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9.移ろい
495.新学年
彼女が手に持っていたスプーンからポタリとカレーが落ちて、皿に戻る。
停止したひそかちゃんと目が合い続けて、そらす理由もないので、ジッと見続けた。
笑みを作ると、止まっていた時計が急に動き出したみたいに、彼女はカレーを食べた。
カッカッカッと音を立てて、かき込むように食べ始める。
「ひそかちゃんは生徒会、入るの?」
「…ま、まだ…まだ、決めていません。悩んでいます」
ゴクゴクとすごい勢いで水を飲む。
「ふーん」
「たくさん悩んだらいいよ」
穂が優しく笑いかける。
私にも笑いかけてくんないかな。
「永那先輩は、普段、何をしていますか?」
「え?普段?」
「放課後…です…」
「んー…勉強して、帰って、寝て…って感じかな」
「そうなんですか。どうして、部活に入らなかったんですか?」
「門限が厳しいからね」
そんなものはないけど、遅く帰ったらお母さんが泣くんだから、あるようなもんだ。
「門限…」
「厳しいんですね。門限ある人って初めて出会いました!小学生の時までは、結構みんなありましたけど」
杏奈ちゃんが言う。
「ま、そうだよね~」
「ちなみに門限って何時なんですか?」
「んー、6時には帰んないとマズいかな」
「えー!?めっちゃ厳しい!」
「出来れば5時半」
「学校帰り、ほとんど何にも出来ないじゃないですか!」
「そうだよ」
杏奈ちゃんは“可哀想”という視線を向けてくるけど、これには慣れっ子だ。
「部活だからって、許してくれないんですか?」
「許してくれないねえ…」
「まあ、人それぞれ事情があるからね、仕方ないよね」
優里が眉をハの字にさせて、笑う。
「永那先輩」
「ん?」
「どこで、勉強してますか?」
「え…?」
「さっき、“勉強して、帰って”って言ってました…よね?」
「ああ…まあ、場所は適当だけど、多いのは家の近くの図書館かな」
「ひそかも、一緒に勉強したいです」
真っ直ぐ見つめられる。
「ひそか、頭悪くて…この高校も、本当に、ギリギリ入れたんです…。だから、その…先輩と…お勉強、したいです」
「あー…でも、ひそかちゃんって家遠いんじゃなかった?家の近くだと、帰るのすごく遅くなっちゃうよね?」
「大丈夫です!ひそか、先輩と一緒にいられるなら、いつでも、どこでも、行きます!」
それは…なんか…背中の辺りがムズムズしてくるな…。
「いや、でも、心配だしさ?」
「先輩が心配してくれるなんて嬉しい…」
ゾワリと肌が栗立つ。
「それなら、通話しながら帰るとか、色々方法はあります」
自信満々に、さも当然のことかのように、ひそかちゃんは言った。
満面の笑みを浮かべて。
「帰りながらずっと永那先輩と通話…」
ひそかちゃんの顔が蕩けていく。
「憧れる…」
「ハァ」と甘いため息をついて、彼女は想像の世界に入り込んでしまう。
思わず、穂、優里、千陽、桜、杏奈ちゃんの順で顔を見てしまう。
穂は何も思っていなさそうな顔。
優里はよく理解できず、頭の上にハテナマークを浮かべている。
千陽はひそかちゃんを睨んでいた。
桜は気まずそうにお弁当を片付け始める。
杏奈ちゃんは可笑しそうに笑みを浮かべていた。
「中川さん…だっけ?」
千陽の、容赦ない冷たい声音が、妙に心地良い。
ひそかちゃんは、それにも動じず…というか、全く耳に入っていないような感じだった。
「ねえ」
千陽の目が細まり、苛立っているのがわかる。
「中川さん」
バンッとテーブルを叩くも、ひそかちゃんの耳には千陽の声が届いていない。
「ひそかちゃん、ひそかちゃん!」
杏奈ちゃんが慌てて肩を揺らすも、ひそかちゃんの顔は相変わらず蕩けたままだ。
チッと千陽が舌打ちする。
「永那の恋人は穂なの、わかる?恋人がいるの。恋人でもないのに、帰りながらずっと通話なんて出来るわけがないでしょ?」
「…私は、いいよ?帰るのが遅くなって心配なのは、私も一緒だし」
「穂」
千陽が穂を睨んで、穂の背筋が伸びる。
「ハァ」と深いため息をついて、千陽が首を横に振る。
「…穂がいいなら、あたしはいいけど」
まだ予鈴が鳴ってないのに、千陽は立ち上がって、コンビニ弁当のゴミを捨てに行ってしまう。
そのまま食堂を出て行く。
「す、すみません…!なんか…すみません」
「杏奈ちゃんが謝るようなことじゃないよ」
「そうそう、千陽って結構短気だから。気にしなくて、だいじょぶ、だいじょぶ」
そうは言いつつも、優里は千陽が心配そうだ。
「あと…通話は、穂が良くても、私が無理かな。ごめんね。そもそも家に帰ってからほとんどスマホをさわんないんだ。通話なんて穂とも出来ないのに、他の人なんてもっと出来ないよ。…聞いてる?ひそかちゃん」
「へ!?あ!はい!!」
「…うん、聞いてなかったね」
もう一度説明すると、他にも色々提案されたから、面倒になる。
10分置きにメッセージを送るとか、“家に帰ったらスマホをさわらない”と言ってるのを全く聞いていない提案もあって、尚更面倒だ。
停止したひそかちゃんと目が合い続けて、そらす理由もないので、ジッと見続けた。
笑みを作ると、止まっていた時計が急に動き出したみたいに、彼女はカレーを食べた。
カッカッカッと音を立てて、かき込むように食べ始める。
「ひそかちゃんは生徒会、入るの?」
「…ま、まだ…まだ、決めていません。悩んでいます」
ゴクゴクとすごい勢いで水を飲む。
「ふーん」
「たくさん悩んだらいいよ」
穂が優しく笑いかける。
私にも笑いかけてくんないかな。
「永那先輩は、普段、何をしていますか?」
「え?普段?」
「放課後…です…」
「んー…勉強して、帰って、寝て…って感じかな」
「そうなんですか。どうして、部活に入らなかったんですか?」
「門限が厳しいからね」
そんなものはないけど、遅く帰ったらお母さんが泣くんだから、あるようなもんだ。
「門限…」
「厳しいんですね。門限ある人って初めて出会いました!小学生の時までは、結構みんなありましたけど」
杏奈ちゃんが言う。
「ま、そうだよね~」
「ちなみに門限って何時なんですか?」
「んー、6時には帰んないとマズいかな」
「えー!?めっちゃ厳しい!」
「出来れば5時半」
「学校帰り、ほとんど何にも出来ないじゃないですか!」
「そうだよ」
杏奈ちゃんは“可哀想”という視線を向けてくるけど、これには慣れっ子だ。
「部活だからって、許してくれないんですか?」
「許してくれないねえ…」
「まあ、人それぞれ事情があるからね、仕方ないよね」
優里が眉をハの字にさせて、笑う。
「永那先輩」
「ん?」
「どこで、勉強してますか?」
「え…?」
「さっき、“勉強して、帰って”って言ってました…よね?」
「ああ…まあ、場所は適当だけど、多いのは家の近くの図書館かな」
「ひそかも、一緒に勉強したいです」
真っ直ぐ見つめられる。
「ひそか、頭悪くて…この高校も、本当に、ギリギリ入れたんです…。だから、その…先輩と…お勉強、したいです」
「あー…でも、ひそかちゃんって家遠いんじゃなかった?家の近くだと、帰るのすごく遅くなっちゃうよね?」
「大丈夫です!ひそか、先輩と一緒にいられるなら、いつでも、どこでも、行きます!」
それは…なんか…背中の辺りがムズムズしてくるな…。
「いや、でも、心配だしさ?」
「先輩が心配してくれるなんて嬉しい…」
ゾワリと肌が栗立つ。
「それなら、通話しながら帰るとか、色々方法はあります」
自信満々に、さも当然のことかのように、ひそかちゃんは言った。
満面の笑みを浮かべて。
「帰りながらずっと永那先輩と通話…」
ひそかちゃんの顔が蕩けていく。
「憧れる…」
「ハァ」と甘いため息をついて、彼女は想像の世界に入り込んでしまう。
思わず、穂、優里、千陽、桜、杏奈ちゃんの順で顔を見てしまう。
穂は何も思っていなさそうな顔。
優里はよく理解できず、頭の上にハテナマークを浮かべている。
千陽はひそかちゃんを睨んでいた。
桜は気まずそうにお弁当を片付け始める。
杏奈ちゃんは可笑しそうに笑みを浮かべていた。
「中川さん…だっけ?」
千陽の、容赦ない冷たい声音が、妙に心地良い。
ひそかちゃんは、それにも動じず…というか、全く耳に入っていないような感じだった。
「ねえ」
千陽の目が細まり、苛立っているのがわかる。
「中川さん」
バンッとテーブルを叩くも、ひそかちゃんの耳には千陽の声が届いていない。
「ひそかちゃん、ひそかちゃん!」
杏奈ちゃんが慌てて肩を揺らすも、ひそかちゃんの顔は相変わらず蕩けたままだ。
チッと千陽が舌打ちする。
「永那の恋人は穂なの、わかる?恋人がいるの。恋人でもないのに、帰りながらずっと通話なんて出来るわけがないでしょ?」
「…私は、いいよ?帰るのが遅くなって心配なのは、私も一緒だし」
「穂」
千陽が穂を睨んで、穂の背筋が伸びる。
「ハァ」と深いため息をついて、千陽が首を横に振る。
「…穂がいいなら、あたしはいいけど」
まだ予鈴が鳴ってないのに、千陽は立ち上がって、コンビニ弁当のゴミを捨てに行ってしまう。
そのまま食堂を出て行く。
「す、すみません…!なんか…すみません」
「杏奈ちゃんが謝るようなことじゃないよ」
「そうそう、千陽って結構短気だから。気にしなくて、だいじょぶ、だいじょぶ」
そうは言いつつも、優里は千陽が心配そうだ。
「あと…通話は、穂が良くても、私が無理かな。ごめんね。そもそも家に帰ってからほとんどスマホをさわんないんだ。通話なんて穂とも出来ないのに、他の人なんてもっと出来ないよ。…聞いてる?ひそかちゃん」
「へ!?あ!はい!!」
「…うん、聞いてなかったね」
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