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8.閑話
21.永那 中1 春《相澤芽衣編》
ギターを弾いても、ため息ばかりが出て、手が止まる。
ガラガラと扉が開いて目を遣ると、無邪気な笑顔を向けられた。
「芽衣先輩っ、なんか、すごい久しぶりな感じがします」
「そう、だね」
「大丈夫ですか?」
顔を覗きこまれて、ドキッとする。
「うん」
「ずっとおあずけだった、新曲、聞かせてくださいよ」
私は頷いて、フゥッと息を吐いた。
「ああ 君が 僕を見つめる瞳には 僕だけ 映っていてほしいのに ああ 君は 雲みたいにどこかへ消えていく 掴めない 手を伸ばしても届かない」
歌詞を、変えた。
もっと幸せな歌詞だったんだけど…書いた紙をぐしゃぐしゃにして捨ててしまった。
「失恋の曲?」
私は苦笑いする。
「先輩…具合悪かったって…もしかして…失恋、ですか?」
「どうかな」
言った途端、ギュッと抱きしめられた。
鼓動が、速くなる。
「言ってくれれば良かったのに…。私、こんなんでも一応…いろんな人の恋愛相談、乗ってきたんですよ?」
「そうなんだ。…じゃあ、失恋した人には、どんな風に慰めるの?」
「こんなふうに、です」
抱きしめられたまま、頭を撫でられる。
…ああ、これは…モテる人のすることだ。
「大丈夫です。先輩には絶対、素敵な人が現れます」
私は目を閉じて、体を永那に預けた。
「永那は、好きな人いないの?恋人、とか…」
「いないですよ。好きな人も恋人も」
ズキリと胸が痛む。
…でも同時に、やっぱり小倉心音とは恋人関係じゃないのだと知ってホッとした。
「私、好きな人できたことないんです」
「そうなんだ」
「好きになるって、どんな感じですか?」
「うーん…最初は“なんか良いなあ”って思って、気づいたらその人のことばっか考えてて、もっと近づきたい、会いたいって思ってる」
「へえ…楽しそう」
フフッと笑ってしまう。
「失恋したら、全然楽しくないんだけど?」
「あ!そっか!ごめんなさい」
ずっと、頭から離れない。あの光景が。
だからなのか、私はつい「永那、慰めてよ」と口走っていた。
「え?慰めてるつもりなんですけど…足りないですか?」
永那が笑う。
「足りない」
永那の首に腕を回すと顔が近くて、キスできそうだった。
だから、彼女にキスする。
好きな人とのキスって、こんな感じなんだ。
…前に告白されて、一度付き合ったことがあるけど、その人とのキスは、何が良いのか全然わからなかった。
すぐに振ってしまって、その先はしなかったけど…しなくて正解だったと思ってる。
「先輩…」
もう一度、唇を重ねる。
「永那の唇、やわらかい」
「先輩のも…やわらかいですよ…」
「なにそれ」
「え?」
「なんか、キスし慣れてる感じがする」
「そ、そうですか?…先輩こそ」
「私は…そんなに多くないよ?」
「ホントですか?」
「本当だよ」
「嘘っぽい」
本当なのに。
多目的室で、永那と毎日のようにキスした。
初めてのディープキスもして、蕩けそうだった。
永那が来ない日は、あの空き教室に行くのが日課になった。
小倉心音との情事を眺めて、帰ったら自慰に耽る。
嫉妬しないわけじゃない。
でも、2人がただのお金の関係なのだと割り切ってからは…私のほうが永那と繋がれている気がして、ほくそ笑んだ。
お金の切れ目が縁の切れ目。
小倉がお金を持ってこない日が何回かあって、永那はそのたびに彼女に怒声を浴びせていた。
いつものように床に座ってギターを弾いて、多目的室で永那を待っていた。
すごい勢いで扉が開いて、永那が不機嫌そうに部屋に入ってくる。
「永那?…きゃっ」
床に押し倒されて強引にキスされる。
…ああ、キュンキュンする。
長いキスを終えると、2人の間に糸が引かれる。
「永那、どうしたの?」
彼女の髪を撫でた。
永那は唇を尖らせて、眉間にシワを寄せている。
「めっちゃ苛つくことあって」
「話、聞くよ」
彼女が座るから、私も起き上がった。
永那は「ハァ」とため息をつく。
「芽衣は、兄弟いるんだっけ?」
キスする仲になってから、2人きりのときは呼び捨てで呼ばれている。
タメ口も…いつの間にか当たり前になった。
「お兄ちゃんと、妹」
「そっか。仲良い?」
「うん、普通かな?」
「ハァ」と彼女がまたため息をついた。
「私、お姉ちゃんがいるんだけど…昨日、叩かれてさ」
「え?叩かれたの?」
彼女が頷く。
「何か、したの?」
「してないよ…たぶん…」
たぶん、ね…。
「あー!金欲しー!」
永那が床に寝転ぶ。
「なんで…ほしいの?」
なんで、小倉心音にお金、もらってるの?
「んー…私、お小遣い月500円なんだー。少なくない?お年玉も5千円…。友達と遊びたいけど、遊ぶ金がない」
うちの学校の生徒は、貧困な家庭と裕福な家庭が混在している。
新しく出来た街と古い街のちょうど真ん中にあるから、そんな格差が、学校の中で生まれている。
私は、貧乏でも金持ちでもないけれど。
基本、貧困な家庭の子とお金持ちの家庭の子は仲が悪い。
まあ…お金持ちの子のほうが人数が少ないから、若干分が悪いような気がするけど…。
(お金持ちは大体私立に行くから)
私みたいなどちらでもない、中間の人間は、のらりくらりと過ごしていることが多い。
だから、みんなと仲良くできる永那はかなり異質。
ガラガラと扉が開いて目を遣ると、無邪気な笑顔を向けられた。
「芽衣先輩っ、なんか、すごい久しぶりな感じがします」
「そう、だね」
「大丈夫ですか?」
顔を覗きこまれて、ドキッとする。
「うん」
「ずっとおあずけだった、新曲、聞かせてくださいよ」
私は頷いて、フゥッと息を吐いた。
「ああ 君が 僕を見つめる瞳には 僕だけ 映っていてほしいのに ああ 君は 雲みたいにどこかへ消えていく 掴めない 手を伸ばしても届かない」
歌詞を、変えた。
もっと幸せな歌詞だったんだけど…書いた紙をぐしゃぐしゃにして捨ててしまった。
「失恋の曲?」
私は苦笑いする。
「先輩…具合悪かったって…もしかして…失恋、ですか?」
「どうかな」
言った途端、ギュッと抱きしめられた。
鼓動が、速くなる。
「言ってくれれば良かったのに…。私、こんなんでも一応…いろんな人の恋愛相談、乗ってきたんですよ?」
「そうなんだ。…じゃあ、失恋した人には、どんな風に慰めるの?」
「こんなふうに、です」
抱きしめられたまま、頭を撫でられる。
…ああ、これは…モテる人のすることだ。
「大丈夫です。先輩には絶対、素敵な人が現れます」
私は目を閉じて、体を永那に預けた。
「永那は、好きな人いないの?恋人、とか…」
「いないですよ。好きな人も恋人も」
ズキリと胸が痛む。
…でも同時に、やっぱり小倉心音とは恋人関係じゃないのだと知ってホッとした。
「私、好きな人できたことないんです」
「そうなんだ」
「好きになるって、どんな感じですか?」
「うーん…最初は“なんか良いなあ”って思って、気づいたらその人のことばっか考えてて、もっと近づきたい、会いたいって思ってる」
「へえ…楽しそう」
フフッと笑ってしまう。
「失恋したら、全然楽しくないんだけど?」
「あ!そっか!ごめんなさい」
ずっと、頭から離れない。あの光景が。
だからなのか、私はつい「永那、慰めてよ」と口走っていた。
「え?慰めてるつもりなんですけど…足りないですか?」
永那が笑う。
「足りない」
永那の首に腕を回すと顔が近くて、キスできそうだった。
だから、彼女にキスする。
好きな人とのキスって、こんな感じなんだ。
…前に告白されて、一度付き合ったことがあるけど、その人とのキスは、何が良いのか全然わからなかった。
すぐに振ってしまって、その先はしなかったけど…しなくて正解だったと思ってる。
「先輩…」
もう一度、唇を重ねる。
「永那の唇、やわらかい」
「先輩のも…やわらかいですよ…」
「なにそれ」
「え?」
「なんか、キスし慣れてる感じがする」
「そ、そうですか?…先輩こそ」
「私は…そんなに多くないよ?」
「ホントですか?」
「本当だよ」
「嘘っぽい」
本当なのに。
多目的室で、永那と毎日のようにキスした。
初めてのディープキスもして、蕩けそうだった。
永那が来ない日は、あの空き教室に行くのが日課になった。
小倉心音との情事を眺めて、帰ったら自慰に耽る。
嫉妬しないわけじゃない。
でも、2人がただのお金の関係なのだと割り切ってからは…私のほうが永那と繋がれている気がして、ほくそ笑んだ。
お金の切れ目が縁の切れ目。
小倉がお金を持ってこない日が何回かあって、永那はそのたびに彼女に怒声を浴びせていた。
いつものように床に座ってギターを弾いて、多目的室で永那を待っていた。
すごい勢いで扉が開いて、永那が不機嫌そうに部屋に入ってくる。
「永那?…きゃっ」
床に押し倒されて強引にキスされる。
…ああ、キュンキュンする。
長いキスを終えると、2人の間に糸が引かれる。
「永那、どうしたの?」
彼女の髪を撫でた。
永那は唇を尖らせて、眉間にシワを寄せている。
「めっちゃ苛つくことあって」
「話、聞くよ」
彼女が座るから、私も起き上がった。
永那は「ハァ」とため息をつく。
「芽衣は、兄弟いるんだっけ?」
キスする仲になってから、2人きりのときは呼び捨てで呼ばれている。
タメ口も…いつの間にか当たり前になった。
「お兄ちゃんと、妹」
「そっか。仲良い?」
「うん、普通かな?」
「ハァ」と彼女がまたため息をついた。
「私、お姉ちゃんがいるんだけど…昨日、叩かれてさ」
「え?叩かれたの?」
彼女が頷く。
「何か、したの?」
「してないよ…たぶん…」
たぶん、ね…。
「あー!金欲しー!」
永那が床に寝転ぶ。
「なんで…ほしいの?」
なんで、小倉心音にお金、もらってるの?
「んー…私、お小遣い月500円なんだー。少なくない?お年玉も5千円…。友達と遊びたいけど、遊ぶ金がない」
うちの学校の生徒は、貧困な家庭と裕福な家庭が混在している。
新しく出来た街と古い街のちょうど真ん中にあるから、そんな格差が、学校の中で生まれている。
私は、貧乏でも金持ちでもないけれど。
基本、貧困な家庭の子とお金持ちの家庭の子は仲が悪い。
まあ…お金持ちの子のほうが人数が少ないから、若干分が悪いような気がするけど…。
(お金持ちは大体私立に行くから)
私みたいなどちらでもない、中間の人間は、のらりくらりと過ごしていることが多い。
だから、みんなと仲良くできる永那はかなり異質。
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