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6.さんにん
408.冷たい
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「すみません」
日住君は鼻を啜って、ニコリと笑った。
「こんなこと言われても、先輩、困っちゃいますよね」
「そんなこと…ない…よ。…どう、答えてあげればいいのか、わからないのは事実だけど…日住君が悩んでるなら、聞きたいって思ってる」
まっすぐ見つめられる。
その顔に笑顔はない。
「やっぱり俺、先輩のこと、まだ好きみたいです」
“友達”と思っていたのは、私だけだった。
…そっか。そうだよね。そんな都合の良い関係には、なれないんだよね。
永那ちゃんが対抗心をいつまでも抱いていたこと…きっと、彼女は日住君の気持ちがわかっていたんだ。
「めちゃくちゃ悔しいです。自分が嫌になります」
彼は苦しそうに、吐き出すように言う。
「金井って、ちょっと先輩に似てるっていうか…なんか、似せてる?感じがするんですよ。俺の好みになろうとしてくれてるんだと思うんですけど、それが…それが…腹立って」
こんなにもハッキリと何かを…誰かを悪く言う日住君を初めて見て、ほんの少し、怖さを感じた。
「そんなことされたら、嫌でも先輩のこと思い出しますよ!…このデートの相手が空井先輩だったらなあ、とか、思っちゃいますよ!」
冷たい風が吹く。
「だったら…素の金井を見せてくれた方がよっぽどマシな気がします」
「…そう、金井さんに伝えることは、できないの?」
睨むように、彼は私を見た。
「それ言ったら、俺、完全に先輩に未練タラタラってバラすようなもんじゃないですか?」
木々が大きく揺れる。
ザワザワとした私の心を表すみたいに。
「羨ましいです…ホント。両角先輩が…羨ましい」
「…ごめんね」
「…なんで先輩が謝るんですか?」
「金井さんのこと、ちゃんと見てあげてって言ったのは私だし。…ずっと、日住君の気持ちに気づいてあげられなくて…ごめんなさい」
ただ、そう言うことしかできなかった。今の、私には。
「俺の方こそ…すみませんでした。引き止めて」
「そんなの…全然平気だよ。日住君が、このままずっとひとりで抱え込んで苦しくなるくらいなら、言ってくれたほうがいいから」
彼が小さく頷く。
「これからは、さ…一緒に帰るの、やめよっか」
日住君の目が大きく開かれる。
「私は、一緒にいると、日住君のことを大事な友達だと思っちゃう。日住君の気持ちを何も考えずに、ただ楽しく話しちゃうと思う。それが日住君が気持ちに整理をつけられない理由のひとつなら、線引きをすべきなのかなって思うよ」
彼の大きな瞳から、数粒の涙が零れ落ちた。
「永那ちゃんね、まだ私が日住君と一緒にいるのが気に食わないみたいなの。きっと、永那ちゃんはわかってたんだね。日住君がまだ私のことを好きでいてくれていること…。私、全然気づかなかった」
「そう、ですか…」
「金井さんとのことは、日住君が決めることだと思う…。どうしても好きになれないならお別れしてもいいと思うし、さっきの言葉を彼女に伝えてあげてもいいと思う。その決断を、私が邪魔しているなら、私は少し、日住君との距離の取り方を考えなくちゃいけない」
「ハハハッ」と彼が笑った。
そのことにビックリして、肩が上がる。
「空井先輩は、やっぱり空井先輩ですね」
「え…?」
「両角先輩と付き合って、すごく話しやすくなって、いろんなことを話してくれるようになったけど…やっぱり、そういうところは変わらないんですね」
「そういうところ…?」
「ハッキリ自分の意見を言うところです」
また言い方がキツくなっていたのかもしれないと、冷や汗が出る。
「ありがとうございます」
彼は何かを受け止めるように2度頷いて、まっすぐに私を見た。
「俺、自分でちゃんと答え、出しますね」
日住君が自転車に跨る。
「これで最後、ですね。一緒に帰るのも」
私が頷くと、彼は寂しそうに笑った。
「じゃあ、お疲れさまでした。また生徒会で」
「うん」
すぐに彼の背中が遠くなる。
…これで、良かったのかな?
何もわからない。
わからないけど、私も彼に背を向けて、家へと歩き出す。
一難去ってまた一難。
次から次へと、まだまだ未熟な私では対処しきれないことばかりが降りかかる。
それは、楽しかったり寂しかったり心があたたかくなったり胸が痛くなったりする。
永那ちゃんは、自分のことを“冷たい人間”と言った。
もしかしたら、人は誰しもそういう一面を持っているのかもしれない。
だって今、私はなんだか清々しい。
きっと日住君を傷つけたのに、なんだか、清々しい。
金井さんにも申し訳ないことをしたかもしれないと思うのに、一方で、あまり気にしていない自分もいる。
永那ちゃんと出会ってから、私はいろんなことを経験して、きっとたくさん成長した。
知らない自分をたくさん知った。
でも変わらない部分も、確かにあるんだ。
ひとつ息を吐く。
(帰ったら、勉強しよう)
すぐに、こんな風に切り替えられる私も、冷たい人間だと思った。
日住君は鼻を啜って、ニコリと笑った。
「こんなこと言われても、先輩、困っちゃいますよね」
「そんなこと…ない…よ。…どう、答えてあげればいいのか、わからないのは事実だけど…日住君が悩んでるなら、聞きたいって思ってる」
まっすぐ見つめられる。
その顔に笑顔はない。
「やっぱり俺、先輩のこと、まだ好きみたいです」
“友達”と思っていたのは、私だけだった。
…そっか。そうだよね。そんな都合の良い関係には、なれないんだよね。
永那ちゃんが対抗心をいつまでも抱いていたこと…きっと、彼女は日住君の気持ちがわかっていたんだ。
「めちゃくちゃ悔しいです。自分が嫌になります」
彼は苦しそうに、吐き出すように言う。
「金井って、ちょっと先輩に似てるっていうか…なんか、似せてる?感じがするんですよ。俺の好みになろうとしてくれてるんだと思うんですけど、それが…それが…腹立って」
こんなにもハッキリと何かを…誰かを悪く言う日住君を初めて見て、ほんの少し、怖さを感じた。
「そんなことされたら、嫌でも先輩のこと思い出しますよ!…このデートの相手が空井先輩だったらなあ、とか、思っちゃいますよ!」
冷たい風が吹く。
「だったら…素の金井を見せてくれた方がよっぽどマシな気がします」
「…そう、金井さんに伝えることは、できないの?」
睨むように、彼は私を見た。
「それ言ったら、俺、完全に先輩に未練タラタラってバラすようなもんじゃないですか?」
木々が大きく揺れる。
ザワザワとした私の心を表すみたいに。
「羨ましいです…ホント。両角先輩が…羨ましい」
「…ごめんね」
「…なんで先輩が謝るんですか?」
「金井さんのこと、ちゃんと見てあげてって言ったのは私だし。…ずっと、日住君の気持ちに気づいてあげられなくて…ごめんなさい」
ただ、そう言うことしかできなかった。今の、私には。
「俺の方こそ…すみませんでした。引き止めて」
「そんなの…全然平気だよ。日住君が、このままずっとひとりで抱え込んで苦しくなるくらいなら、言ってくれたほうがいいから」
彼が小さく頷く。
「これからは、さ…一緒に帰るの、やめよっか」
日住君の目が大きく開かれる。
「私は、一緒にいると、日住君のことを大事な友達だと思っちゃう。日住君の気持ちを何も考えずに、ただ楽しく話しちゃうと思う。それが日住君が気持ちに整理をつけられない理由のひとつなら、線引きをすべきなのかなって思うよ」
彼の大きな瞳から、数粒の涙が零れ落ちた。
「永那ちゃんね、まだ私が日住君と一緒にいるのが気に食わないみたいなの。きっと、永那ちゃんはわかってたんだね。日住君がまだ私のことを好きでいてくれていること…。私、全然気づかなかった」
「そう、ですか…」
「金井さんとのことは、日住君が決めることだと思う…。どうしても好きになれないならお別れしてもいいと思うし、さっきの言葉を彼女に伝えてあげてもいいと思う。その決断を、私が邪魔しているなら、私は少し、日住君との距離の取り方を考えなくちゃいけない」
「ハハハッ」と彼が笑った。
そのことにビックリして、肩が上がる。
「空井先輩は、やっぱり空井先輩ですね」
「え…?」
「両角先輩と付き合って、すごく話しやすくなって、いろんなことを話してくれるようになったけど…やっぱり、そういうところは変わらないんですね」
「そういうところ…?」
「ハッキリ自分の意見を言うところです」
また言い方がキツくなっていたのかもしれないと、冷や汗が出る。
「ありがとうございます」
彼は何かを受け止めるように2度頷いて、まっすぐに私を見た。
「俺、自分でちゃんと答え、出しますね」
日住君が自転車に跨る。
「これで最後、ですね。一緒に帰るのも」
私が頷くと、彼は寂しそうに笑った。
「じゃあ、お疲れさまでした。また生徒会で」
「うん」
すぐに彼の背中が遠くなる。
…これで、良かったのかな?
何もわからない。
わからないけど、私も彼に背を向けて、家へと歩き出す。
一難去ってまた一難。
次から次へと、まだまだ未熟な私では対処しきれないことばかりが降りかかる。
それは、楽しかったり寂しかったり心があたたかくなったり胸が痛くなったりする。
永那ちゃんは、自分のことを“冷たい人間”と言った。
もしかしたら、人は誰しもそういう一面を持っているのかもしれない。
だって今、私はなんだか清々しい。
きっと日住君を傷つけたのに、なんだか、清々しい。
金井さんにも申し訳ないことをしたかもしれないと思うのに、一方で、あまり気にしていない自分もいる。
永那ちゃんと出会ってから、私はいろんなことを経験して、きっとたくさん成長した。
知らない自分をたくさん知った。
でも変わらない部分も、確かにあるんだ。
ひとつ息を吐く。
(帰ったら、勉強しよう)
すぐに、こんな風に切り替えられる私も、冷たい人間だと思った。
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