美しき雄羊は、兄王に恋をする

時生

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第一話 茉莉花の香る夜(4)※

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「あうぅ、あにうえ、あにうえっ」

 自分の腰の近くでボハイラがよがっている。痺れるような快感に、自分の輪郭が分からなくなる。ふいに鼻の奥が熱くなって、ラアドは起き上がった。四つん這いで泣いていた弟を転がし、のしかかってキスをした。分厚くてどっしりとした腹をなでる。反対の手は尻をなで、揉んだ。

「愛してるよビビ」
「うん……」

 見つめあってキスをして、その間に挾間の蕾を探る。そこがぬるりと濡れていることに気づいたラアドはがばりと顔を離した。ボハイラの鼻の頭にはふつふつと汗が浮いているが、肌はしっとりとする程度だ。そもそもそれは、汗のぬめりとは思えなかった。

「濡れてる」
「うん。――だって、濡らしたからな。ちょっと前に」
「――ビビ」

 ボハイラが目を伏せて、瞳を左右する。まつげ一本一本にキスできないのが残念だとラアドは思う。まぶたに唇を押しつける。

「最後に、したかった」
「ビビ」
「来ないかと思ったよ、兄上」
「ビビ」

 ふっと弟が笑った。兄よりも大きな両手でラアドの顔を包む。

「大丈夫か? ビビしか言ってないけど」
「ビビ――愛してる」
「分かってるよ。俺も、兄上のこと愛してる。いつまでも」

 いつまでも、ともう一度繰り返してボハイラは兄の首を抱き寄せた。ラアドもきつく弟を抱く。ボハイラの長く伸ばした縮れ毛が鼻をくすぐった。

 やや癖はあるものの、おおむね直毛で栗色の髪の兄に対して、弟は日の光を浴びてところどころ金に光る縮れ毛だった。王宮では見ないような縮れ毛は、純粋なるオアシスの王と讃えられるラアドと、異教の遊牧民を母に持つボハイラとの血筋の違いをより一層明確に表し、王家の血など流れていないに違いないと噂される根拠でもあった。

 ボハイラは遊牧民の血が流れることと、縮れ毛を指して、「後宮の羊」と嘲笑されてきたのだ。しかし、ラアドにとって金に光る縮れ毛は、弟の愛らしさや爛漫とした心根の美しさの証だった。

 公の場にはほとんど現れないボハイラとて、己の髪に対する侮蔑は感じていただろうが、ラアドが囁くままに髪を伸ばし続けていた。

――美しい私の雄羊。

 片腕で弟を抱きしめながら、髪の一房を掴んで、ラアドは何度もキスを送った。
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