いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

465.バランス

手を繋ぐ。
春風が私達の背中を押す。
永那ちゃんが気持ち良さそうに目を閉じた。
「今日、芹奈に会えて良かったね」
「なーんか、穂が“芹奈”って言ってると変な感じする」
「そう?」
「うん。めちゃくちゃ違和感ある」
「私もまだ慣れないよ?」
「だろうね」
「芹奈は…友達だったんだよね?」
「うん」
俯きながら、視線だけ永那ちゃんに遣る。
永那ちゃんは流し目になる。
「どうせ、千陽か芹奈が暴露するんだろうから…言っとく」
その言葉で、なんとなく予想が出来て、唾を飲む。
「あいつとも、シてた」
胸が、チクリと痛む。
「でも、本当に友達だったと…私は思ってる」
「そっか」
「ごめんね」
「どうして謝るの?」
「良い気しないじゃん?」
「それは…。でも、芹奈と話してるのを聞いてたら、友達だったんだなって、思うよ」

「芹奈はね、小学校も同じだったんだ」
「そうなんだ?」
「うん。クラスはずっと違ったし、話したこともなかったけど、あいつ学校で目立ってたから知ってた」
「千陽とは…」
「違うよ。ほら、家離れてるでしょ?」
頷く。
「芹奈とは割と家が近くて…。だからさっきも公園で会っちゃったし」
「そっか。…永那ちゃんの小学生時代、ちょっと興味ある」
「生意気なクソガキだよ。100%穂に叱られてるだろうな」
「それで、永那ちゃんは笑うの」
永那ちゃんが急に立ち止まるから、私も止まる。
「永那ちゃ」
唇が塞がれる。
胸が、小さく音を鳴らす。
「好き」
「急だね…」
「好きって思ったんだもん、今」
「私も、好きだよ?永那ちゃんのこと」
ニシシと永那ちゃんが歯を見せて笑う。
「穂と同じ小学校か~、いいね。楽しそう」
「私は…みんなに好かれてなかったけど…」
「私は好きだからいいの。…でも、中学の時の私は見られたくないからな~、難しい」
「狂った野獣の永那ちゃん?」
「野獣じゃない」
“狂った”は否定しないのかな…?
「怪獣の、永那ちゃん…?」
フッと彼女が笑う。
「それは穂にだけ」

繋いだ手を振りながら、歩く。
「3ヶ月間、一緒に暮らしてた時」
「うん」
「永那ちゃんの知り合いに出会わなかったね?」
「そりゃ、私が避けてるから」
「避けてる?」
「そう。見つかりそうになったら、逃げるか隠れる」
「…実は、会ってたってこと?」
ジトーッと彼女を見る。
「会ってた…とは言わないんじゃないかな?」
「永那ちゃん、秘密ばっかり」
「す、穂には1番言ってるつもりだよ!?…隠してるつもりも、ないし」
「芹奈と永那ちゃんの関係、千陽は知ってるんでしょ?」
「そ、それは…同じ中学だったから…」
頬に空気を溜める。
「まだ言ってないことは?」
「えぇ…。中学の時ヤった人のこと、全部言うの?」
「知りたいな」
「マジか…」
ポリポリ頭を掻く永那ちゃん。
「ん~…」
「どうしても言いたくないなら、いいけど…」
「穂、傷つかない?」
「…わからない」
「穂が傷つくなら言いたくない」
「じゃあ、傷つかない。…傷つかない程度に、教えて?」
「難しいこと言うなぁ…」
永那ちゃんが呆れたように笑う。

「千陽がよく見てる動画の人」
「中学校の先輩って人?」
「そう。あの人も…」
いきなりショックが大きかった。
だからあんなに永那ちゃんは見たがらなかったんだ…!
良い曲だと思って聞いてたけど…言葉に言い表せないショックを受けている…。
「もう、やめとく?」
真顔で聞かれ、口角を上げてみるけど、頬がピクピクと痙攣した。
永那ちゃんの左眉が上がる。
「どうする?」
「…聞く」
「あとは…あの人と同級生、だから、その人も先輩だけど…今は寮がある遠い学校に通ってる人とか。後輩と、同級生とも何人か…。他校の人もいたな」
何人か!?他校の人!?
頭の中が大混乱だ。
「な、何人?」
「ちょっと…数は、正確には、あんまり、覚えてない」
想像を遥かに超えていた。
「引いた?やっぱ、キモい?最低?」
深呼吸する。

「引かないし、キモいとも思わない。最低なんて、全然思わない。でも、ビックリした…」
「ホントに?ホントにビックリしただけ?」
「うん。…だって、永那ちゃんにとっては、ストレス発散だったんでしょ?仕方なかったんでしょ?」
「まあ…。でも…たくさんの人を、傷つけた」
「恨まれてるの?」
「ハハッ」と彼女が笑う。
「どうだろ?恨まれてるかも。いきなりグサッとやられる日が来たりして…」
「や、やめてよ!…だ、ダメ!それは、それだけはダメ…」
怖くなって、手汗が出る。
「穂、やっぱおかしいよ」
「え?」
「穂はおかしい」
「な、なんで?…誰だって、大切な人が傷つくなんて、嫌でしょ?」
彼女はまた笑う。
「そういう意味じゃないけど…。でもさ?例えグサッと刺される日が来たのだとしても、私はきっとそれ以上に相手を傷つけたんだと、思うよ」
「そんなに、傷つけたの?…そんなに、酷いことしたの?」
「…わかんない」
彼女の瞳が、遠くを映す。
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