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8.閑話
56.永那 中3 夏《如月梓編》
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『違う塾に行くことにしたんだ…。ごめんね』
『そっか!言っとくわ!ありがと!』
『永那は、なんで塾に行かないの?』
『行く必要なんかないからさ!(笑)』
永那がニシシと笑っている姿が思い浮かぶ。
あぁ…会いたいな…。
もっと話してみたい。
『ウソウソ、塾通うお金ないだけ(笑)』
『永那は、天才だからでしょ?』
塾での会話を思い出して、ついニヤニヤしてしまう。
『まあね!そうだった、そうでした!私は天才でした!』
笑みが溢れて、ハッとして、周りを見渡す。
…よかった。誰にも見られてなかった。
『私も天才になりたい』
『天才は苦労も多いぞ?』
『そうなの?どんな?』
返事が途絶えて、机に突っ伏していると、チャイムが鳴った。
鞄にスマホをしまう。
永那も授業が始まるのかな…?
次の休み時間も、次の休み時間も、返事はなかった。
昼休みに紬が私のところにやって来て、一緒にお昼を食べる。
なんだかんだ、みんな紬に優しくて、紬もノリが良いから、私の友達と楽しそうに話している。
昨日のドラマの話とか、流行ってるダンスをみんなで踊って動画を撮ったりとか…。
私は興味がないからみんなの様子を見ているだけだけど、紬はノリノリだ。
いつもの光景。
塾に行き、ピアノや書道までやっていて、よく流行りについていけるなあ…なんて、感心する。
その上、科学部にまで所属してるんだから、体力お化けだと思う。
私は…ゲームばっかりだ。
ドラマもダンスも興味がない。
でも最近お母さんにゲームを取り上げられて、仕方なくスマホのゲームをインストールしてみるも、あまりハマらずに、ただぐーたら過ごす日々を送っている。
…そうだ。何もやることがなかったから、ストーカーみたいなことをしてしまったんだ。
反省、反省。
…紬も、天才なのかな。
永那、“苦労も多い”って言ってたけど、やっぱり才能があるって大変なのかな。
それだけ周りから期待もされるんだろうし。
紬のお母さんは、紬が誇らしくてたまらないらしい。
たまに私のお母さんが文句を言ってくる。
「紬ちゃんは、あんなに凄いのに、それに比べてあんたは…!」って。
大体そう言う時は、紬のお母さんに何かを自慢された時だ。
紬の成績が学年1位だったとか、ピアノや書道のコンクールで入賞したとか。
もっと小さい話で言えば、塾の先生にかなりレベルの高い高校を狙えると褒められたとか。
我が家にはお兄ちゃんもいるけど、お兄ちゃんもゲーム好きで…というか、お兄ちゃんがゲームが好きだったから、その影響で私も好きになったんだけど…。
兄妹揃って勉強も運動も出来ず、特に秀でた何かがあるわけでもないから、お母さんが怒るのも無理はない。
お兄ちゃんは「ゲームで生きていく!」とか言ってるけど、世の中そんなに甘くないことも、私は知っている。
紬にもお兄ちゃんがいた。…いる。
つい過去形になってしまうのは、ここ数年彼の姿を見ていないからだ。
紬と同じように成績優秀で、小さい頃に遊んでもらった記憶があるけど…今は一人暮らしをしているんだったかな?
年齢的には大学生のはずだ。
お母さんの話によれば、国立大学に合格したんだとか…。
すごいなあ…。
隣に住んでるけど、まるで別世界だ。
それから1週間、永那から返事はなかった。
“もう来ないのかな”と傷心していた頃、返事がきた。
『返事できなくてごめん。会いたいんだけど、会えない?』
急なお誘いに、鼻息が粗くなる。
『会える!』
即レスしてしまった…。
後悔しても、もう遅い。
すぐに既読がついた。
『今日会える?』
今日!?!?
『会える』
さっきと打って変わって、一文字一文字ゆっくり入力した。
授業は全く集中できず(いつもできてない)、放課後が近づくにつれ、動悸が止まらなくなった。
私の中学の近くまで来てくれると言うので、カフェで待ち合わせることになった。
お店に入って見回してみても、まだ永那は来ておらず、先にアイスカフェオレを注文して、席についた。
30分くらい待ってると、永那が汗を拭きながら店内に入ってきた。
…走ってきたのかな?
目が合うと、手を振ってくれる。
小さく振り返す。
小走りに私の元まで来て「私も注文してくるね」と、荷物を席に置いて、注文カウンターに向かった。
ドキドキする…。
30分間、緊張しすぎて手がずっと冷たかったけど、もう感覚すらない。
彼女がオレンジジュースを片手に、席に座った。
「ごめんね、待たせたよね?」
「ううん!大丈夫…!」
「いや~、カフェのオレンジジュースって高いね。スーパーの5倍以上の値段…」
「そ、そうだね」
さっき汗を拭いていたけど、まだ流れている。
もう、むし暑いもんね。
彼女はゴクゴクと、一気に半分以上を飲み干し、「ハァ~!」と気持ち良さそうにする。
「んで、本題なんだけど」
…本題?
永那は手元のコップに刺さったストローを指先でクルクル回した。
その姿に、余計に緊張して、少し目眩がしてくる。
一体なんだろう…?
『そっか!言っとくわ!ありがと!』
『永那は、なんで塾に行かないの?』
『行く必要なんかないからさ!(笑)』
永那がニシシと笑っている姿が思い浮かぶ。
あぁ…会いたいな…。
もっと話してみたい。
『ウソウソ、塾通うお金ないだけ(笑)』
『永那は、天才だからでしょ?』
塾での会話を思い出して、ついニヤニヤしてしまう。
『まあね!そうだった、そうでした!私は天才でした!』
笑みが溢れて、ハッとして、周りを見渡す。
…よかった。誰にも見られてなかった。
『私も天才になりたい』
『天才は苦労も多いぞ?』
『そうなの?どんな?』
返事が途絶えて、机に突っ伏していると、チャイムが鳴った。
鞄にスマホをしまう。
永那も授業が始まるのかな…?
次の休み時間も、次の休み時間も、返事はなかった。
昼休みに紬が私のところにやって来て、一緒にお昼を食べる。
なんだかんだ、みんな紬に優しくて、紬もノリが良いから、私の友達と楽しそうに話している。
昨日のドラマの話とか、流行ってるダンスをみんなで踊って動画を撮ったりとか…。
私は興味がないからみんなの様子を見ているだけだけど、紬はノリノリだ。
いつもの光景。
塾に行き、ピアノや書道までやっていて、よく流行りについていけるなあ…なんて、感心する。
その上、科学部にまで所属してるんだから、体力お化けだと思う。
私は…ゲームばっかりだ。
ドラマもダンスも興味がない。
でも最近お母さんにゲームを取り上げられて、仕方なくスマホのゲームをインストールしてみるも、あまりハマらずに、ただぐーたら過ごす日々を送っている。
…そうだ。何もやることがなかったから、ストーカーみたいなことをしてしまったんだ。
反省、反省。
…紬も、天才なのかな。
永那、“苦労も多い”って言ってたけど、やっぱり才能があるって大変なのかな。
それだけ周りから期待もされるんだろうし。
紬のお母さんは、紬が誇らしくてたまらないらしい。
たまに私のお母さんが文句を言ってくる。
「紬ちゃんは、あんなに凄いのに、それに比べてあんたは…!」って。
大体そう言う時は、紬のお母さんに何かを自慢された時だ。
紬の成績が学年1位だったとか、ピアノや書道のコンクールで入賞したとか。
もっと小さい話で言えば、塾の先生にかなりレベルの高い高校を狙えると褒められたとか。
我が家にはお兄ちゃんもいるけど、お兄ちゃんもゲーム好きで…というか、お兄ちゃんがゲームが好きだったから、その影響で私も好きになったんだけど…。
兄妹揃って勉強も運動も出来ず、特に秀でた何かがあるわけでもないから、お母さんが怒るのも無理はない。
お兄ちゃんは「ゲームで生きていく!」とか言ってるけど、世の中そんなに甘くないことも、私は知っている。
紬にもお兄ちゃんがいた。…いる。
つい過去形になってしまうのは、ここ数年彼の姿を見ていないからだ。
紬と同じように成績優秀で、小さい頃に遊んでもらった記憶があるけど…今は一人暮らしをしているんだったかな?
年齢的には大学生のはずだ。
お母さんの話によれば、国立大学に合格したんだとか…。
すごいなあ…。
隣に住んでるけど、まるで別世界だ。
それから1週間、永那から返事はなかった。
“もう来ないのかな”と傷心していた頃、返事がきた。
『返事できなくてごめん。会いたいんだけど、会えない?』
急なお誘いに、鼻息が粗くなる。
『会える!』
即レスしてしまった…。
後悔しても、もう遅い。
すぐに既読がついた。
『今日会える?』
今日!?!?
『会える』
さっきと打って変わって、一文字一文字ゆっくり入力した。
授業は全く集中できず(いつもできてない)、放課後が近づくにつれ、動悸が止まらなくなった。
私の中学の近くまで来てくれると言うので、カフェで待ち合わせることになった。
お店に入って見回してみても、まだ永那は来ておらず、先にアイスカフェオレを注文して、席についた。
30分くらい待ってると、永那が汗を拭きながら店内に入ってきた。
…走ってきたのかな?
目が合うと、手を振ってくれる。
小さく振り返す。
小走りに私の元まで来て「私も注文してくるね」と、荷物を席に置いて、注文カウンターに向かった。
ドキドキする…。
30分間、緊張しすぎて手がずっと冷たかったけど、もう感覚すらない。
彼女がオレンジジュースを片手に、席に座った。
「ごめんね、待たせたよね?」
「ううん!大丈夫…!」
「いや~、カフェのオレンジジュースって高いね。スーパーの5倍以上の値段…」
「そ、そうだね」
さっき汗を拭いていたけど、まだ流れている。
もう、むし暑いもんね。
彼女はゴクゴクと、一気に半分以上を飲み干し、「ハァ~!」と気持ち良さそうにする。
「んで、本題なんだけど」
…本題?
永那は手元のコップに刺さったストローを指先でクルクル回した。
その姿に、余計に緊張して、少し目眩がしてくる。
一体なんだろう…?
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