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9.移ろい
514.大人
「お邪魔します。本日はお招き頂き、ありがとうございます。こちら…つまらない物ですが…私と、永那ちゃんから…」
玄関で、用意していた手土産を渡す。
千陽のお母さんは私を下から上まで舐めるように見て、袋を受け取った。
「桃さんが喜ぶと思って、2人で選んだんですよ?」
隣に立つ永那ちゃんが、急に話し始めるから、ビックリして肩が上がる。
「永那~、可愛い~」
千陽のお母さんが、はしゃぐ子供のような笑顔になる。
永那ちゃんの髪をわしゃわしゃ撫でて、「ありがとっ」と抱きしめる。
永那ちゃんも抱きしめ返して、ポンポンと背中を叩いた。
その背中は、楕円形に、艷やかな肌を晒していた。
正面から見るとモダンなチャイナ服に見えるけれど、大胆にも背中があいている。
少し覗き込んだらお尻が見えてしまいそうなほどだ。
「穂、永那、おはよ」
お母さんとお揃いなのか、千陽も似たような服を纏っていた。
「行こ?」
千陽が言うと、お母さんは永那ちゃんの手を引っ張ってルンルンと中に入っていく。
戸惑っていると、千陽が手招きしてくれる。
おずおずと玄関で靴を脱ぎ、千陽の後を歩く。
お母さんの服は袖がついているけれど、千陽のはついていない。
その分、背中の開き具合は控えめだった。
「今日は中華なの」
「テーマがあるんだね」
「パパがそういうの、好きだから」
「なるほど…」
緊張で指先が冷たい。
「ママ、永那に対していつもあんな感じだから、気にしないでね?」
千陽が振り向き、手を繋がれる。
「う、うん」
「穂、今日も可愛い」
「あ、ありがとう…。千陽も、すごく可愛いよ」
フフッと彼女が笑う。
リビングに行くと、10人強の、ドレスアップした大人達がお酒を片手に談笑していた。
「パパ」
千陽が声をかけると、背の低い男性がこちらを向く。
「あたしの友達」
「ああ、君が…。えっと…」
「空井穂です。本日はお招き頂きありがとうございます。…先日も、ホテル代を」
「そうそう!楽しんでくれた?」
愛想の良い笑顔が向けられる。
「あ、はい!とても。ありがとうございました」
頭を下げる。
「佐藤さん、ホテルってなんですか?」
千陽のお父さんの横に立つ男性が笑う。
その笑みは、なんだか、好きになれない。
「まさか千陽ちゃんのお友達と…!?」
「そんなわけないだろ」
さっきまでの愛想の良さとは違う笑顔。
不安のような、恐怖のような、それがごちゃ混ぜになったような暗い感情が渦巻き始める。
「千陽が、友達と夜通し遊びたいって言うから、ホテル代を出してあげたんだよ」
「えー!?太っ腹ですね!さすが社長!」
「娘の我が儘を聞いてあげるのも、大事な仕事だろ?」
「そうですね!…良かったねぇ、千陽ちゃん。良いパパで」
「はい」
千陽の、作り物みたいな笑顔。
ゾワリと鳥肌が立つ。
さっきの…お母さんの笑顔と同じだ。
「じゃあ、パパ。あたし、穂と庭にいるから」
「おう!楽しんでね!穂ちゃん!」
「あ…はい…ありがとうございます…」
「ごめんね」
「え?」
「いつも…こんな感じなの…。付き合わせて、ごめんね」
千陽が呟くように言う。
「パパの自慢、うざいでしょ?…ホテルの話も、あれ、わざと遮って、言わせるようにしたの」
「言わせるように?」
「あたしの友達とヤったんじゃないか?って」
サーッと、何かが引いていく。
「ハァ」と千陽がため息を吐く。
「ホント、ママもパパも嫌になる。恥ずかしい」
千陽はテーブルに並べられた食べ物をお皿によそっていく。
私にもお皿を渡してくれるので、受け取った。
永那ちゃんを探すと、千陽のお母さんに腕を組まれていた。
知らない大人と、にこやかに話している。
…永那ちゃん、すごい。
私、あんな風に話せる自信、ない。
“緊張する”と言っていたのが嘘みたい。
「穂、行こ?」
「あ、うん」
千陽についていく。
千陽についてくので、精一杯。
庭へと続く掃き出し窓は開け放たれている。
春の風が心地よく吹く。
芝が敷かれた庭の椅子に千陽が座るので、私も座った。
やっと、まともに息が吸えた。
「今日は永那が相手してくれるから楽」
千陽は背もたれに寄りかかって、足を組む。
手に持ったお皿をテーブルに置いて、ふぅっと息を吐き出す。
「普段は、千陽もお話するの?」
「お話…するっていうよりも、ずっと聞くだけ。ニコニコ笑って、大人のつまんない話を聞かされるの」
フォークをサラダに突き刺し、口に運ぶ。
それを見て、私もご飯を食べ始めた。
「穂」
「ん?」
「あたしの相手、してね?」
「うん…」
それくらいしか、出来る気がしない。
「予備校に」
「うん」
「同じ学校の人がいて。優里の知り合いらしいんだけど」
「優里ちゃん、友達多いもんね」
千陽が頷く。
「やたらあたしに話しかけてきて、うざいんだよね」
「う、うざいの…?」
「そ。どうでもいいことで話しかけてくるの」
「そんな…。千陽、あんまり人のこと悪く言っちゃダメだよ?千陽と仲良くなりたいのかもしれないし」
「あたしは仲良くしたくないんだけど?」
「どうして?」
玄関で、用意していた手土産を渡す。
千陽のお母さんは私を下から上まで舐めるように見て、袋を受け取った。
「桃さんが喜ぶと思って、2人で選んだんですよ?」
隣に立つ永那ちゃんが、急に話し始めるから、ビックリして肩が上がる。
「永那~、可愛い~」
千陽のお母さんが、はしゃぐ子供のような笑顔になる。
永那ちゃんの髪をわしゃわしゃ撫でて、「ありがとっ」と抱きしめる。
永那ちゃんも抱きしめ返して、ポンポンと背中を叩いた。
その背中は、楕円形に、艷やかな肌を晒していた。
正面から見るとモダンなチャイナ服に見えるけれど、大胆にも背中があいている。
少し覗き込んだらお尻が見えてしまいそうなほどだ。
「穂、永那、おはよ」
お母さんとお揃いなのか、千陽も似たような服を纏っていた。
「行こ?」
千陽が言うと、お母さんは永那ちゃんの手を引っ張ってルンルンと中に入っていく。
戸惑っていると、千陽が手招きしてくれる。
おずおずと玄関で靴を脱ぎ、千陽の後を歩く。
お母さんの服は袖がついているけれど、千陽のはついていない。
その分、背中の開き具合は控えめだった。
「今日は中華なの」
「テーマがあるんだね」
「パパがそういうの、好きだから」
「なるほど…」
緊張で指先が冷たい。
「ママ、永那に対していつもあんな感じだから、気にしないでね?」
千陽が振り向き、手を繋がれる。
「う、うん」
「穂、今日も可愛い」
「あ、ありがとう…。千陽も、すごく可愛いよ」
フフッと彼女が笑う。
リビングに行くと、10人強の、ドレスアップした大人達がお酒を片手に談笑していた。
「パパ」
千陽が声をかけると、背の低い男性がこちらを向く。
「あたしの友達」
「ああ、君が…。えっと…」
「空井穂です。本日はお招き頂きありがとうございます。…先日も、ホテル代を」
「そうそう!楽しんでくれた?」
愛想の良い笑顔が向けられる。
「あ、はい!とても。ありがとうございました」
頭を下げる。
「佐藤さん、ホテルってなんですか?」
千陽のお父さんの横に立つ男性が笑う。
その笑みは、なんだか、好きになれない。
「まさか千陽ちゃんのお友達と…!?」
「そんなわけないだろ」
さっきまでの愛想の良さとは違う笑顔。
不安のような、恐怖のような、それがごちゃ混ぜになったような暗い感情が渦巻き始める。
「千陽が、友達と夜通し遊びたいって言うから、ホテル代を出してあげたんだよ」
「えー!?太っ腹ですね!さすが社長!」
「娘の我が儘を聞いてあげるのも、大事な仕事だろ?」
「そうですね!…良かったねぇ、千陽ちゃん。良いパパで」
「はい」
千陽の、作り物みたいな笑顔。
ゾワリと鳥肌が立つ。
さっきの…お母さんの笑顔と同じだ。
「じゃあ、パパ。あたし、穂と庭にいるから」
「おう!楽しんでね!穂ちゃん!」
「あ…はい…ありがとうございます…」
「ごめんね」
「え?」
「いつも…こんな感じなの…。付き合わせて、ごめんね」
千陽が呟くように言う。
「パパの自慢、うざいでしょ?…ホテルの話も、あれ、わざと遮って、言わせるようにしたの」
「言わせるように?」
「あたしの友達とヤったんじゃないか?って」
サーッと、何かが引いていく。
「ハァ」と千陽がため息を吐く。
「ホント、ママもパパも嫌になる。恥ずかしい」
千陽はテーブルに並べられた食べ物をお皿によそっていく。
私にもお皿を渡してくれるので、受け取った。
永那ちゃんを探すと、千陽のお母さんに腕を組まれていた。
知らない大人と、にこやかに話している。
…永那ちゃん、すごい。
私、あんな風に話せる自信、ない。
“緊張する”と言っていたのが嘘みたい。
「穂、行こ?」
「あ、うん」
千陽についていく。
千陽についてくので、精一杯。
庭へと続く掃き出し窓は開け放たれている。
春の風が心地よく吹く。
芝が敷かれた庭の椅子に千陽が座るので、私も座った。
やっと、まともに息が吸えた。
「今日は永那が相手してくれるから楽」
千陽は背もたれに寄りかかって、足を組む。
手に持ったお皿をテーブルに置いて、ふぅっと息を吐き出す。
「普段は、千陽もお話するの?」
「お話…するっていうよりも、ずっと聞くだけ。ニコニコ笑って、大人のつまんない話を聞かされるの」
フォークをサラダに突き刺し、口に運ぶ。
それを見て、私もご飯を食べ始めた。
「穂」
「ん?」
「あたしの相手、してね?」
「うん…」
それくらいしか、出来る気がしない。
「予備校に」
「うん」
「同じ学校の人がいて。優里の知り合いらしいんだけど」
「優里ちゃん、友達多いもんね」
千陽が頷く。
「やたらあたしに話しかけてきて、うざいんだよね」
「う、うざいの…?」
「そ。どうでもいいことで話しかけてくるの」
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「あたしは仲良くしたくないんだけど?」
「どうして?」
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