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9.移ろい
516.大人
「今日はパパのパーティでしょ?千陽ちゃん、ちゃんと接待しなきゃ」
「永那がいるからいいんです」
「ああ、あの子ね。綺麗な子だよね。桃さんがすごく気に入っている」
「ママは久米さんのことも気に入ってますよ?」
「僕は千陽ちゃんに気に入られたいな?」
「ママに言いますよ?」
「いいよ?僕としては、ご両親公認の仲になりたいからね」
ゾワワと、寒くもないのに背筋に寒気が走る。
…そっか。口説かれていたんだ、千陽。
全然、気づかなかった。
私って本当、鈍い…。
「ねえ、穂ちゃん」
急に話しかけられ、ゴクリと唾を飲む。
「はい…」
「千陽ちゃんって、やっぱり彼氏いるの?」
「久米さん、やめてください」
「だってこんな機会じゃないと知れないじゃん。…千陽ちゃん、“セクハラです”とかなんとか言って、いっつも教えてくんないの。冷たくない?」
久米さんが眉をハの字にする。
…なんて、答えればいいのか、わからない。
「穂、答えなくていいから」
「えー…。お願い!穂ちゃん!教えてー!!」
「穂、部屋行こ」
「え!?いいなあ!僕も千陽ちゃんの部屋行きたい!」
「だから…それはセクハラです」
「千陽ちゃんのパパの方が、よっぽどセクハラしてると思うけどな?」
久米さんがニヤリと笑う。
最初は爽やかな人だと思ったのに、どんどん曇っていく。
顎に生えた整った短い髭が、少しずつ伸びていくような錯覚を覚える。
「パパはパパです。…それに、あたしもアレは気持ち悪いと思ってるので」
「実の父親に向かって、さすがにそれは酷いんじゃない?色々、買ってもらったりしてるんでしょ?…さっきだって言ってたじゃん。夜通し友達とホテルで遊んでたって。聞いたよ?良いところのホテルだったみたいじゃん」
怖い…。息が、粗くなっていく。
指先が、冷たくなっていく。
「最初、佐藤さんから“友達”って聞いた時、正直ビビったよ。やっぱり彼氏かって。…でも、本当に友達だったみたいで安心した」
チラリと見られ、目が合う。
「いつもみたいに、愚痴というか自慢というか、してたよ?佐藤さん。“娘が我が儘で”って。何度も言うから、さすがに聞き飽きちゃうよね」
久米さんが小声で言う。
「千陽ちゃんはバイトもしたことないし、社会人を経験してないからわかんないだろうけどさ?稼ぐのって、結構大変なんだよ?愚痴りたくなる気持ちもわかる」
千陽の表情が暗くなる。
下唇を小さく噛んで、怯えているみたいだった。
「でも、僕だったら、そのくらいのホテル代、何も言わずに出してあげるよ?愚痴も言わないし、誰かに自慢したりもしない」
「遠慮しておきます。パパが出してくれるので」
「本当は嫌なんでしょ?わかってるよ、僕は」
千陽が久米さんを睨む。
久米さんは優しい笑みを浮かべて、千陽に向き合った。
「僕が出してあげる。…それで、思う存分友達と遊んだらいいじゃん。ね?…欲しい物も、いくらでも買ってあげる」
「馬鹿にしないでください」
千陽は立ち上がって、早足で室内に入っていった。
「あーあ、失敗」
その姿を見て、久米さんが呟いた。
私も立ち上がろうとすると、手を掴まれた。
「ねえ、教えて?穂ちゃん」
「離してください」
「千陽ちゃんって彼氏いる?」
「千陽が言いたくないって言ってるんですよ?しつこいんじゃないですか?」
「おおっ、穂ちゃんもハッキリ言うねー!」
何故か、久米さんは楽しそうに笑った。
「…ま、知ってるけどね。いないってことくらい」
「どうして、そう思うんですか?」
「SNSはチェックしてるし、佐藤さんからも話を聞くからね。内容的に、いるとは思えない」
「そうですか」
「…ブレない子だね。ちょっとは情報聞けると思ったのに」
眉頭に力が込もる。
「嘘だよ、嘘。6、7割は“いない”って思ってるけど、確信を持ててるとまでは言えない。SNSもチェックはしてるけど、ほとんど千陽ちゃんの情報は出てこない。すごい徹底の仕方だよね」
久米さんの眉がハの字になって、本当に困ったように笑った。
「一目惚れでさ」
ゆっくり、手が離される。
久米さんは両膝に肘をついて、俯いた。
「大学生の時、インターンで佐藤さんの会社に入って。やる気とか全然なかったし、正直パーティとかも全然出たくなかった」
私は千陽の歩いて行った先を見つめつつ、彼の話を聞く。
「でも生きていくためには働かなきゃいけないじゃん?だから適当に良い条件のところに入れたら良いなって、軽く思ってたんだよ」
フッと彼が自嘲するように笑う。
「なのに…パーティで千陽ちゃんに一目惚れしてから、柄にもなく頑張っちゃってさ。僕って、そんな人間だったっけ?って、自分でも驚いてる」
久米さんはテーブルに置かれていたワインを一気に飲み干した。
「千陽ちゃんのために稼いでんのに、千陽ちゃんが振り向いてくんないんじゃ意味ないんだよ…。馬鹿にしてなんかない。僕は純粋に、千陽ちゃんのために、働いてるんだ。千陽ちゃんと結婚したい…。僕の、初恋なんだ…」
「まだ、高校生ですよ?」
「もう、高校生だよ。卒業と同時に結婚出来る」
「永那がいるからいいんです」
「ああ、あの子ね。綺麗な子だよね。桃さんがすごく気に入っている」
「ママは久米さんのことも気に入ってますよ?」
「僕は千陽ちゃんに気に入られたいな?」
「ママに言いますよ?」
「いいよ?僕としては、ご両親公認の仲になりたいからね」
ゾワワと、寒くもないのに背筋に寒気が走る。
…そっか。口説かれていたんだ、千陽。
全然、気づかなかった。
私って本当、鈍い…。
「ねえ、穂ちゃん」
急に話しかけられ、ゴクリと唾を飲む。
「はい…」
「千陽ちゃんって、やっぱり彼氏いるの?」
「久米さん、やめてください」
「だってこんな機会じゃないと知れないじゃん。…千陽ちゃん、“セクハラです”とかなんとか言って、いっつも教えてくんないの。冷たくない?」
久米さんが眉をハの字にする。
…なんて、答えればいいのか、わからない。
「穂、答えなくていいから」
「えー…。お願い!穂ちゃん!教えてー!!」
「穂、部屋行こ」
「え!?いいなあ!僕も千陽ちゃんの部屋行きたい!」
「だから…それはセクハラです」
「千陽ちゃんのパパの方が、よっぽどセクハラしてると思うけどな?」
久米さんがニヤリと笑う。
最初は爽やかな人だと思ったのに、どんどん曇っていく。
顎に生えた整った短い髭が、少しずつ伸びていくような錯覚を覚える。
「パパはパパです。…それに、あたしもアレは気持ち悪いと思ってるので」
「実の父親に向かって、さすがにそれは酷いんじゃない?色々、買ってもらったりしてるんでしょ?…さっきだって言ってたじゃん。夜通し友達とホテルで遊んでたって。聞いたよ?良いところのホテルだったみたいじゃん」
怖い…。息が、粗くなっていく。
指先が、冷たくなっていく。
「最初、佐藤さんから“友達”って聞いた時、正直ビビったよ。やっぱり彼氏かって。…でも、本当に友達だったみたいで安心した」
チラリと見られ、目が合う。
「いつもみたいに、愚痴というか自慢というか、してたよ?佐藤さん。“娘が我が儘で”って。何度も言うから、さすがに聞き飽きちゃうよね」
久米さんが小声で言う。
「千陽ちゃんはバイトもしたことないし、社会人を経験してないからわかんないだろうけどさ?稼ぐのって、結構大変なんだよ?愚痴りたくなる気持ちもわかる」
千陽の表情が暗くなる。
下唇を小さく噛んで、怯えているみたいだった。
「でも、僕だったら、そのくらいのホテル代、何も言わずに出してあげるよ?愚痴も言わないし、誰かに自慢したりもしない」
「遠慮しておきます。パパが出してくれるので」
「本当は嫌なんでしょ?わかってるよ、僕は」
千陽が久米さんを睨む。
久米さんは優しい笑みを浮かべて、千陽に向き合った。
「僕が出してあげる。…それで、思う存分友達と遊んだらいいじゃん。ね?…欲しい物も、いくらでも買ってあげる」
「馬鹿にしないでください」
千陽は立ち上がって、早足で室内に入っていった。
「あーあ、失敗」
その姿を見て、久米さんが呟いた。
私も立ち上がろうとすると、手を掴まれた。
「ねえ、教えて?穂ちゃん」
「離してください」
「千陽ちゃんって彼氏いる?」
「千陽が言いたくないって言ってるんですよ?しつこいんじゃないですか?」
「おおっ、穂ちゃんもハッキリ言うねー!」
何故か、久米さんは楽しそうに笑った。
「…ま、知ってるけどね。いないってことくらい」
「どうして、そう思うんですか?」
「SNSはチェックしてるし、佐藤さんからも話を聞くからね。内容的に、いるとは思えない」
「そうですか」
「…ブレない子だね。ちょっとは情報聞けると思ったのに」
眉頭に力が込もる。
「嘘だよ、嘘。6、7割は“いない”って思ってるけど、確信を持ててるとまでは言えない。SNSもチェックはしてるけど、ほとんど千陽ちゃんの情報は出てこない。すごい徹底の仕方だよね」
久米さんの眉がハの字になって、本当に困ったように笑った。
「一目惚れでさ」
ゆっくり、手が離される。
久米さんは両膝に肘をついて、俯いた。
「大学生の時、インターンで佐藤さんの会社に入って。やる気とか全然なかったし、正直パーティとかも全然出たくなかった」
私は千陽の歩いて行った先を見つめつつ、彼の話を聞く。
「でも生きていくためには働かなきゃいけないじゃん?だから適当に良い条件のところに入れたら良いなって、軽く思ってたんだよ」
フッと彼が自嘲するように笑う。
「なのに…パーティで千陽ちゃんに一目惚れしてから、柄にもなく頑張っちゃってさ。僕って、そんな人間だったっけ?って、自分でも驚いてる」
久米さんはテーブルに置かれていたワインを一気に飲み干した。
「千陽ちゃんのために稼いでんのに、千陽ちゃんが振り向いてくんないんじゃ意味ないんだよ…。馬鹿にしてなんかない。僕は純粋に、千陽ちゃんのために、働いてるんだ。千陽ちゃんと結婚したい…。僕の、初恋なんだ…」
「まだ、高校生ですよ?」
「もう、高校生だよ。卒業と同時に結婚出来る」
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