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9.移ろい
524.大人
評価してくれていた大人はいつも、学校の先生や家族だった。
私がこんなパーティに参加したのは当然初めてで、疎外感を抱いたのは言うまでもない。
千陽のご両親、久米さんを含めたパーティに参加していた大人達…彼ら彼女らが抱いた私への印象はどんなだったろう…?
千陽のお母さんからは話しかけられてすらいない。
お父さんは気さくに話してくれたけれど。
久米さんに対しては、千陽のことへの警戒心から、かなりキツく接してしまったように思う。
実際、彼には“手厳しい”と言われた。
千陽の友達だから、あの人は話しかけ続けてくれたのだとわかる。
私の“正しさ”への自信が、グラグラと揺れる。
永那ちゃんは“そのままでいい”と言ってくれた。
きっと今も、彼女は迷わず“そのままでいい”と言ってくれるんだと思う。
でも…それでいいのかな?
本当に、それでいいのかな?
隣に座る千陽が、私の肩に頭を乗せた。
「好き」
「…私も、好きだよ。千陽」
罪悪感が芽生える。
これで、いいの…?
永那ちゃんは、私達の関係を、きっと本当は嫌がってる。
“いい”って言われたから、千陽と関係を持ち続けているけれど、本当にそれでいいの…?
私と千陽が、永那ちゃんが言う通り“親友”なら…こんなこと…。
でも、それを伝えたら、千陽はきっと泣いてしまう。
“こんなこと”って思っている時点で、千陽は傷ついてしまうのかもしれない。
難しい…。
さっき永那ちゃんに、何も考えずに“そんな人だったっけ?”と言ってしまった。
彼女の傷ついた顔が思い出される。
あの時は、私が正しいと思った。
ずっと永那ちゃんが千陽を守ってきたのを知っていたからこそ出た言葉だった。
例えそう思って言った言葉だったとしても、言葉選びを間違えてしまったのなら…傷つけてしまったのなら…それはきっと正しくはない。
そういえば私、ちゃんと謝ったっけ…?
永那ちゃんの表情で、明らかに傷ついているとわかったのに、謝ったっけ?
緊張とか疲労感とかで、全然覚えていない。
自分が嫌になる。
こんなに精神的に余裕がなくなったのは、久しぶりかもしれない。
最後の最後まで元気のなかった永那ちゃん。
帰ったら、お母さんはどんな状態だろう?
もしお母さんの情緒が不安定になっていたら、この疲労感のなか、永那ちゃんはお母さんの世話もしなくてはならない。
どうして…。
どうして、私、永那ちゃんにちゃんと優しく出来なかったんだろう…?
「穂」
呼ばれて、目を開ける。
「何、考えてるの?」
「今日のこと」
「久米さんのこと?」
「それもあるけど…永那ちゃんのこと」
「永那?」
「手振ってくれた時、元気なかったなって…心配で」
「永那なら平気でしょ」
「どうして…?」
「上辺の会話なんて慣れてるだろうし。ちょっと疲れただけでしょ。…お金貰ったのも、たぶん嫌だったんじゃない?」
「そういうこと…?」
「穂は、どう思ってるの?」
「私が…永那ちゃんに優しく出来なかったから…」
「部屋でのこと?…あんなの永那が悪いんだし、気にすることない」
「永那ちゃんが…悪いのかなあ?」
「あたしが泣いてるのに平気で穂とイチャイチャするなんて、ホント信じらんない」
千陽は髪先を指に巻き付け、くるくると回す。
「あたし、嬉しかった。…穂が、永那に言ってくれて。穂が、ちゃんとあたしのこと見ててくれて」
「千陽、いつも頑張ってたんだね」
彼女の大きな瞳が私を映す。
「パーティ…いつもひとりで泣いてたんでしょ?」
止まった指先の動きが再開され、彼女は目を伏せる。
千陽が何も言わないから、私は彼女の頭を撫でた。
「穂、愛してる」
「私も千陽のこと愛してるよ」
「嬉しい」
軽く私の肩に頭を乗せていた千陽は、本格的に私にもたれかかるように座り直した。
「好き、大好き。永那よりも好き」
「永那ちゃんより…?」
「うん。今は、永那より穂が好き」
「永那ちゃんのことも、ちゃんと好きでいて?」
「や」
「どうして?私が千陽の家に泊まるの、許してくれてるんだよ?」
返事はない。
私達の間にはただ音楽が流れた。
さっき聞いた曲が頭からもう一度再生され始める。
その曲が終わるまで、私達はそのままだった。
「そろそろお皿片付けようかな」
立ち上がろうとするも、千陽が肩からどいてくれない。
「千陽…?」
「穂、あたし…永那の誕生日、ちゃんと喜ばせたでしょ?」
優里ちゃんと一緒に、彼女がクラスメイトと取り合ってくれていたのを思い出す。
「うん。永那ちゃん、すごく喜んでた」
「だから、これくらいのご褒美、いいでしょ…?春休みのホテルだって、今日の接待をするのが条件で泊まれたの。覚えてる?」
「覚えてるよ」
「じゃあ、もっと、褒めて?もっと、好きって言って?…もっと、愛して?」
彼女の白くて細い指が、私の太ももを撫でる。
少し、くすぐったい。
「今日はほとんど、永那ちゃんが接待してくれてたでしょ?だから…千陽、永那ちゃんのことも、ちゃんと好きでいて?」
「…うるさい」
「え?」
私がこんなパーティに参加したのは当然初めてで、疎外感を抱いたのは言うまでもない。
千陽のご両親、久米さんを含めたパーティに参加していた大人達…彼ら彼女らが抱いた私への印象はどんなだったろう…?
千陽のお母さんからは話しかけられてすらいない。
お父さんは気さくに話してくれたけれど。
久米さんに対しては、千陽のことへの警戒心から、かなりキツく接してしまったように思う。
実際、彼には“手厳しい”と言われた。
千陽の友達だから、あの人は話しかけ続けてくれたのだとわかる。
私の“正しさ”への自信が、グラグラと揺れる。
永那ちゃんは“そのままでいい”と言ってくれた。
きっと今も、彼女は迷わず“そのままでいい”と言ってくれるんだと思う。
でも…それでいいのかな?
本当に、それでいいのかな?
隣に座る千陽が、私の肩に頭を乗せた。
「好き」
「…私も、好きだよ。千陽」
罪悪感が芽生える。
これで、いいの…?
永那ちゃんは、私達の関係を、きっと本当は嫌がってる。
“いい”って言われたから、千陽と関係を持ち続けているけれど、本当にそれでいいの…?
私と千陽が、永那ちゃんが言う通り“親友”なら…こんなこと…。
でも、それを伝えたら、千陽はきっと泣いてしまう。
“こんなこと”って思っている時点で、千陽は傷ついてしまうのかもしれない。
難しい…。
さっき永那ちゃんに、何も考えずに“そんな人だったっけ?”と言ってしまった。
彼女の傷ついた顔が思い出される。
あの時は、私が正しいと思った。
ずっと永那ちゃんが千陽を守ってきたのを知っていたからこそ出た言葉だった。
例えそう思って言った言葉だったとしても、言葉選びを間違えてしまったのなら…傷つけてしまったのなら…それはきっと正しくはない。
そういえば私、ちゃんと謝ったっけ…?
永那ちゃんの表情で、明らかに傷ついているとわかったのに、謝ったっけ?
緊張とか疲労感とかで、全然覚えていない。
自分が嫌になる。
こんなに精神的に余裕がなくなったのは、久しぶりかもしれない。
最後の最後まで元気のなかった永那ちゃん。
帰ったら、お母さんはどんな状態だろう?
もしお母さんの情緒が不安定になっていたら、この疲労感のなか、永那ちゃんはお母さんの世話もしなくてはならない。
どうして…。
どうして、私、永那ちゃんにちゃんと優しく出来なかったんだろう…?
「穂」
呼ばれて、目を開ける。
「何、考えてるの?」
「今日のこと」
「久米さんのこと?」
「それもあるけど…永那ちゃんのこと」
「永那?」
「手振ってくれた時、元気なかったなって…心配で」
「永那なら平気でしょ」
「どうして…?」
「上辺の会話なんて慣れてるだろうし。ちょっと疲れただけでしょ。…お金貰ったのも、たぶん嫌だったんじゃない?」
「そういうこと…?」
「穂は、どう思ってるの?」
「私が…永那ちゃんに優しく出来なかったから…」
「部屋でのこと?…あんなの永那が悪いんだし、気にすることない」
「永那ちゃんが…悪いのかなあ?」
「あたしが泣いてるのに平気で穂とイチャイチャするなんて、ホント信じらんない」
千陽は髪先を指に巻き付け、くるくると回す。
「あたし、嬉しかった。…穂が、永那に言ってくれて。穂が、ちゃんとあたしのこと見ててくれて」
「千陽、いつも頑張ってたんだね」
彼女の大きな瞳が私を映す。
「パーティ…いつもひとりで泣いてたんでしょ?」
止まった指先の動きが再開され、彼女は目を伏せる。
千陽が何も言わないから、私は彼女の頭を撫でた。
「穂、愛してる」
「私も千陽のこと愛してるよ」
「嬉しい」
軽く私の肩に頭を乗せていた千陽は、本格的に私にもたれかかるように座り直した。
「好き、大好き。永那よりも好き」
「永那ちゃんより…?」
「うん。今は、永那より穂が好き」
「永那ちゃんのことも、ちゃんと好きでいて?」
「や」
「どうして?私が千陽の家に泊まるの、許してくれてるんだよ?」
返事はない。
私達の間にはただ音楽が流れた。
さっき聞いた曲が頭からもう一度再生され始める。
その曲が終わるまで、私達はそのままだった。
「そろそろお皿片付けようかな」
立ち上がろうとするも、千陽が肩からどいてくれない。
「千陽…?」
「穂、あたし…永那の誕生日、ちゃんと喜ばせたでしょ?」
優里ちゃんと一緒に、彼女がクラスメイトと取り合ってくれていたのを思い出す。
「うん。永那ちゃん、すごく喜んでた」
「だから、これくらいのご褒美、いいでしょ…?春休みのホテルだって、今日の接待をするのが条件で泊まれたの。覚えてる?」
「覚えてるよ」
「じゃあ、もっと、褒めて?もっと、好きって言って?…もっと、愛して?」
彼女の白くて細い指が、私の太ももを撫でる。
少し、くすぐったい。
「今日はほとんど、永那ちゃんが接待してくれてたでしょ?だから…千陽、永那ちゃんのことも、ちゃんと好きでいて?」
「…うるさい」
「え?」
感想 56
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