377 / 595
6.さんにん
376.ふたり
しおりを挟む
それから数日後、穂と一緒に私の家に移動した。
3週間…いや、3カ月間、穂の家族にはお世話になったから、ほんの少しの生活費と、お礼のお菓子と手紙を、穂のお母さんの部屋に置いてきた。
お母さんが帰ってくるまでのあと1週間ちょっとを、穂と2人で家で過ごす。
初めてじいちゃんから連絡があって、先生によれば、今のところ入院が延長される予定はないという。
…良くなってるといいな。
「永那ちゃん、これ」
家に入ると、見慣れない箱がテーブルの上に置かれていた。
メモ書きみたいな手紙が添えられている。
『ひとりで寂しい思いしてるかと思って来てあげたけど、いなかったから置いてく。メリークリスマス』
「お姉ちゃんだ…」
筆跡がお姉ちゃんだし、そもそもこの家に来る人なんてお姉ちゃんくらいしかいない。
「なんか…申し訳ないことしちゃったかな…」
「いや、帰ってくるならメッセージの1つくらい送ってくれればいいんだよ。ほとんど帰ってこない姉が、いきなり帰ってきても…ね?帰ってくるかどうかもわからないのに、申し訳ないもなにもないよ」
「そう、かな…?」
「そうだよ」
穂にキスする。
穂が納得したように頷くから、私は箱を開けた。
「ピアスだ。綺麗だね!」
黒のチェーンの先に、黒色のパールが一粒ぶら下がっていた。
箱からピアスを取り出す。
「これ、本物かな?」
「どうだろうね?」
「本物だったら、相当高いよね?」
「たぶん…?」
2人でピアスを眺めていたら、ピアス越しに穂と目が合った。
お互い寄り目みたいになっているのが面白くて、笑った。
「穂~!」
抱きつく。
「え、永那ちゃん!もー!」
肩をペシペシ叩かれた。
「先に片付けちゃおう?」
「“先”って、“後”には何をするの?」
睨まれた。
仕方なく、ボストンバッグを部屋に運ぶ。
中から服やら教科書やらを取り出して、しまった。
穂は掃除を始める。
…真面目だなあ。
私はその様子を眺めながら、床に大の字に寝転んだ。
生まれたときから、私はこの家しか知らない。
なのに、帰ってきても“帰ってきた!”という安心感みたいなものは全くなく、むしろ“帰ってきてしまった…”という気持ちのほうが強い。
穂の家は居心地が良くて、安心感があった。
それは、私の家がボロくて、穂の家がお洒落だからとか、そういうのは関係ないように思えた。
嫌な思い出ばかり…なんだ…。
もちろん、楽しかった思い出もある。
でも、それを上回るほどに、嫌な思い出がこの家にはたくさん詰まっている。
…このまま、穂と一緒にいたい。
お母さんに、帰ってきてほしくない。
酷い奴。
本当に、私は、最低だ。
でも…それでも…穂といたい。
もう、お母さんのお世話なんか、したくない。
お母さんのことは大切に思ってる。
でも…。
視界がボヤけてきて、それを隠すように目元を腕で覆った。
「永那ちゃん?…寝ちゃったの?」
声をかけられたけど、泣いていることを知られたくなくて、寝たフリをする。
穂が近づく音がして、お腹に触れられた。
胸元に重みを感じて、目元を覆っていた腕の隙間から彼女を見る。
目の前に彼女の頭があった。
「永那ちゃん、好き」
…ああ…なんで、この人は…こんなに、可愛いんだ。
好きだ。
私も、穂が、好き。
バッと彼女が起き上がるから、慌てて目を閉じた。
今度は腰の辺りに重みを感じた。
…ん?揺れてる?
穂、マジで何やってんの?
腕をどけて、目を開ける。
私の腰の辺りに座った穂が、腰を振っていた。
彼女の大事なところを、私の下腹部に押し付けるように。
腰を振るたびに、彼女の長い黒髪と、プレゼントしたネックレスが揺れる。
「穂…」
「起きた?」
穂が優しい笑みを浮かべながら首を傾げる。
…可愛い。
「そんなエロいこと、どこで知ったの?」
彼女が白い歯をみせて笑う。
「秘密」
「秘密?」
「永那ちゃん、エッチなの、好きでしょ?」
「好き、大好き」
いたずら小僧みたいな笑みを浮かべながら、彼女は腰を振り続ける。
「そんなことしてたら、食べちゃうよ?」
「いいよ?」
深呼吸する。
「激しく、しちゃうかもよ?」
「望むところだ!」
私は上半身を起こして、彼女に口づけした。
フフッと彼女が笑う。
「穂」
「ん?」
「穂は、私が“男だったら良かったのに”って、思う?」
「え!?思わないよ」
「そうなの?」
「うん。え…えっと…永那ちゃんは、男性になりたいの?」
「ううん、全然。全然、なりたいと思わないから、聞いた。穂は、私が女のほうがいい?」
「…私は…どっちでもいいかな」
「どっちでも?」
「うん。だって、私は永那ちゃんが好きだから。男でも女でも、どっちでもいいよ」
そうだ。
私は、ずっとそう言ってほしかったんだ。
男とか女とか関係ない。
私の顔とか、与えてあげる優しさだけに惹かれるんじゃなくて…そういう、表面的なことだけで好かれるんじゃなくて、ただ、まっすぐ私を見てほしかった。
最初のキッカケがそれでもいい。
でも、それしか見てもらえないのは、悲しい。寂しい。
そもそも、与えてあげる優しさなんて、本当の優しさじゃない。
それしか見えないなら、本当の私なんて、きっと全く見えてない。
…千陽は、ずっと言ってくれてたな。
でも、嘘っぽい、作ったような可愛さが苦手で、千陽の気持ちに応えてあげたいとは思えなかった。
私はわがままで、応えてあげられないとわかっているのに、千陽の好意に甘えていた。
千陽が、ずっと私を好きだと言ってくれることに、甘えていた。
3週間…いや、3カ月間、穂の家族にはお世話になったから、ほんの少しの生活費と、お礼のお菓子と手紙を、穂のお母さんの部屋に置いてきた。
お母さんが帰ってくるまでのあと1週間ちょっとを、穂と2人で家で過ごす。
初めてじいちゃんから連絡があって、先生によれば、今のところ入院が延長される予定はないという。
…良くなってるといいな。
「永那ちゃん、これ」
家に入ると、見慣れない箱がテーブルの上に置かれていた。
メモ書きみたいな手紙が添えられている。
『ひとりで寂しい思いしてるかと思って来てあげたけど、いなかったから置いてく。メリークリスマス』
「お姉ちゃんだ…」
筆跡がお姉ちゃんだし、そもそもこの家に来る人なんてお姉ちゃんくらいしかいない。
「なんか…申し訳ないことしちゃったかな…」
「いや、帰ってくるならメッセージの1つくらい送ってくれればいいんだよ。ほとんど帰ってこない姉が、いきなり帰ってきても…ね?帰ってくるかどうかもわからないのに、申し訳ないもなにもないよ」
「そう、かな…?」
「そうだよ」
穂にキスする。
穂が納得したように頷くから、私は箱を開けた。
「ピアスだ。綺麗だね!」
黒のチェーンの先に、黒色のパールが一粒ぶら下がっていた。
箱からピアスを取り出す。
「これ、本物かな?」
「どうだろうね?」
「本物だったら、相当高いよね?」
「たぶん…?」
2人でピアスを眺めていたら、ピアス越しに穂と目が合った。
お互い寄り目みたいになっているのが面白くて、笑った。
「穂~!」
抱きつく。
「え、永那ちゃん!もー!」
肩をペシペシ叩かれた。
「先に片付けちゃおう?」
「“先”って、“後”には何をするの?」
睨まれた。
仕方なく、ボストンバッグを部屋に運ぶ。
中から服やら教科書やらを取り出して、しまった。
穂は掃除を始める。
…真面目だなあ。
私はその様子を眺めながら、床に大の字に寝転んだ。
生まれたときから、私はこの家しか知らない。
なのに、帰ってきても“帰ってきた!”という安心感みたいなものは全くなく、むしろ“帰ってきてしまった…”という気持ちのほうが強い。
穂の家は居心地が良くて、安心感があった。
それは、私の家がボロくて、穂の家がお洒落だからとか、そういうのは関係ないように思えた。
嫌な思い出ばかり…なんだ…。
もちろん、楽しかった思い出もある。
でも、それを上回るほどに、嫌な思い出がこの家にはたくさん詰まっている。
…このまま、穂と一緒にいたい。
お母さんに、帰ってきてほしくない。
酷い奴。
本当に、私は、最低だ。
でも…それでも…穂といたい。
もう、お母さんのお世話なんか、したくない。
お母さんのことは大切に思ってる。
でも…。
視界がボヤけてきて、それを隠すように目元を腕で覆った。
「永那ちゃん?…寝ちゃったの?」
声をかけられたけど、泣いていることを知られたくなくて、寝たフリをする。
穂が近づく音がして、お腹に触れられた。
胸元に重みを感じて、目元を覆っていた腕の隙間から彼女を見る。
目の前に彼女の頭があった。
「永那ちゃん、好き」
…ああ…なんで、この人は…こんなに、可愛いんだ。
好きだ。
私も、穂が、好き。
バッと彼女が起き上がるから、慌てて目を閉じた。
今度は腰の辺りに重みを感じた。
…ん?揺れてる?
穂、マジで何やってんの?
腕をどけて、目を開ける。
私の腰の辺りに座った穂が、腰を振っていた。
彼女の大事なところを、私の下腹部に押し付けるように。
腰を振るたびに、彼女の長い黒髪と、プレゼントしたネックレスが揺れる。
「穂…」
「起きた?」
穂が優しい笑みを浮かべながら首を傾げる。
…可愛い。
「そんなエロいこと、どこで知ったの?」
彼女が白い歯をみせて笑う。
「秘密」
「秘密?」
「永那ちゃん、エッチなの、好きでしょ?」
「好き、大好き」
いたずら小僧みたいな笑みを浮かべながら、彼女は腰を振り続ける。
「そんなことしてたら、食べちゃうよ?」
「いいよ?」
深呼吸する。
「激しく、しちゃうかもよ?」
「望むところだ!」
私は上半身を起こして、彼女に口づけした。
フフッと彼女が笑う。
「穂」
「ん?」
「穂は、私が“男だったら良かったのに”って、思う?」
「え!?思わないよ」
「そうなの?」
「うん。え…えっと…永那ちゃんは、男性になりたいの?」
「ううん、全然。全然、なりたいと思わないから、聞いた。穂は、私が女のほうがいい?」
「…私は…どっちでもいいかな」
「どっちでも?」
「うん。だって、私は永那ちゃんが好きだから。男でも女でも、どっちでもいいよ」
そうだ。
私は、ずっとそう言ってほしかったんだ。
男とか女とか関係ない。
私の顔とか、与えてあげる優しさだけに惹かれるんじゃなくて…そういう、表面的なことだけで好かれるんじゃなくて、ただ、まっすぐ私を見てほしかった。
最初のキッカケがそれでもいい。
でも、それしか見てもらえないのは、悲しい。寂しい。
そもそも、与えてあげる優しさなんて、本当の優しさじゃない。
それしか見えないなら、本当の私なんて、きっと全く見えてない。
…千陽は、ずっと言ってくれてたな。
でも、嘘っぽい、作ったような可愛さが苦手で、千陽の気持ちに応えてあげたいとは思えなかった。
私はわがままで、応えてあげられないとわかっているのに、千陽の好意に甘えていた。
千陽が、ずっと私を好きだと言ってくれることに、甘えていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる