が、あたたかい彼女の手に包まれる。
…どんな、顔、してた?私。
「キスって、人によって、全然違うんだね」
…聞きたく、ない。
「穂も、永那も全然違うし」
呼吸が、浅くなる。
私の目からポタ、ポタと涙が落ちる。
千陽が、笑う。
「…怖かった」
痛みを隠すように、彼女が笑う。
ギュッと…ギュッと、強く、彼女を抱きしめた。
「早く、2人に、会いたかった」
涙が流れ落ちて、その跡が、冷たい空気に触れる。
「あたし…あたし…どうすればいいか、わからない」
「焦らなくていいよ」
「そう、かなあ?」
彼女の声が震える。
「羨ましいの、2人が…。2人に、嫉妬したくない」
目を閉じると、まだ涙が溢れる。
…嫉妬。
胸がザワついて、居心地が悪くなって、抱きたくない暗い感情。
千陽も、一緒なんだ…。
一緒?
一緒じゃ、ない。
私と永那ちゃんは恋人関係だけど、千陽は、違う。
かける言葉が、見つからない。
だから私は、彼女を見つめて、唇を重ねる。
「怖い?」
「全然。して?」
もう一度重ねて、何度も、重ねて。
お互いを、求め合う。
気づけば彼女を床に押し倒していて、ただ、彼女を綺麗にするみたいに、愛を降らせる。
雪が、肌に触れて溶けるように。
「なんで、2人なら…いいんだろう?」
彼女の首に吸い付いていた唇を離して、顔を上げる。
「あたし…ホント、2人の子供になれたらいいのに」
彼女が微笑む。
「そしたら何があっても“怖かった”って、すぐ言える。怖くて、夜眠れないなんてことも、きっとない。きっと…嫉妬も、しないでしょ?」
視界がまたボヤけて、雫が落ちないように服の袖で拭うのに、溢れて止まらない。
「千陽、千陽…千陽…千陽…」
彼女の胸で泣く。
私が泣く場面じゃないはずなのに。
「なに泣かせてんだ?」
「永那、おはよ」
「おー」
永那ちゃんが起きたことで、頭が急に冷静になって、恥ずかしくなった。
「穂、どした?」
頭を撫でられる。
永那ちゃんの優しい声がそばで聞こえて、引いたはずの涙が、まだ零れる。
「てか千陽早くね?」
「夜寝られなかった」
「ふーん」
「永那も早いじゃん」
永那ちゃんは「あーっ」と大きくあくびをして、「まあねー」と立ち上がる。
千陽との関係も、限定。
…いつも楽しい時間はあっという間に過ぎて、何もかもが今しかないように思えて…全てを、取りこぼしたくなくて、どうすればいいかわからない。
自分の気持ちもブレブレで、右往左往しているうちに、いろんなことが過ぎ去っていく。
毎日必死で、淡々とした日々が懐かしく思える。
四つん這いに、窓のそばに寄る。
カーテンを少し開けて、「ハァ」と息を吐く。
白い円が窓に描かれる。
指で線を引く。
永那ちゃんの家の前には、誰も住んでいないであろう平屋の廃屋が立っている。
屋根が傾いて、草が生い茂っている。
夏は緑が綺麗にも見えるのだろうけれど、冬は寂しげで、指で突いたらすぐにでも壊れてしまいそう。
こうして上から見ると、なおのこと、そう思えた。
トントントンと階段を上る金属音がした。
…誰か、朝帰りだったのかな?なんて思っていたけど、玄関のドアがノックされて、肩が上がる。
すり足で玄関に向かう。
途中、部屋を覗くと、まだ永那ちゃんは寝ていた。
私は覗き穴を見た。
「千陽」
かじかむ手で鍵を開けて、ドアを開く。
千陽は目を大きく開いていた。
すぐにはにかんで、私に抱きついた。
「千陽…早いね」
彼女の良い香りが、ふわりと漂う。
「眠れなくて」
「そっか…」
「起きてるなんて、思わなかった」
「たまたま早く起きたの」
まるで、千陽のために早く起きたみたい。
彼女を中に入れる。
「寒かったでしょ?」
「うん」
千陽はこたつに座って、頬杖をつきながら私を見る。
彼女のお茶を淹れて、ついでに自分のコップにも注ぐ。
私もこたつに入ると、手を繋がれた。
「私が起きてなかったら、どうしてたの?」
「んー…ファミレスにでも行ったかな」
「そっか」
静かな時間が、流れる。
お茶を飲んで、空を見る。
徐々に明るくなっていく。
「昨日ね」
「うん」
「デートしたの」
千陽の澄んだ瞳が、私を試すように細くなる。
「だ、誰と…?」
「穂の知らない人」
「学校の、人?」
「ううん。レズビアンのね、集まりに参加したことがあって…そこで知り合った人」
「レズビアンの…」
「あたしも、穂と永那みたいな…特別な関係になれる相手が欲しくて」
千陽がお茶を飲む。
「そっか」
私は座卓の木目をジッと見た。
千陽は、限定品…。
私は何も聞けなくて、千陽も何も話さなくて、ただ、2人で手を繋いだまま、時が過ぎていく。
空はもう、澄んだ綺麗な水色に染まっていて、空気を裂くような太陽の光が射し込み始めた。
街が目を覚ましたかのように鳥が鳴いて、近隣の家のドアが開く音もした。
「キスされた」
心臓がドクドクと脈打つ。
「まだ2回しか会ってないのに」
フッと彼女が笑う。
「メッセージのやり取りは、ずっと、してたけどさ」
彼女が髪を耳にかける。
気づけば彼女のことを見ていて、彼女と目が合った。
彼女が破顔する。
「そんな…そんな顔、しないで」
繋いでいた手が離されて、頬が、あたたかい彼女の手に包まれる。
…どんな、顔、してた?私。
「キスって、人によって、全然違うんだね」
…聞きたく、ない。
「穂も、永那も全然違うし」
呼吸が、浅くなる。
私の目からポタ、ポタと涙が落ちる。
千陽が、笑う。
「…怖かった」
痛みを隠すように、彼女が笑う。
ギュッと…ギュッと、強く、彼女を抱きしめた。
「早く、2人に、会いたかった」
涙が流れ落ちて、その跡が、冷たい空気に触れる。
「あたし…あたし…どうすればいいか、わからない」
「焦らなくていいよ」
「そう、かなあ?」
彼女の声が震える。
「羨ましいの、2人が…。2人に、嫉妬したくない」
目を閉じると、まだ涙が溢れる。
…嫉妬。
胸がザワついて、居心地が悪くなって、抱きたくない暗い感情。
千陽も、一緒なんだ…。
一緒?
一緒じゃ、ない。
私と永那ちゃんは恋人関係だけど、千陽は、違う。
かける言葉が、見つからない。
だから私は、彼女を見つめて、唇を重ねる。
「怖い?」
「全然。して?」
もう一度重ねて、何度も、重ねて。
お互いを、求め合う。
気づけば彼女を床に押し倒していて、ただ、彼女を綺麗にするみたいに、愛を降らせる。
雪が、肌に触れて溶けるように。
「なんで、2人なら…いいんだろう?」
彼女の首に吸い付いていた唇を離して、顔を上げる。
「あたし…ホント、2人の子供になれたらいいのに」
彼女が微笑む。
「そしたら何があっても“怖かった”って、すぐ言える。怖くて、夜眠れないなんてことも、きっとない。きっと…嫉妬も、しないでしょ?」
視界がまたボヤけて、雫が落ちないように服の袖で拭うのに、溢れて止まらない。
「千陽、千陽…千陽…千陽…」
彼女の胸で泣く。
私が泣く場面じゃないはずなのに。
「なに泣かせてんだ?」
「永那、おはよ」
「おー」
永那ちゃんが起きたことで、頭が急に冷静になって、恥ずかしくなった。
「穂、どした?」
頭を撫でられる。
永那ちゃんの優しい声がそばで聞こえて、引いたはずの涙が、まだ零れる。
「てか千陽早くね?」
「夜寝られなかった」
「ふーん」
「永那も早いじゃん」
永那ちゃんは「あーっ」と大きくあくびをして、「まあねー」と立ち上がる。
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