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8.閑話
34.永那 中2 夏〜春《相澤芽衣編》
風美に「後悔してる?」って聞いたら、彼女は首を横に振った。
風美と永那の間に何があったのか、私は知らない。
でも少なくとも、風美が後悔していないなら、きっと…永那はずっと優しかったんだろうな、と思う。
“また誰かが永那の沼にハマったようだ”という噂が流れるのが当たり前になっていくにつれて、私は少しずつ永那から距離を取るようになった。
距離を取っても永那を好きな気持ちはなくならなくて、噂の相手の名前を覚えたし、顔を見に行った。
たまに永那から連絡が来て、それには否が応にも応えてしまう自分がいた。
会うたびに「歌って」と言われた。
永那が「芽衣の歌が聞けなくて寂しい」と言うから、受験勉強の傍ら、動画サイトに自分の歌を投稿し始めたりもした。
高校受験が終わって、いろんなことから解放されたのかな?
ある日の昼、私は狂ったみたいに多目的室の窓を全開にして、ドアも開け放って、叫ぶように歌った。
マイクもアンプも勢いのまま準備して、ライブみたいに歌った。
「好きだった 好きだった 大好きだったのに 君の顔を涙で汚して 汚して 平気なフリして 笑ったの
大嫌い 大嫌い 大好きだったのに 君の傷に気付けないままの 私の 真っ青な春が 終わったの
もう君には会わないと思うけれど いつか いつか 輝く君を見たい
いつか いつか 幸せに笑う君を見たい
いつか いつか」
私は、泣いていた。
気づいたら先生や生徒が集まってきていた。
多目的室のドアのところに、目を見開いた永那がいて、私は笑った。
「幸せに笑う君を見たい」
ワーッとみんなが拍手をしてくれる。
先生も「何やってんだ」と言いながら、なんだかんだ笑っていた。
「彼女になりたかったー!!!」
叫ぶと、またみんながワーッと盛り上がる。
「今からでも遅くないぞ!」とか「よく頑張った!」とか、全然事情も知らない人達が声をかけてくれる。
…ああ、楽しい。
永那の横には、見覚えのある顔。
知ってる。
永那の何人目かのセフレ。
ほとんど人が来ない、4階の女子トイレでセックスしている。
今日だってシてた。
知ってる。
だから、最初で最後の嫌がらせ…かな?
誰かが「アンコール!」と叫んだ。
「アンコール!アンコール!」
なにこれ…。
深呼吸する。
「アスファルトに落ちた 花びらはもう 戻らない 戻らないのに 風が吹いて 空に舞って まるで 桜花火」
ギターの音が鳴り響く。
みんなが歓声を上げる。
「君とあけたピアス お揃いを嫌がって 僕が不機嫌になったら 君がキスするの
君と歩いた道 手を繋いでいたい 君が手を離す時には 僕は息を吐く
アスファルトに落ちた 花びらはもう 戻らない 戻らないのに 風が吹いて 空に舞って まるで 桜花火」
…懐かしい、夏の暑い日を思い出して書いたばかりの新曲。
お兄ちゃんが、女の子に振られるたびにピアスを開ける癖があって、そのときもお兄ちゃんは大量にピアッサーを買い込んでいた。
そんなに買い込んだって、開けられる場所は限られてるのに。
永那が私の片耳に開いたピアスを見て「私もやってみたい」と言っていたのを思い出して、彼女を家に呼び出した。
余ったピアッサーをお兄ちゃんに貰って、私が彼女の耳に、開けてあげたんだ。
本当は、夏は膿みやすいから、時期的に開けるのは好ましくないんだけど…先生に怒られて穴がすぐに塞がっちゃってももったいない。
だから学生は、休みが長い夏休みにするしかない。
もちろん、その日も永那とセックスした。
夜には一緒に花火をして、本当に私達は、恋人みたいだった。
卒業式の日、永那がわざわざ私のところに来た。
在校生は代表者だけが来るはずだったのに、彼女は校門で私のことを待っていたらしい。
「芽衣…私、芽衣と同じ高校行く」
「ダメー」
「え…なんで?」
「私は、もう永那から卒業したいの」
「卒業…?」
「そう。私のことを、ちゃんと好きになってくれる人と出会いたい。永那と一緒にいたら、結局ズブズブの関係が続いて、私、ちゃんと恋できないもん」
「…ごめん」
永那が俯く。
「べつに、謝らなくていいよ。私、永那と一緒にいられて楽しかったし。…そりゃあ、辛いこともたくさんあったけど。永那を最初に誘ったのは、私だしね」
私は必死に、笑顔を作る。
「永那」
彼女が、俯きながらも、上目遣いに私を見た。
「永那も、ちゃんと好きな人作りなよ?」
「…どうやって?」
ハハハッと思わず笑う。
「そうだね。好きな人って作るものじゃないよね」
永那が左眉を上げて、唇を尖らせる。
「ハァ」と息を吐いて、私は彼女の頬を両手で包んだ。
「じゃあ、好きな人ができるまでは、いろんな子と遊んでいいけど…好きな人ができたら、きっぱり、遊びはやめるんだよ?その子だけ…その子だけを、まっすぐ見るの」
「まっすぐ…」
「そう。約束、して」
私が小指を出すと、永那は頷いて、小指を絡めた。
「じゃあ、元気でね。永那」
彼女は、また頷く。
「寂しくなったら、私の動画、見てね」
もう一度、彼女が頷くから、つい「可愛い」と口をついた。
「バイバイ」
永那は何も言わなかった。
私は彼女に背を向けて歩く。
涙が溢れて止まらなかった。
結局“好き”すら言えなかった。
次好きになった人には、ちゃんと言おう。
私も、まっすぐ…。
風美と永那の間に何があったのか、私は知らない。
でも少なくとも、風美が後悔していないなら、きっと…永那はずっと優しかったんだろうな、と思う。
“また誰かが永那の沼にハマったようだ”という噂が流れるのが当たり前になっていくにつれて、私は少しずつ永那から距離を取るようになった。
距離を取っても永那を好きな気持ちはなくならなくて、噂の相手の名前を覚えたし、顔を見に行った。
たまに永那から連絡が来て、それには否が応にも応えてしまう自分がいた。
会うたびに「歌って」と言われた。
永那が「芽衣の歌が聞けなくて寂しい」と言うから、受験勉強の傍ら、動画サイトに自分の歌を投稿し始めたりもした。
高校受験が終わって、いろんなことから解放されたのかな?
ある日の昼、私は狂ったみたいに多目的室の窓を全開にして、ドアも開け放って、叫ぶように歌った。
マイクもアンプも勢いのまま準備して、ライブみたいに歌った。
「好きだった 好きだった 大好きだったのに 君の顔を涙で汚して 汚して 平気なフリして 笑ったの
大嫌い 大嫌い 大好きだったのに 君の傷に気付けないままの 私の 真っ青な春が 終わったの
もう君には会わないと思うけれど いつか いつか 輝く君を見たい
いつか いつか 幸せに笑う君を見たい
いつか いつか」
私は、泣いていた。
気づいたら先生や生徒が集まってきていた。
多目的室のドアのところに、目を見開いた永那がいて、私は笑った。
「幸せに笑う君を見たい」
ワーッとみんなが拍手をしてくれる。
先生も「何やってんだ」と言いながら、なんだかんだ笑っていた。
「彼女になりたかったー!!!」
叫ぶと、またみんながワーッと盛り上がる。
「今からでも遅くないぞ!」とか「よく頑張った!」とか、全然事情も知らない人達が声をかけてくれる。
…ああ、楽しい。
永那の横には、見覚えのある顔。
知ってる。
永那の何人目かのセフレ。
ほとんど人が来ない、4階の女子トイレでセックスしている。
今日だってシてた。
知ってる。
だから、最初で最後の嫌がらせ…かな?
誰かが「アンコール!」と叫んだ。
「アンコール!アンコール!」
なにこれ…。
深呼吸する。
「アスファルトに落ちた 花びらはもう 戻らない 戻らないのに 風が吹いて 空に舞って まるで 桜花火」
ギターの音が鳴り響く。
みんなが歓声を上げる。
「君とあけたピアス お揃いを嫌がって 僕が不機嫌になったら 君がキスするの
君と歩いた道 手を繋いでいたい 君が手を離す時には 僕は息を吐く
アスファルトに落ちた 花びらはもう 戻らない 戻らないのに 風が吹いて 空に舞って まるで 桜花火」
…懐かしい、夏の暑い日を思い出して書いたばかりの新曲。
お兄ちゃんが、女の子に振られるたびにピアスを開ける癖があって、そのときもお兄ちゃんは大量にピアッサーを買い込んでいた。
そんなに買い込んだって、開けられる場所は限られてるのに。
永那が私の片耳に開いたピアスを見て「私もやってみたい」と言っていたのを思い出して、彼女を家に呼び出した。
余ったピアッサーをお兄ちゃんに貰って、私が彼女の耳に、開けてあげたんだ。
本当は、夏は膿みやすいから、時期的に開けるのは好ましくないんだけど…先生に怒られて穴がすぐに塞がっちゃってももったいない。
だから学生は、休みが長い夏休みにするしかない。
もちろん、その日も永那とセックスした。
夜には一緒に花火をして、本当に私達は、恋人みたいだった。
卒業式の日、永那がわざわざ私のところに来た。
在校生は代表者だけが来るはずだったのに、彼女は校門で私のことを待っていたらしい。
「芽衣…私、芽衣と同じ高校行く」
「ダメー」
「え…なんで?」
「私は、もう永那から卒業したいの」
「卒業…?」
「そう。私のことを、ちゃんと好きになってくれる人と出会いたい。永那と一緒にいたら、結局ズブズブの関係が続いて、私、ちゃんと恋できないもん」
「…ごめん」
永那が俯く。
「べつに、謝らなくていいよ。私、永那と一緒にいられて楽しかったし。…そりゃあ、辛いこともたくさんあったけど。永那を最初に誘ったのは、私だしね」
私は必死に、笑顔を作る。
「永那」
彼女が、俯きながらも、上目遣いに私を見た。
「永那も、ちゃんと好きな人作りなよ?」
「…どうやって?」
ハハハッと思わず笑う。
「そうだね。好きな人って作るものじゃないよね」
永那が左眉を上げて、唇を尖らせる。
「ハァ」と息を吐いて、私は彼女の頬を両手で包んだ。
「じゃあ、好きな人ができるまでは、いろんな子と遊んでいいけど…好きな人ができたら、きっぱり、遊びはやめるんだよ?その子だけ…その子だけを、まっすぐ見るの」
「まっすぐ…」
「そう。約束、して」
私が小指を出すと、永那は頷いて、小指を絡めた。
「じゃあ、元気でね。永那」
彼女は、また頷く。
「寂しくなったら、私の動画、見てね」
もう一度、彼女が頷くから、つい「可愛い」と口をついた。
「バイバイ」
永那は何も言わなかった。
私は彼女に背を向けて歩く。
涙が溢れて止まらなかった。
結局“好き”すら言えなかった。
次好きになった人には、ちゃんと言おう。
私も、まっすぐ…。
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