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8.閑話
1.永那 中2 冬《古賀日和編》
■■■
私は古賀 日和。
初恋は、幼稚園の先生。
あのときは、それが初恋だなんて知らなかった。
ただ、優しくて、私に向けてくれる笑顔が大好きだった。
私は鈍くさいから、いつも失敗ばかりしていた。
みんなより何もかもが遅くて…お母さんが心配して病院に連れて行かれたくらい。
異常は特になくて、ただ私が鈍くさいということだけがわかった。
でも、幼稚園の先生だけは、私に優しくしてくれた。
幼稚園が休みの日にも会いたくて仕方なかった。
小学生のときも、鈍くささのせいで何度も同級生にからかわれた。
そのたびに先生を思い出して、幼稚園のときに戻りたくて、ひとりで泣いた。
森山 菫ちゃんは、そんな大切な思い出の幼稚園時代からの友達。
私の一番の友達。
でも菫ちゃんは明るくて、運動神経も良くて、みんなから人気で…菫ちゃんにとって私は、ただの友達のひとりに過ぎなかった。
家は近所だったけど、小学生のときはずっとクラスも違ったし、少しずつ疎遠になっていった。
たまに廊下ですれ違って、目が合うくらいの仲。
お母さんが菫ちゃんのお母さんと仲良くしているから、たまにそれについていって、少し話すくらいの仲。
私は、もっと菫ちゃんと話したかったけど…自分から話しかける勇気なんてなかった。
学校での私は、なるべくみんなに迷惑をかけないように、なるべく目立たないように頑張った。
それでも、上手くいかないことはたくさんあったけど…。
先生を“お母さん”と呼んでしまったのは、今思い出しても恥ずかしい。
クラスの全員が聞いていて、しばらく教室がその話題で持ちきりになった。
掃除の時間には水の入ったバケツを蹴飛ばして床を水浸しにしてしまうし、段差のあるところで盛大に転んで自らバケツを被ったこともある。
女子トイレと男子トイレを間違えて入ってしまったときは、数日間恥ずかしくて人の顔をまともに見られなかった。
靴を履き替えたと思ったのに、上履きのまま家に帰ってしまったこともあるし、運動会のときは…もういいや。
思い出しても恥ずかしいことばかりで…全然楽しい気持ちになんてなれない。
幸い、クラスの友達はみんな笑ってくれる人だったけど…一度だけ、聞いてしまったことがある。
「日和、ドジで面白いけど、急いでるときとか真面目にやりたいときとかは、正直ちょっと迷惑だよね」
いつも仲良くしてくれていた子達が、私のいない間に、そう言っているのを。
事実なんだから、仕方ない。
どうして自分でも、自分がこんななのか、わからない。
一生懸命やっているつもり。
必死に迷惑をかけないように、頑張っているつもり。
でも、迷惑をかけてしまう。
一生懸命やろうとすればするほど、逆に空回りして、もっと迷惑をかける。
悲しくて、ひとりの部屋で泣いた。
でも、中学生になったら…中学生になったら、私も少しは“大人”になれるかもしれないと期待した。
ドジなのもマシになって、みんなみたいに、普通になれるかもしれないと思った。
そんなの、無理な話だった。
小学校を卒業して、中学生になったところで、私は私のままだった。
当たり前なんだけど、ガッカリした。
だけど、1つ嬉しいことがあった。
菫ちゃんと同じクラスになったこと。
相変わらず菫ちゃんは明るくて、友達が多かった。
たまに私にも話しかけてくれて、心がふわふわした。
ひとり、私をすごく嫌っている子がいて、その子に悪口を言われた。
でも…菫ちゃんがかばってくれた。
「私だって失敗することあるし。みんなだってあるじゃん?私は、日和のドジなとこ、面白くて好きだけど」
菫ちゃんの友達も頷いてくれて、それから悪口を言われなくなった。
それが嬉しくて、たくさんは話せなくても、ただ同じクラスにいられるだけで良いと思った。
日常が何も変わらないまま時が過ぎた。
冬の大雨の日、下校中の私は、盛大に転んだ。
たまたま鞄のファスナーが開いていて、中身が水溜まりに落ちて、ただ私は雨に打たれることしかできなかった。
教科書はよれよれのグシャグシャになるし、幼稚園のときに先生がくれた手作りのお守りも…汚れてしまった。
早く拾えばいいのに、ただ私は自分のバカさ、鈍くささに悲しくなって、何もできなかった。
しゃがみ込んで、雨に打たれながら、涙が溢れた。
早く大人になりたいのに。
こんなことで泣いてたら、いつまで経っても大人になれないよ。
自分が嫌で、もっと泣いた。
「なにやってんの?」
雨が頭上から降らなくなって、びっくりして、横を見上げた。
同じ制服。
…でも、学年は違う。
綺麗な人…。
傘を私にさしてくれている。
彼女がしゃがんで、目線が同じ高さになった。
「大丈夫?」
ただ、見蕩れてしまう。
「古賀、日和…ちゃん?」
名前を呼ばれて、心臓が速くなる。
「はい」
水溜まりに沈んでいた教科書や筆箱、お守りも…拾って、手渡してくれる。
“古賀 日和”
全部の荷物に書かれた名前。ふりがなもふってある。水で滲んでいるけど。
「濡れちゃったね」
彼女が鞄からタオルを出して、頭を拭いてくれた。
わしゃわしゃと拭いてくれるタオルと髪のすき間から、彼女の笑顔が覗き見えた。
胸がキュッと締まる。
何故か、幼稚園の先生を思い出した。
私は古賀 日和。
初恋は、幼稚園の先生。
あのときは、それが初恋だなんて知らなかった。
ただ、優しくて、私に向けてくれる笑顔が大好きだった。
私は鈍くさいから、いつも失敗ばかりしていた。
みんなより何もかもが遅くて…お母さんが心配して病院に連れて行かれたくらい。
異常は特になくて、ただ私が鈍くさいということだけがわかった。
でも、幼稚園の先生だけは、私に優しくしてくれた。
幼稚園が休みの日にも会いたくて仕方なかった。
小学生のときも、鈍くささのせいで何度も同級生にからかわれた。
そのたびに先生を思い出して、幼稚園のときに戻りたくて、ひとりで泣いた。
森山 菫ちゃんは、そんな大切な思い出の幼稚園時代からの友達。
私の一番の友達。
でも菫ちゃんは明るくて、運動神経も良くて、みんなから人気で…菫ちゃんにとって私は、ただの友達のひとりに過ぎなかった。
家は近所だったけど、小学生のときはずっとクラスも違ったし、少しずつ疎遠になっていった。
たまに廊下ですれ違って、目が合うくらいの仲。
お母さんが菫ちゃんのお母さんと仲良くしているから、たまにそれについていって、少し話すくらいの仲。
私は、もっと菫ちゃんと話したかったけど…自分から話しかける勇気なんてなかった。
学校での私は、なるべくみんなに迷惑をかけないように、なるべく目立たないように頑張った。
それでも、上手くいかないことはたくさんあったけど…。
先生を“お母さん”と呼んでしまったのは、今思い出しても恥ずかしい。
クラスの全員が聞いていて、しばらく教室がその話題で持ちきりになった。
掃除の時間には水の入ったバケツを蹴飛ばして床を水浸しにしてしまうし、段差のあるところで盛大に転んで自らバケツを被ったこともある。
女子トイレと男子トイレを間違えて入ってしまったときは、数日間恥ずかしくて人の顔をまともに見られなかった。
靴を履き替えたと思ったのに、上履きのまま家に帰ってしまったこともあるし、運動会のときは…もういいや。
思い出しても恥ずかしいことばかりで…全然楽しい気持ちになんてなれない。
幸い、クラスの友達はみんな笑ってくれる人だったけど…一度だけ、聞いてしまったことがある。
「日和、ドジで面白いけど、急いでるときとか真面目にやりたいときとかは、正直ちょっと迷惑だよね」
いつも仲良くしてくれていた子達が、私のいない間に、そう言っているのを。
事実なんだから、仕方ない。
どうして自分でも、自分がこんななのか、わからない。
一生懸命やっているつもり。
必死に迷惑をかけないように、頑張っているつもり。
でも、迷惑をかけてしまう。
一生懸命やろうとすればするほど、逆に空回りして、もっと迷惑をかける。
悲しくて、ひとりの部屋で泣いた。
でも、中学生になったら…中学生になったら、私も少しは“大人”になれるかもしれないと期待した。
ドジなのもマシになって、みんなみたいに、普通になれるかもしれないと思った。
そんなの、無理な話だった。
小学校を卒業して、中学生になったところで、私は私のままだった。
当たり前なんだけど、ガッカリした。
だけど、1つ嬉しいことがあった。
菫ちゃんと同じクラスになったこと。
相変わらず菫ちゃんは明るくて、友達が多かった。
たまに私にも話しかけてくれて、心がふわふわした。
ひとり、私をすごく嫌っている子がいて、その子に悪口を言われた。
でも…菫ちゃんがかばってくれた。
「私だって失敗することあるし。みんなだってあるじゃん?私は、日和のドジなとこ、面白くて好きだけど」
菫ちゃんの友達も頷いてくれて、それから悪口を言われなくなった。
それが嬉しくて、たくさんは話せなくても、ただ同じクラスにいられるだけで良いと思った。
日常が何も変わらないまま時が過ぎた。
冬の大雨の日、下校中の私は、盛大に転んだ。
たまたま鞄のファスナーが開いていて、中身が水溜まりに落ちて、ただ私は雨に打たれることしかできなかった。
教科書はよれよれのグシャグシャになるし、幼稚園のときに先生がくれた手作りのお守りも…汚れてしまった。
早く拾えばいいのに、ただ私は自分のバカさ、鈍くささに悲しくなって、何もできなかった。
しゃがみ込んで、雨に打たれながら、涙が溢れた。
早く大人になりたいのに。
こんなことで泣いてたら、いつまで経っても大人になれないよ。
自分が嫌で、もっと泣いた。
「なにやってんの?」
雨が頭上から降らなくなって、びっくりして、横を見上げた。
同じ制服。
…でも、学年は違う。
綺麗な人…。
傘を私にさしてくれている。
彼女がしゃがんで、目線が同じ高さになった。
「大丈夫?」
ただ、見蕩れてしまう。
「古賀、日和…ちゃん?」
名前を呼ばれて、心臓が速くなる。
「はい」
水溜まりに沈んでいた教科書や筆箱、お守りも…拾って、手渡してくれる。
“古賀 日和”
全部の荷物に書かれた名前。ふりがなもふってある。水で滲んでいるけど。
「濡れちゃったね」
彼女が鞄からタオルを出して、頭を拭いてくれた。
わしゃわしゃと拭いてくれるタオルと髪のすき間から、彼女の笑顔が覗き見えた。
胸がキュッと締まる。
何故か、幼稚園の先生を思い出した。
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