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6.さんにん
385.ふたり
穂が“学費を免除してもらえる制度がある”と言っていた。
それを使えば、全額は厳しかったとしても、半額くらいにはなるかもしれないと。
上手くいけば全額。
そういう説明もして、なんとか説得しようと思っていた。
なのに、こんなにも、あっさりと…。
「あ、ありがとうございます」
じいちゃんは「また来る」と言って帰った。
しばらくお母さんに「何勉強するの?」とか「将来何になりたいの?」とかいろいろ聞かれて、困った。
特別やりたいことがあるわけでもないし、理由も…穂と一緒がいいからって理由だったから。
「いいね」
お姉ちゃんが頬杖をつきながらボソッと言った。
「私も、大学行きたかった」
今までずっと、生活費を稼ぐために働いてくれていたお姉ちゃん。
…そりゃあ、そうだよね。
「今からでも行ったらいいじゃん」
お母さんが言って、お姉ちゃんが眉間にシワを寄せる。
「いくらあの人がまだ働いてるからって、さすがに2人分の学費は無理でしょ。それに、今更…」
「お姉ちゃん…!」
ちゃんと、言う。
「私、一応学校の成績は良いんだ。…それで、学費免除の制度とか、いろいろあるみたいで…もし、審査が通ったら、学費が安くなるって。あ、穂が!穂が、教えてくれて。だから…じいちゃんに…言ってみたら、いいんじゃないかな?い、今からでも…遅くないよ、きっと」
お姉ちゃんはため息をついて、目をそらす。
…やっぱり、私が言うことなんて…聞く価値もないのかな。
お姉ちゃんに相談してからじいちゃんにって思ってたけど、じいちゃんが先で良かったのかもしれない。
「瑠那は、何を勉強したいの?」
「…は?…そ、そんなの、急に言われたって、わかんない」
「ふーん?じゃあ、なんで大学に行きたいの?」
「同じ仕事量…いや、むしろ私のほうが仕事してるのに、給料は大卒のほうが良いのが気に食わないから」
お姉ちゃんが何の仕事をしているのかは、よくわからない。
でも、寮付きの会社で働いていることだけは知っている。
「そっかあ…。たしかに、お母さんも働いてたとき、正社員になれるのは大学卒業してる人ばっかりだったなあ。…お母さんも大学行っちゃおうかな!?そしたら、2人の学費も稼げるかも!」
お姉ちゃんが眉間を指で押さえる。
「今から大学行ったって、お金稼げるようになるのは何年後?」
「あ、そっか!えへへ」
穂が用意してくれたご飯を出す。
お母さんは「わあ!!穂ちゃんのご飯!」と嬉しそうにしていた。
「穂、お母さんに会いたがってたよ」
「私も会いたい~!」
お母さんが鞄から財布を出して、折りたたまれて、くしゃくしゃになった写真を取り出した。
「早く、みんなに会いたいなあ」
「また、呼ぶよ」
「うん!」
お姉ちゃんは黙々とご飯を口に運んでいた。
「私は、しばらく帰ってこないと思うけど…何かあったら連絡して」
お姉ちゃんが、靴を履いてドアを開けた瞬間、言った。
「え?」
「…なに?」
「あ、いや、なんでもない。わかった」
パタンとドアが閉まる。
“お礼、言わないと”
今、穂にそう言われた気がして、ドアを開ける。
「お姉ちゃん!」
階段を下りきったお姉ちゃんが振り向く。
「ありがとう!…ありがとう、お姉ちゃん。私、高校行けて良かった!」
ジッと見つめられた後、お姉ちゃんは何も言わずに歩き出す。
「ハァ」と息を吐くと、真っ白に染まる空気が寒さを強調させた。
両手を擦って、中に入る。
お母さんは床に横になっていた。
一瞬、ドキッとした。
私はきっと、この姿を見たくないんだ。
お母さんが突然仕事に行かなくなった日を思い出す。
ひとりでずっとお母さんの世話をしてきた日々を思い出す。
お母さんがいるから、何もかも諦めてきた日々を思い出す。
苦しかった、日々を…。
お母さんが振り向いて、ニコッと笑った。
「瑠那、帰っちゃったの?」
「…うん」
「お父さんも、帰っちゃった」
「そうだね。でも、また来るって言ってたよ」
「そうだね!」
お母さんの隣に座る。
「ご飯、おいしかったね」
「うん」
少し緊張しながら、スマホを出す。
前のお母さんなら“恋人?”とか、いちいち詮索してきた。
ニュースを見てるだけだって言っても信じてくれず、“嫌だ嫌だ”と駄々をこねた。
だから自然と私はスマホをほとんど見なくなった。
でも、穂と会うようになってからは“穂だよ”と言うと、すんなり信じた。
…何が違うんだろう?
『今、じいちゃんとお姉ちゃんが帰ったよ。お母さん、これから週1で通院することになった。通院は、しばらくじいちゃんが付き添ってくれるみたい。うつ病の人のコミュニティ?みたいなのにも参加することになったよ。あと、大学のことも言えた。じいちゃんが、学費出してくれるって』
お母さんはボーッとテレビを見ていた。
私がスマホをさわっていても、何も言わない。
『永那ちゃん、おつかれさま。連絡してくれてありがとう。大学のこと、話せて良かったね!お母さんの具合はどう?』
相変わらず、簡素だ。
簡潔だけど、まっすぐな穂の人柄を表しているみたい。
『うん、こちらこそありがとう。大丈夫そうだよ。今回は良い先生だったみたい』
『良かった』
それを使えば、全額は厳しかったとしても、半額くらいにはなるかもしれないと。
上手くいけば全額。
そういう説明もして、なんとか説得しようと思っていた。
なのに、こんなにも、あっさりと…。
「あ、ありがとうございます」
じいちゃんは「また来る」と言って帰った。
しばらくお母さんに「何勉強するの?」とか「将来何になりたいの?」とかいろいろ聞かれて、困った。
特別やりたいことがあるわけでもないし、理由も…穂と一緒がいいからって理由だったから。
「いいね」
お姉ちゃんが頬杖をつきながらボソッと言った。
「私も、大学行きたかった」
今までずっと、生活費を稼ぐために働いてくれていたお姉ちゃん。
…そりゃあ、そうだよね。
「今からでも行ったらいいじゃん」
お母さんが言って、お姉ちゃんが眉間にシワを寄せる。
「いくらあの人がまだ働いてるからって、さすがに2人分の学費は無理でしょ。それに、今更…」
「お姉ちゃん…!」
ちゃんと、言う。
「私、一応学校の成績は良いんだ。…それで、学費免除の制度とか、いろいろあるみたいで…もし、審査が通ったら、学費が安くなるって。あ、穂が!穂が、教えてくれて。だから…じいちゃんに…言ってみたら、いいんじゃないかな?い、今からでも…遅くないよ、きっと」
お姉ちゃんはため息をついて、目をそらす。
…やっぱり、私が言うことなんて…聞く価値もないのかな。
お姉ちゃんに相談してからじいちゃんにって思ってたけど、じいちゃんが先で良かったのかもしれない。
「瑠那は、何を勉強したいの?」
「…は?…そ、そんなの、急に言われたって、わかんない」
「ふーん?じゃあ、なんで大学に行きたいの?」
「同じ仕事量…いや、むしろ私のほうが仕事してるのに、給料は大卒のほうが良いのが気に食わないから」
お姉ちゃんが何の仕事をしているのかは、よくわからない。
でも、寮付きの会社で働いていることだけは知っている。
「そっかあ…。たしかに、お母さんも働いてたとき、正社員になれるのは大学卒業してる人ばっかりだったなあ。…お母さんも大学行っちゃおうかな!?そしたら、2人の学費も稼げるかも!」
お姉ちゃんが眉間を指で押さえる。
「今から大学行ったって、お金稼げるようになるのは何年後?」
「あ、そっか!えへへ」
穂が用意してくれたご飯を出す。
お母さんは「わあ!!穂ちゃんのご飯!」と嬉しそうにしていた。
「穂、お母さんに会いたがってたよ」
「私も会いたい~!」
お母さんが鞄から財布を出して、折りたたまれて、くしゃくしゃになった写真を取り出した。
「早く、みんなに会いたいなあ」
「また、呼ぶよ」
「うん!」
お姉ちゃんは黙々とご飯を口に運んでいた。
「私は、しばらく帰ってこないと思うけど…何かあったら連絡して」
お姉ちゃんが、靴を履いてドアを開けた瞬間、言った。
「え?」
「…なに?」
「あ、いや、なんでもない。わかった」
パタンとドアが閉まる。
“お礼、言わないと”
今、穂にそう言われた気がして、ドアを開ける。
「お姉ちゃん!」
階段を下りきったお姉ちゃんが振り向く。
「ありがとう!…ありがとう、お姉ちゃん。私、高校行けて良かった!」
ジッと見つめられた後、お姉ちゃんは何も言わずに歩き出す。
「ハァ」と息を吐くと、真っ白に染まる空気が寒さを強調させた。
両手を擦って、中に入る。
お母さんは床に横になっていた。
一瞬、ドキッとした。
私はきっと、この姿を見たくないんだ。
お母さんが突然仕事に行かなくなった日を思い出す。
ひとりでずっとお母さんの世話をしてきた日々を思い出す。
お母さんがいるから、何もかも諦めてきた日々を思い出す。
苦しかった、日々を…。
お母さんが振り向いて、ニコッと笑った。
「瑠那、帰っちゃったの?」
「…うん」
「お父さんも、帰っちゃった」
「そうだね。でも、また来るって言ってたよ」
「そうだね!」
お母さんの隣に座る。
「ご飯、おいしかったね」
「うん」
少し緊張しながら、スマホを出す。
前のお母さんなら“恋人?”とか、いちいち詮索してきた。
ニュースを見てるだけだって言っても信じてくれず、“嫌だ嫌だ”と駄々をこねた。
だから自然と私はスマホをほとんど見なくなった。
でも、穂と会うようになってからは“穂だよ”と言うと、すんなり信じた。
…何が違うんだろう?
『今、じいちゃんとお姉ちゃんが帰ったよ。お母さん、これから週1で通院することになった。通院は、しばらくじいちゃんが付き添ってくれるみたい。うつ病の人のコミュニティ?みたいなのにも参加することになったよ。あと、大学のことも言えた。じいちゃんが、学費出してくれるって』
お母さんはボーッとテレビを見ていた。
私がスマホをさわっていても、何も言わない。
『永那ちゃん、おつかれさま。連絡してくれてありがとう。大学のこと、話せて良かったね!お母さんの具合はどう?』
相変わらず、簡素だ。
簡潔だけど、まっすぐな穂の人柄を表しているみたい。
『うん、こちらこそありがとう。大丈夫そうだよ。今回は良い先生だったみたい』
『良かった』
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