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「初めてお母さんが入院した時、慰めてもらったんだ。辛くて、苦しくて…誰にも言えなくて…どうすればいいか、わからなかった」
彼女が俯く。
「慰めてもらったのに…“好き”って言ってくれてたのに…私、自分が慰めてもらうことばっか考えて、その人の気持ち、蔑ろにした」
「その人は…」
「先輩。…動画の人じゃない。遠くに行っちゃった人。その人を傷つけてから、すごい荒れて、自分でも自分のこと、よくわかんなくなった」
駅は目の前だった。
それでも私達は、話を続ける。
「動画の人は、何か言ってくれるわけじゃなかったけど、私が何言っても笑って許してくれた。素直に甘えられた。その人も卒業しちゃって、中3になる前に、お姉ちゃんが出てって、私ひとりでお母さんの世話しなくちゃいけなくなって…その頃のことは、もう、ほとんど記憶ない」
さっき“覚えてない”と言ったのは、そもそも中学3年生の時の記憶があんまりないからなのかな。
「お母さんが1番酷かった時期だったのだけは覚えてる。脚、刺されたのも、その時。とにかく毎日必死だった。ストレス発散のために、“かっこいい”とか“優しい”とか言ってくる人に、片っ端から八つ当たりした」
八つ当たり…。エッチしたってことだよね…。
当時の永那ちゃんに出会っていたら、私は…彼女を引っ叩いていたかもしれない。
事情も何も知らず、ただ叱るだけ。
私はそういう人だった。
だから仲良くは、なれていなかったんだろうな。
それこそ“最低”と思ってしまっていたかもしれない。
でも、私は今の永那ちゃんしか知らない。
今の永那ちゃんは、私のことを誰よりも大切にしようとしてくれている。
いつも私の問いかけに真剣に答えてくれる。…今だって。
3人でシた日、永那ちゃんと千陽が喧嘩した時、永那ちゃんが出ていこうとした。
“千陽を傷つけた”って、出ていこうとした。
永那ちゃんが誰かを傷つけることに怯えているのは、過去にたくさんの人を傷つけてしまったと自覚しているからなのだとわかる。
“傷つけた”って、自分のしてしまったことを受け止めているのなら、私が言えることは何もない。
それに、相手が“かっこいい”とか“優しい”とか言って近づいてきたなら、それはそれでいいんじゃないかとも思えてしまう。
相手にも何かしらの下心はあったわけで、嫌がる人を無理矢理永那ちゃんが襲った…とかではないのなら、関係は対等なようにも思える。
芹奈は、“ちゃんと好きだった”と言っていた。
千陽だって、永那ちゃんを1番近くで見ていたはずなのに、ずっと永那ちゃんのことが好きだ。
もしかしたら他の人も、そうだったんじゃないかな…。
永那ちゃんが…この、優しい永那ちゃんが、他人にそんなに酷いことをするなんて、想像もできない。
永那ちゃんは結果的に誰かを傷つけてしまったのかもしれないけれど、“過程”は違ったんじゃない?
だからみんな、永那ちゃんの八つ当たりに、付き合ってくれたんじゃないのかな。
横に立つ彼女は、つま先で地面を蹴っていた。
「受験、大変だったんじゃない?」
永那ちゃんが小さく笑う。
「穂、疑問に思うとこ、そこ?」
「あ…ご、ごめんね…」
「謝ることないよ。穂らしくて、好き。…受験は、気づいたら終わってた」
「気づいたら?」
フフッと彼女が優しく笑う。
受験って、気づいたら終わってるものだったかな…?
合格圏内ではあっても、私はそれなりに勉強したけれど。
「千陽がいろいろ探してくれてさ?そん中から適当に選んだのが、今の高校。そう考えると、穂に出会えたの、千陽のおかげだね」
永那ちゃんは私を見ない。
「…永那ちゃん」
「ん?」
「嫌なことを、思い出させてしまって、ごめんなさい。…話してくれて、ありがとう。知れて良かった」
やっと私のことを見て、ニッとぎこちなく笑う。
「永那ちゃんは、たくさんの人に助けてもらったんだね」
彼女が目を丸くする。
「そう、聞こえた?」
「うん。小倉さんも…そのひとりだったんでしょ?」
フゥーッと彼女が息を吐く。
口元に弧を描きながら、空を見た。
「そうだね。…うん、ホントだね。感謝しなきゃ」
何度も頷いて、楽しそうに笑みを浮かべる。
「でも」
流し目になる。
「こうして話を聞いてくれたのは、穂だけだったよ」
手を引かれる。
「私さ、恥ずかしくて、自分のこととか、あんまり話せないんだよね。お母さんのことも、そうだったけど。でも、本当は言いたいんだ。本当は、叫びたいくらい、ぶちまけたいくらい、言いたい。…だから、いつも穂が聞いてくれて、無理矢理にでも話させてくれて、嬉しい」
…確かにお母さんのこと、“病気”とは言われたけれど、どんな病気かは私が聞かなければ言ってくれなかったのかもしれない。
中学生の頃の話も。
「無理矢理って…良いことなのかな?」
「少なくとも私にとっては良いことだよ。自信持って」
自信が持てるかどうかはさておき、とりあえず頷く。
「そろそろ帰んないと、お母さんが拗ねちゃう」
「あ!そうだね!」
「また明日ね。穂」
「うん、また明日」
「気をつけて帰ってね」
「永那ちゃんもね」
「うん」
いつものように、手を振った。
彼女が俯く。
「慰めてもらったのに…“好き”って言ってくれてたのに…私、自分が慰めてもらうことばっか考えて、その人の気持ち、蔑ろにした」
「その人は…」
「先輩。…動画の人じゃない。遠くに行っちゃった人。その人を傷つけてから、すごい荒れて、自分でも自分のこと、よくわかんなくなった」
駅は目の前だった。
それでも私達は、話を続ける。
「動画の人は、何か言ってくれるわけじゃなかったけど、私が何言っても笑って許してくれた。素直に甘えられた。その人も卒業しちゃって、中3になる前に、お姉ちゃんが出てって、私ひとりでお母さんの世話しなくちゃいけなくなって…その頃のことは、もう、ほとんど記憶ない」
さっき“覚えてない”と言ったのは、そもそも中学3年生の時の記憶があんまりないからなのかな。
「お母さんが1番酷かった時期だったのだけは覚えてる。脚、刺されたのも、その時。とにかく毎日必死だった。ストレス発散のために、“かっこいい”とか“優しい”とか言ってくる人に、片っ端から八つ当たりした」
八つ当たり…。エッチしたってことだよね…。
当時の永那ちゃんに出会っていたら、私は…彼女を引っ叩いていたかもしれない。
事情も何も知らず、ただ叱るだけ。
私はそういう人だった。
だから仲良くは、なれていなかったんだろうな。
それこそ“最低”と思ってしまっていたかもしれない。
でも、私は今の永那ちゃんしか知らない。
今の永那ちゃんは、私のことを誰よりも大切にしようとしてくれている。
いつも私の問いかけに真剣に答えてくれる。…今だって。
3人でシた日、永那ちゃんと千陽が喧嘩した時、永那ちゃんが出ていこうとした。
“千陽を傷つけた”って、出ていこうとした。
永那ちゃんが誰かを傷つけることに怯えているのは、過去にたくさんの人を傷つけてしまったと自覚しているからなのだとわかる。
“傷つけた”って、自分のしてしまったことを受け止めているのなら、私が言えることは何もない。
それに、相手が“かっこいい”とか“優しい”とか言って近づいてきたなら、それはそれでいいんじゃないかとも思えてしまう。
相手にも何かしらの下心はあったわけで、嫌がる人を無理矢理永那ちゃんが襲った…とかではないのなら、関係は対等なようにも思える。
芹奈は、“ちゃんと好きだった”と言っていた。
千陽だって、永那ちゃんを1番近くで見ていたはずなのに、ずっと永那ちゃんのことが好きだ。
もしかしたら他の人も、そうだったんじゃないかな…。
永那ちゃんが…この、優しい永那ちゃんが、他人にそんなに酷いことをするなんて、想像もできない。
永那ちゃんは結果的に誰かを傷つけてしまったのかもしれないけれど、“過程”は違ったんじゃない?
だからみんな、永那ちゃんの八つ当たりに、付き合ってくれたんじゃないのかな。
横に立つ彼女は、つま先で地面を蹴っていた。
「受験、大変だったんじゃない?」
永那ちゃんが小さく笑う。
「穂、疑問に思うとこ、そこ?」
「あ…ご、ごめんね…」
「謝ることないよ。穂らしくて、好き。…受験は、気づいたら終わってた」
「気づいたら?」
フフッと彼女が優しく笑う。
受験って、気づいたら終わってるものだったかな…?
合格圏内ではあっても、私はそれなりに勉強したけれど。
「千陽がいろいろ探してくれてさ?そん中から適当に選んだのが、今の高校。そう考えると、穂に出会えたの、千陽のおかげだね」
永那ちゃんは私を見ない。
「…永那ちゃん」
「ん?」
「嫌なことを、思い出させてしまって、ごめんなさい。…話してくれて、ありがとう。知れて良かった」
やっと私のことを見て、ニッとぎこちなく笑う。
「永那ちゃんは、たくさんの人に助けてもらったんだね」
彼女が目を丸くする。
「そう、聞こえた?」
「うん。小倉さんも…そのひとりだったんでしょ?」
フゥーッと彼女が息を吐く。
口元に弧を描きながら、空を見た。
「そうだね。…うん、ホントだね。感謝しなきゃ」
何度も頷いて、楽しそうに笑みを浮かべる。
「でも」
流し目になる。
「こうして話を聞いてくれたのは、穂だけだったよ」
手を引かれる。
「私さ、恥ずかしくて、自分のこととか、あんまり話せないんだよね。お母さんのことも、そうだったけど。でも、本当は言いたいんだ。本当は、叫びたいくらい、ぶちまけたいくらい、言いたい。…だから、いつも穂が聞いてくれて、無理矢理にでも話させてくれて、嬉しい」
…確かにお母さんのこと、“病気”とは言われたけれど、どんな病気かは私が聞かなければ言ってくれなかったのかもしれない。
中学生の頃の話も。
「無理矢理って…良いことなのかな?」
「少なくとも私にとっては良いことだよ。自信持って」
自信が持てるかどうかはさておき、とりあえず頷く。
「そろそろ帰んないと、お母さんが拗ねちゃう」
「あ!そうだね!」
「また明日ね。穂」
「うん、また明日」
「気をつけて帰ってね」
「永那ちゃんもね」
「うん」
いつものように、手を振った。
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