いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
540 / 595
8.閑話

55.永那 中3 夏《如月梓編》

しおりを挟む
「れ、連絡先…!教えて、ください!」
人生で1番の勇気を出した瞬間だったと思う。
「いいよ」
呆気ない返事に拍子抜けする。
連絡先を交換し、「じゃあ、またね」と頭をポンポンと撫でられる。

「ねえ、また?」
歩き始めた彼女達が会話を始める。
「“また”ってなんだよ?」
「ハァ…」
「いいじゃん、べつに。お前には関係ないだろー」
「関係あるし…」
千陽が永那の腕を抱くようにして、肩に頭を預けて歩いていた。
…付き合ってるんだよね?
ただの友達には、見えない。
「どう関係あんの?」
「永那が好き」
千陽が一瞬、私を見た気がした。
ズキズキと胸が痛む。
「やっぱ関係ないじゃん」
「なんでよ…。あたしだって…。あたしの方が、誰よりも永那が好きなのに」
「あっそ」
なんか…永那、冷たい…?

2人の背中が私から離れていき、会話は聞こえなくなった。
スマホを握りしめる。
2人の背中が見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くしていた。

トボトボと家に帰って、メッセージ画面を眺めていた。
連絡先を交換できたものの、送る文がない。
もう夏休みも目前だ。
夏休み…1回くらいは遊んでみたいな…。

ガチャッとドアが開く。
「ちょっと…お母さん、ノックくらいしてよ」
「なに言ってんのよ。それより、良い塾見つけたの?」
“図書館に行く”とか“他の塾探してくる”と嘘をついて永那を見に行ってたから、ギクッとする。
その様子を見て、お母さんが深いため息をついた。
「ここ」
紙が机にドンと置かれる。
「お母さんが決めたから」
「え!?」
「夏合宿だって参加しないと、あんたこのままじゃ中卒だよ」
「そ、そんな…。べつに、偏差値低い高校なら…」
「そんなんで生きていけると思ってるの!?ちゃんとした高校入って、ちゃんとした大学に行くの!じゃないとあんたが苦労するんだからね!?」
“うぇぇ…”と置かれた紙を眺めるけど、お母さんは「わかったね!?もう申し込んだから、そこに行きなさいよ!」と怒鳴って出て行った。
結局、友達と同じ塾になってしまった…。
こんなことになるなら、永那と出会った塾にすればよかった…。

「あーずさ!」
翌朝、家を出ると抱きつかれた。
つむぎ…」
「結局あたしと同じとこ来るんだって?」
「情報はや…」
「そりゃあ、お隣さんですから?」
1歳下の友達、もとい幼馴染、紬。
学校でも呼び捨て&タメ口で話しかけられるから、いつも同級生にからかわれて恥ずかしい。
“梓、年下にめっちゃナメられてんじゃん”って。
紬はそんな風に言われているのを知っているのか知らないのか、私にはわからないけど…。
そもそも紬は、そういうのを気にするタイプじゃない。
私とは正反対。
その性格が羨ましい。
どうせ誰かに何か言われても“幼馴染なんだよ?いきなり先輩扱いって、そっちの方が変じゃん”って言うに決まってる。
紬は中1の時から塾に通っていて、成績もすごく良いらしい。
私立のめちゃくちゃ偏差値の高い高校に入りたいと言っていた。
小学生の時から言っていた気がするから、その高い志には尊敬するばかりだ。

『梓、塾行かないの?』
思わぬ人からメッセージが来て、心臓が飛び跳ねた。
ついでにスマホを落としそうになった。
落としそうになったスマホを、紬がキャッチする。
『あの時一緒にいた友達が、知り合いが1人もいなくて寂しがっててさ(笑)』
「誰?」
「と、友達…」
「へえ?友達ねえ?」
「な、なに…?」
「顔、ニヤけてるよ?」
「うっ、うっさい!」
「え~!なになになに~!」
紬に追いかけられるから、私は走って逃げる。
逃げるけど、すぐに追いつかれて、後ろからハグされるような形で捕まった。

紬が私のスマホを奪う。
アイコンをタップして、画像を拡大する。
「え!?めっちゃかっこよくない!?この人」
「も、もー…関係ないでしょ…」
「な!?友達になんてこと言うんだ!!…こうしてくれるわ!」
くすぐられ、逃げるけど、また捕まって、くすぐられる。
「このイケメンは誰だ!白状しろ!」
「わかっ…わかったから…!」
紬は無類のイケメン好き。
「女子だよ…?」
「性別はどうでもいいよ。美しさが大事。…で、どこで知り合ったの?…内容的に、入塾体験!?」
「そう…」
「どこの!?」
場所を教えると、「あたし、塾変えよっかな」とか言い始める。
「永那は、塾には通ってないよ」
「…あぁ、そっか。永那さんの友達が行ってるんだもんね」
「ハァ」と小さく息を吐いて、紬の手からスマホを取り、鞄にしまう。
「え!?返事しないの?」
「紬がいるからしない」
「なにそれー」
紬は唇を突き出して、不機嫌そうに振る舞う。
でもすぐに、何も気にしてないみたいに鼻歌を歌い始めた。
「梓」
「なに?」
「今度永那さんと会う時、あたしのこと紹介してよ」
彼女が笑う。
ペロリと唇を舐めて笑う。
私は心の中でため息をついて、ただ頷いた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...