いたずらはため息と共に

常森 楽

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9.移ろい

513.パーティ

「永那ちゃん」
「穂!」
勢いよく起き上がり、眩しいほどの笑顔が向けられる。
「今日、良い天気だね」
「だね。ポカポカしてて、お昼寝にはもってこいだ」
永那ちゃんの隣に座る。
「千陽のお父さんへのお礼、結局お菓子にしちゃったんだけど、良かったかな?」
「千陽が良いって言うんだし、良いんじゃない?…私なんか何も持ってきてないし」
「永那ちゃんと2人からってことにすれば大丈夫だよ」
事前に、そう話していた。
話していたけれど、永那ちゃんはすごく気にしている。
「んー…」
彼女が両手で顔をゴシゴシと擦る。
「永那ちゃん」
「ん?」
俯きがちに、視線を私に向ける。
「覚悟を決めてください」
フッと彼女が笑う。
「覚悟?」
「そう。永那ちゃんは、何も買っていない。今更悩んでも仕方ないでしょ?」
彼女が白い歯を見せて笑う。
「わかった。覚悟、決めます」
「うん!」

百貨店の、かなりお値段の張るお菓子。
千陽のお父さんはともかく、お母さんはこういった物で相手を測るところがあるらしい…。
値段というよりも、TPOに合った物を持ってこられる人なのかどうかを見ているのだと言っていた。
合っていないなら、持っていかない方がマシだとすら言っていた。
前に会った時は適当そうなお母さんに見えたけれど、やっぱりお父さん主催のパーティとなると、キッチリするってことなのかな?
仕事に影響が出るかもしれないしね…。
永那ちゃんも、もちろん何か手土産を買おうとしてはいた。
でも百貨店のオンラインショップを見ると、すぐに項垂れて、「マジか…」と心の声が漏れていた。
「ちっちゃいのでも良いかな?」と千陽に聞くと、首を横に振られ、もう1度項垂れた。
「永那は普段から家に来てるんだし、ママのお気に入りだし、何も買わなくていい」とピシッと言われて、渋々頷いていた。

「穂」
「なに?」
「行く前に、チューしよ?」
「え!?…ここで?」
親子が一組、遊んでいた。
「うん。じゃなきゃ、心が保たない…」
「でも…」
チラチラと親子を見る。
「パーティに行ったら、穂とまともに話せるかもわかんないじゃん?…緊張するし。お願い」
ジッと見つめられる。
陽の光が燦々と降ってくるから、彼女の瞳が薄く透明に輝いていた。
「じゃ、じゃあ…せめて…公園出たところにしよ?」
彼女が立ち上がり、手を引っ張られる。

公園を出たすぐのところ、植物が植わっているそばで、彼女に抱きしめられた。
「穂…大好き…」
「私も、永那ちゃん大好きだよ」
「千陽にエッチなことしちゃ、ダメだよ」
囁かれて、顔が熱くなる。
「うん」
「千陽が勝手にするのはいいけど、穂が積極的にヤるのも嫌」
「うん」
「前と同じね?」
「うん。キスと、胸だけ…」
「うん。さわられちゃ、ダメだよ?」
「うん」
「私以外の誰かに、気持ち良くさせられちゃ、ダメ」
…恥ずかしい。
いくら小さい声で言っているとはいえ、外なのに。
「私がいる時だけだからね?千陽とシていいのは」
「わかってる」
「約束だよ?」
「約束」
抱きしめられていた腕から解放される。
見つめられるから、私はつい、周りをキョロキョロと見る。
強引に顎を永那ちゃんに向けられ、優しく口づけされた。
名残惜しそうに、彼女が離れる。
「行こっか…」
キスをしたのに、そう言った彼女は、なんだか気怠げで、肩が落ちているようにも見えた。

手を繋いで歩く。
緩やかな坂道を上っていると、途中のパーキングに高級車が止まっているのが目に入った。
「永那ちゃん」
「ん?」
「私、変じゃない…?」
「可愛いよ」
彼女が微笑む。
「今日も妖精さんみたいに綺麗」
「本当?」
「うん。…このまま穂とデートしたい」
ギュッと手を強く握ると、握り返してくれる。
「しようね。デート」
「今日?」
「違うよ…。ゴールデンウィークとか…」
「なんだ…。でも、わかった。楽しみにしとく」
「うん」
…やっぱり、永那ちゃんと、あと1年早く出会っていたかった。
ゴールデンウィークも、当然予備校の受験徹底講座が開かれる。
その後には模試も受ける予定だ。
誉の誕生日パーティと永那ちゃんとのデート…2日だけなら問題はないのだけれど、“これが去年だったらな…”と思わずにはいられない。
ゴールデンウィークと言っても、学校がずっと休みなわけでもない。
途中の平日はいつも通り授業がある。
そう考えると、私達学生にとっては、全然“ゴールデン”じゃない。

千陽の家の前につくと、高級車が2台、家のそばに駐めてあった。
今日はガレージが開いていて、そこにも2台、高級車が収まっている。
…私も、緊張してきた。
永那ちゃんと顔を見合わせ、繋いでいた手を離す。
フゥーッと息を吐き出し、インターホンを押した。
「はーい。ちょっと待ってね~」
お母さんらしき人の声が聞こえてきて、その数十秒後、ドアが開いた。
チャイナ服のような格好をした千陽のお母さんが、ニコリと微笑む。
その微笑みは、千陽が大人になった姿を彷彿とさせた。
ゴクリと唾を飲む。
「いらっしゃい」
妖艶な笑みが、ゾワリと肌を栗立たせた。
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