文字の大きさ
大
中
小
589 / 595
9.移ろい
522.大人
久米さんが私に近づくように体を傾ける。
びっくりして、永那ちゃんに近づく。
それを見た久米さんが苦々しく笑う。
千陽のお父さんと同じようにお尻のポケットから財布を出す。
尤も、千陽のお父さんはお尻ではなく、チャイナ服のようなブレザーのポケットから財布を出したのだけれど。
1万円札を丁寧に三つ折りにし、永那ちゃんに差し出した。
「永那ちゃん、佐藤さんよりかは少ないけど…誕生日おめでとう」
「え!?いや、そんな…受け取れないですよ…」
「いいんだよ、受け取ってよ。誕生日だったって聞いて、何も渡さないわけにもいかないから」
「じゃあ…ありがとうございます」
ペコリと永那ちゃんが頭を下げる。
千陽のご両親が準備を終えて1階に下りてきた。
服装は変わっていないものの、お父さんの手には皮のボストンバックがあった。
お母さんは肩にショールを羽織って、お父さんの曲げる腕に手を添えている。
纏められていた髪は下ろしたままだったけれど、軽くウェーブがかっていた。
千陽のお母さんなだけあって、“美しい”という言葉がお似合いだ。
「千陽、片付けお願いね」
「うん」
玄関で既に待機していたタクシーに2人が乗り込む。
「じゃあ、穂ちゃん!楽しんで!」
「はい、ありがとうございます」
お父さんが頷き、タクシーのドアが閉まる。
タクシーが走り出したところで、そばに立っていた久米さんが口を開く。
「永那ちゃん、車で家まで送るよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「遠慮しないで。僕、この後用事ないし、家近いんでしょ?」
「いや、本当に大丈夫です」
「…わかった。じゃあ、千陽ちゃん。またね」
千陽が会釈する。
久米さんは高級そうな外車に乗り込み、重低音を響かせてから窓を開けた。
片手を上げられたので、私も会釈をした。
車のライトが遠くになるまで、私達は誰も、何も話さなかった。
「ああいう大人にはなりたくないな」
「ね」
私は、何も言わないけれど、心の中でそっと頷く。
「4万も貰っちゃったよ」
「今日のバイト代って思えば?」
「…そだね。千陽はあいつになんか誕生日プレゼント貰ったの?」
「ネックレス」
「高そ」
「そこそこかな」
「そこそこね」
「永那、泊まってけばいいのに。なんならお母さん呼べば?」
「え、なにそれ。あり?」
「ありなんじゃない?」
急な千陽の提案に、なんだかワクワクしてくる。
「永那ちゃんも…泊まれるの…?」
「穂……可愛すぎるだろー!!」
ギュッと抱きしめられる。
「なんて可愛いんだ…大好き」
「わ、私も、大好きだよ、永那ちゃん」
「ん~…!!魅力的な提案だけど、やめとくよ」
「え!?そうなの…?」
「うん。お母さん、きっとこの家来たら興奮して寝なくなるから」
「そっか。せっかく生活リズム整ってきたんだもんね」
「うん。期待させちゃってごめんね」
「ううん。…それなら、早く帰ってあげて?」
額と額を合わせる。
「好き」
「私も。大好き」
「可愛い穂」
「かっこいい永那ちゃん」
「約束、覚えてる?」
「う…うん…大丈夫」
「ん」
チュッとキスされ、顔が火照る。
ポンポンと頭を撫でられ、彼女の手が離れるのと入れ替わりに、私は前髪を指で梳いた。
「千陽、約束守れよ?」
「やだ」
「は!?まだそんなこと言う!?」
「…あたし、してもらってない」
「あ?」
「あたしにもしてよ…」
千陽が左腕を擦る。
永那ちゃんは頭をボリボリ掻く。
「ハァ」とため息をついて、千陽と私の手を引いた。
「え!?」
玄関のドアが開いて、室内に入る。
俯いている千陽の頬を両手で包み、永那ちゃんが千陽に口づけする。
「なんで…」
「お前とキスしてるとこ、誰かに見られたらどうすんだよ」
千陽が唇を突き出して、左腕を擦る。
「穂ともしてて、千陽ともしてたら、私ってすごい最低な奴だと思われちゃうでしょ?誰かにそれ見られてたら、私、“サイテー”って言われちゃうよ?」
「サイテー」
「お前…!」
「ち、千陽…!ほら、もう永那ちゃん帰るんだし…ね?」
フンと千陽がそっぽを向く。
どうしてこうなっちゃうのかな…。
「え、永那ちゃん、そろそろ、帰んないと」
永那ちゃんが千陽を睨む。
なんとか永那ちゃんを見送り、息を吐く。
いつも通り永那ちゃんは何度か振り向いて手を振ってくれたけれど、いつもよりも元気がなかった。
「千陽…なんで永那ちゃんに八つ当たりしてるの…?」
「永那があたしに冷たいから」
「冷たいかな?」
「あたしが言わないと何もしてくれない。穂にはするのに」
「そっか…。それは、確かに…寂しいよね」
自分が永那ちゃんに冷たくされるところは想像できないけれど、そうされたら…と思うと、寂しくなる。
千陽を見ると、彼女は目を細める。
「穂」
「なに?」
「そんなこと言ってたら、いつか永那盗られるんじゃない?」
「え!?千陽は、そんなこと、しないでしょ?」
「あたしじゃなくて」
首を傾げる。
彼女は呆れたように「ハァ」とため息をついて、ドアを開けて中に入った。
私も後に続く。
千陽がスタスタとリビングに向かうので、私もペースを速めて歩いた。
びっくりして、永那ちゃんに近づく。
それを見た久米さんが苦々しく笑う。
千陽のお父さんと同じようにお尻のポケットから財布を出す。
尤も、千陽のお父さんはお尻ではなく、チャイナ服のようなブレザーのポケットから財布を出したのだけれど。
1万円札を丁寧に三つ折りにし、永那ちゃんに差し出した。
「永那ちゃん、佐藤さんよりかは少ないけど…誕生日おめでとう」
「え!?いや、そんな…受け取れないですよ…」
「いいんだよ、受け取ってよ。誕生日だったって聞いて、何も渡さないわけにもいかないから」
「じゃあ…ありがとうございます」
ペコリと永那ちゃんが頭を下げる。
千陽のご両親が準備を終えて1階に下りてきた。
服装は変わっていないものの、お父さんの手には皮のボストンバックがあった。
お母さんは肩にショールを羽織って、お父さんの曲げる腕に手を添えている。
纏められていた髪は下ろしたままだったけれど、軽くウェーブがかっていた。
千陽のお母さんなだけあって、“美しい”という言葉がお似合いだ。
「千陽、片付けお願いね」
「うん」
玄関で既に待機していたタクシーに2人が乗り込む。
「じゃあ、穂ちゃん!楽しんで!」
「はい、ありがとうございます」
お父さんが頷き、タクシーのドアが閉まる。
タクシーが走り出したところで、そばに立っていた久米さんが口を開く。
「永那ちゃん、車で家まで送るよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「遠慮しないで。僕、この後用事ないし、家近いんでしょ?」
「いや、本当に大丈夫です」
「…わかった。じゃあ、千陽ちゃん。またね」
千陽が会釈する。
久米さんは高級そうな外車に乗り込み、重低音を響かせてから窓を開けた。
片手を上げられたので、私も会釈をした。
車のライトが遠くになるまで、私達は誰も、何も話さなかった。
「ああいう大人にはなりたくないな」
「ね」
私は、何も言わないけれど、心の中でそっと頷く。
「4万も貰っちゃったよ」
「今日のバイト代って思えば?」
「…そだね。千陽はあいつになんか誕生日プレゼント貰ったの?」
「ネックレス」
「高そ」
「そこそこかな」
「そこそこね」
「永那、泊まってけばいいのに。なんならお母さん呼べば?」
「え、なにそれ。あり?」
「ありなんじゃない?」
急な千陽の提案に、なんだかワクワクしてくる。
「永那ちゃんも…泊まれるの…?」
「穂……可愛すぎるだろー!!」
ギュッと抱きしめられる。
「なんて可愛いんだ…大好き」
「わ、私も、大好きだよ、永那ちゃん」
「ん~…!!魅力的な提案だけど、やめとくよ」
「え!?そうなの…?」
「うん。お母さん、きっとこの家来たら興奮して寝なくなるから」
「そっか。せっかく生活リズム整ってきたんだもんね」
「うん。期待させちゃってごめんね」
「ううん。…それなら、早く帰ってあげて?」
額と額を合わせる。
「好き」
「私も。大好き」
「可愛い穂」
「かっこいい永那ちゃん」
「約束、覚えてる?」
「う…うん…大丈夫」
「ん」
チュッとキスされ、顔が火照る。
ポンポンと頭を撫でられ、彼女の手が離れるのと入れ替わりに、私は前髪を指で梳いた。
「千陽、約束守れよ?」
「やだ」
「は!?まだそんなこと言う!?」
「…あたし、してもらってない」
「あ?」
「あたしにもしてよ…」
千陽が左腕を擦る。
永那ちゃんは頭をボリボリ掻く。
「ハァ」とため息をついて、千陽と私の手を引いた。
「え!?」
玄関のドアが開いて、室内に入る。
俯いている千陽の頬を両手で包み、永那ちゃんが千陽に口づけする。
「なんで…」
「お前とキスしてるとこ、誰かに見られたらどうすんだよ」
千陽が唇を突き出して、左腕を擦る。
「穂ともしてて、千陽ともしてたら、私ってすごい最低な奴だと思われちゃうでしょ?誰かにそれ見られてたら、私、“サイテー”って言われちゃうよ?」
「サイテー」
「お前…!」
「ち、千陽…!ほら、もう永那ちゃん帰るんだし…ね?」
フンと千陽がそっぽを向く。
どうしてこうなっちゃうのかな…。
「え、永那ちゃん、そろそろ、帰んないと」
永那ちゃんが千陽を睨む。
なんとか永那ちゃんを見送り、息を吐く。
いつも通り永那ちゃんは何度か振り向いて手を振ってくれたけれど、いつもよりも元気がなかった。
「千陽…なんで永那ちゃんに八つ当たりしてるの…?」
「永那があたしに冷たいから」
「冷たいかな?」
「あたしが言わないと何もしてくれない。穂にはするのに」
「そっか…。それは、確かに…寂しいよね」
自分が永那ちゃんに冷たくされるところは想像できないけれど、そうされたら…と思うと、寂しくなる。
千陽を見ると、彼女は目を細める。
「穂」
「なに?」
「そんなこと言ってたら、いつか永那盗られるんじゃない?」
「え!?千陽は、そんなこと、しないでしょ?」
「あたしじゃなくて」
首を傾げる。
彼女は呆れたように「ハァ」とため息をついて、ドアを開けて中に入った。
私も後に続く。
千陽がスタスタとリビングに向かうので、私もペースを速めて歩いた。
感想 56
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?