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7.向
427.期待
“春休みは毎日一緒”と言いはしたものの、“土日はどちらか1日だけにしたい”と永那ちゃんから言われたのは数日前。
その日は、私が永那ちゃんの家に遊びに行くことになっている。
修了式から1日空けて、日曜日。
永那ちゃんの家の近所で、お母さんと3人でお花見をすることになった。
お母さんと一緒に、3人でお弁当を作る。
おにぎり、ソーセージ、ミニトマト、レタスときゅうりのサラダ、ゆで卵。
一昨日のお花見のお弁当と中身が似ているけれど、永那ちゃんはお母さんが一緒に作れる物を…と考えていた。
食材は事前に永那ちゃんが買っておいてくれた。
「穂ちゃん、そろそろ春休みでしょ?いつから?…永那、教えてくれないの」
お母さんがおにぎりを握りながら言う。
なんて返せばいいかわからず永那ちゃんを見ると、ソーセージを焼きながら、こちらを向いてくれる。
「だーかーら、もう春休みだけど、受験勉強のために学校行くんだって」
「それじゃあ春休みじゃないじゃん!…ねえ?」
お母さんに上目遣いに聞かれ、ただ苦笑する。
「みんな勉強してんだよ?私だけしないなんておかしいじゃん」
「穂ちゃんも勉強あるの?」
「はい」
「寂しい~」
崩れるようにしゃがみ込んで、お母さんが俯く。
私はお弁当箱に食べ物を詰めて、お母さんのおにぎりが完成するのを待つ。
「ほら、お母さん。お花見行くんでしょ?そのためにお洒落だってしたんだから、準備終わらせて行こうよ?」
お弁当箱の空いているスペースに、焼き終えたソーセージを永那ちゃんが詰めてくれる。
「うん…」
お母さんはなんとか立ち上がり、最後のひとつを握り終えると、スイッチが切り替わったようにパッと明るい笑顔になった。
「おっ花見おっ花見楽しいな~」
お母さんはくるくると回りながら道を歩く。
「お母さん、危ないよ」
永那ちゃんがお母さんの腕を掴むと、「むぅ~!こんな日くらいいいじゃん!」と拗ねながらも、永那ちゃんに寄りかかるようにして歩き始める。
「お母さん、前、これでコケて血、出したんだよ」
永那ちゃんは困ったように眉根を下げて、私を見た。
「ここ、坂道だもんね」
「そうそう」
「そんな昔の話はいいの!」
「昔じゃないからね?ついこの間もコケそうになってたよね?」
「コケそうになっただけで!コケてないもん!」
「はいはい」
「“はいはい”じゃない~!適当!永那適当過ぎ!ねえ?穂ちゃん」
「そうですね。永那ちゃんはちょっと適当なところがありますね」
「え~!?私、結構丁寧でマメな方だと、自分では思ってんだけどなー」
「いっつもグチグチグチグチ、厳しいことばっかり言うのに!返事とかは適当なの!嫌~!!」
「嫌って言われても…」
「嫌!嫌!嫌!」
お母さんの口調が強くなり、今まで寄りかかりながら歩いていたはずの永那ちゃんを突き放す。
永那ちゃんは首筋をポリポリ掻いて「わかったわかった」とお母さんに近づいた。
「“わかったわかった”じゃない~!!」
「わかったよ」
永那ちゃんが半ば強引にお母さんの頭を撫でて、黙らせるような形になる。
…少し、気まずい空気。
公園につくと、シートを敷いている団体が何組かいた。
「端っこなら空いてるかな?」
桜の木の真下は既に人で埋まっていたので、少し離れた場所にシートを敷いた。
「桜の下が良かった」
「しょうがないよ。ここ、そんなに広くない公園だしさ。日曜だし」
「遠くから見る桜も綺麗ですよ?」
私が言うと、しばらく遠くの桜を眺めてから「そうだね」と笑顔を向けられてホッとする。
お弁当を食べ終えて、お母さんがトイレに行った。
私達の座っている場所からでもトイレが見えるからか、永那ちゃんはお母さんについて行かなかった。
お母さんの走る後ろ姿を、永那ちゃんはボーッと眺めて、トイレに入ったのを確認してから私を見た。
「ごめんね、穂」
「なにが?」
「お母さん、ちょっと今日コンディションあんま良くないみたいで」
気分にムラがあったのは、そのせいかな。
「そっか。私は、大丈夫だよ」
ため息をつきながら、永那ちゃんが頷く。
「今日は早めのお開きでもいいかな?」
「うん。そうしてあげて」
「ごめん」
「謝らなくていいよ!本当に平気だから」
「ありがと…」
落ち込む永那ちゃんの手を握る。
「明日、楽しみだね」
彼女の表情が和らぐ。
柔らかな日差しに照らされて、瞳がキラキラ輝いた気がした。
「穂と2人きり」
「誉がいるかもしれないけどね?」
「でも、部屋にいれば2人きりでしょ?」
「まあ、ね?」
「何日かは、本当の2人きりになれるかな?」
「…一応、オンライン授業があるって言ってあるから、気は使ってくれると思うよ」
「さすが誉!出来る男は違うな!」
「出来る男って…」
「やっぱさ、たぶんさ、誉みたいな奴は、大人になっても気の利く良い奴になると思うんだよね」
「そ、そうかな?…そうだといいけど」
「そうだよ!穂は誉の評価低すぎだって!」
「そっか」
永那ちゃんが言うなら、誉は本当にそういう人になりそう。
その日は、私が永那ちゃんの家に遊びに行くことになっている。
修了式から1日空けて、日曜日。
永那ちゃんの家の近所で、お母さんと3人でお花見をすることになった。
お母さんと一緒に、3人でお弁当を作る。
おにぎり、ソーセージ、ミニトマト、レタスときゅうりのサラダ、ゆで卵。
一昨日のお花見のお弁当と中身が似ているけれど、永那ちゃんはお母さんが一緒に作れる物を…と考えていた。
食材は事前に永那ちゃんが買っておいてくれた。
「穂ちゃん、そろそろ春休みでしょ?いつから?…永那、教えてくれないの」
お母さんがおにぎりを握りながら言う。
なんて返せばいいかわからず永那ちゃんを見ると、ソーセージを焼きながら、こちらを向いてくれる。
「だーかーら、もう春休みだけど、受験勉強のために学校行くんだって」
「それじゃあ春休みじゃないじゃん!…ねえ?」
お母さんに上目遣いに聞かれ、ただ苦笑する。
「みんな勉強してんだよ?私だけしないなんておかしいじゃん」
「穂ちゃんも勉強あるの?」
「はい」
「寂しい~」
崩れるようにしゃがみ込んで、お母さんが俯く。
私はお弁当箱に食べ物を詰めて、お母さんのおにぎりが完成するのを待つ。
「ほら、お母さん。お花見行くんでしょ?そのためにお洒落だってしたんだから、準備終わらせて行こうよ?」
お弁当箱の空いているスペースに、焼き終えたソーセージを永那ちゃんが詰めてくれる。
「うん…」
お母さんはなんとか立ち上がり、最後のひとつを握り終えると、スイッチが切り替わったようにパッと明るい笑顔になった。
「おっ花見おっ花見楽しいな~」
お母さんはくるくると回りながら道を歩く。
「お母さん、危ないよ」
永那ちゃんがお母さんの腕を掴むと、「むぅ~!こんな日くらいいいじゃん!」と拗ねながらも、永那ちゃんに寄りかかるようにして歩き始める。
「お母さん、前、これでコケて血、出したんだよ」
永那ちゃんは困ったように眉根を下げて、私を見た。
「ここ、坂道だもんね」
「そうそう」
「そんな昔の話はいいの!」
「昔じゃないからね?ついこの間もコケそうになってたよね?」
「コケそうになっただけで!コケてないもん!」
「はいはい」
「“はいはい”じゃない~!適当!永那適当過ぎ!ねえ?穂ちゃん」
「そうですね。永那ちゃんはちょっと適当なところがありますね」
「え~!?私、結構丁寧でマメな方だと、自分では思ってんだけどなー」
「いっつもグチグチグチグチ、厳しいことばっかり言うのに!返事とかは適当なの!嫌~!!」
「嫌って言われても…」
「嫌!嫌!嫌!」
お母さんの口調が強くなり、今まで寄りかかりながら歩いていたはずの永那ちゃんを突き放す。
永那ちゃんは首筋をポリポリ掻いて「わかったわかった」とお母さんに近づいた。
「“わかったわかった”じゃない~!!」
「わかったよ」
永那ちゃんが半ば強引にお母さんの頭を撫でて、黙らせるような形になる。
…少し、気まずい空気。
公園につくと、シートを敷いている団体が何組かいた。
「端っこなら空いてるかな?」
桜の木の真下は既に人で埋まっていたので、少し離れた場所にシートを敷いた。
「桜の下が良かった」
「しょうがないよ。ここ、そんなに広くない公園だしさ。日曜だし」
「遠くから見る桜も綺麗ですよ?」
私が言うと、しばらく遠くの桜を眺めてから「そうだね」と笑顔を向けられてホッとする。
お弁当を食べ終えて、お母さんがトイレに行った。
私達の座っている場所からでもトイレが見えるからか、永那ちゃんはお母さんについて行かなかった。
お母さんの走る後ろ姿を、永那ちゃんはボーッと眺めて、トイレに入ったのを確認してから私を見た。
「ごめんね、穂」
「なにが?」
「お母さん、ちょっと今日コンディションあんま良くないみたいで」
気分にムラがあったのは、そのせいかな。
「そっか。私は、大丈夫だよ」
ため息をつきながら、永那ちゃんが頷く。
「今日は早めのお開きでもいいかな?」
「うん。そうしてあげて」
「ごめん」
「謝らなくていいよ!本当に平気だから」
「ありがと…」
落ち込む永那ちゃんの手を握る。
「明日、楽しみだね」
彼女の表情が和らぐ。
柔らかな日差しに照らされて、瞳がキラキラ輝いた気がした。
「穂と2人きり」
「誉がいるかもしれないけどね?」
「でも、部屋にいれば2人きりでしょ?」
「まあ、ね?」
「何日かは、本当の2人きりになれるかな?」
「…一応、オンライン授業があるって言ってあるから、気は使ってくれると思うよ」
「さすが誉!出来る男は違うな!」
「出来る男って…」
「やっぱさ、たぶんさ、誉みたいな奴は、大人になっても気の利く良い奴になると思うんだよね」
「そ、そうかな?…そうだといいけど」
「そうだよ!穂は誉の評価低すぎだって!」
「そっか」
永那ちゃんが言うなら、誉は本当にそういう人になりそう。
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