下賜される王子

シオ

文字の大きさ
上 下
36 / 183
◆ 第一章 黒の姫宮

36

しおりを挟む
「痛くなかったですか。苦しくなかったですか」

 私を抱きしめながら、清玖が不安そうにそんな言葉を掛けてきた。そんな彼を見つめると、幸福の度合いが増していく。幸せすぎて、体が溶けてしまいそうだった。

「心配しすぎだよ、清玖。なんだかもう、色々と凄すぎて……痛いとか、苦しいとかよく分からなったくらいだ」
「そうでしたか」
「清玖はどうだった? 私は、良かったか?」
「問われるまでもありません。……極上の心地でした」
「……良かった。そう言ってもらえて、嬉しい」

 そう言いながら清玖に唇を向けると、すぐに口付けをくれた。ひとつになっている最中は、こうして口吻を交わせなかった。私はこれが好きなのだ。

 舌先を執拗に絡めながら、私は清玖の首の後ろに腕を回す。そうこうしているうちに、私の肌に触れるものがあることに気付いた。清玖のものが、再び硬度を増してきているのだ。

「……もう元気になったんだな」
「なんというか……お恥ずかしい限りで」
「そんなことはない。私は清玖とこういうことをするのが好きだ。だから、元気になってくれて嬉しい」

 そそり立つ清玖のものを私は手で撫でた。もっと大きくなって欲しいという想いを込めながら。清玖のものは、ぬるぬるとしていて、触れると彼の吐き出したものが私の手についた。それをさらに、清玖のものに擦り付けるように撫でる。

「ん……っ、……吉乃様、もう一度、如何ですか」

 唇を軽く食んで、清玖は私を誘う。私のものはずっと緩く立ち上がったままだ。私も清玖の唇を舐めて、応える。この太くて硬いもので、再び私を穿って欲しかった。

「したい……、何回でも、清玖としたい」

 貪欲なまでに清玖を求める心が私にはあった。もっともっと清玖を感じていたい。恥ずかしいだの嫌だのと、ごねたくせに私は清玖に体中を舐めて欲しかったのだ。苦しくとも、痛みを伴おうとも、もっともっと最奥で清玖を味わいたかった。

「今度は少し、姿勢を変えましょう」

 清玖は私の体を抱き上げ、寝台の縁に腰を下ろした清玖の上に私を座らせる。臀部の割れ目に、清玖の硬いものがある。立ち上がった私のものは、清玖の割れた腹筋にぴったりと付いていた。この姿勢になっただけで、体が熱くなる。

 ふいに、清玖が己の指を舐めて、それを私の後孔に押し込んだ。私の孔はすんなりとそれを受け入れる。ぐちゅぐちゅと音を立てて、そこを弄られる。再び、中で放たれた清玖のものがたらりと垂れてくるのを感じた。

「あっ……、あ……っ、しん、しん……っ……ぁ、あっ」

 声にならない声ばかりが溢れて恥ずかしくなる。口を覆おうと手を当てるが、すぐに清玖に退けられ、清玖の舌が私の口内を犯す。全身を清玖に触れられているようだった。頭も、心の中も、体の全ても。

「ぁ……、ん……っ、しん、しん……はやく、はやくして」
「もうちょっと解した方が」
「いい……からっ……ぁ、はやく、しん」

 自ら腰を上げ、清玖のものを掴む。そして、それを自分の孔に宛がった。このまま腰を下ろせば、求めていた質量を手に入れられる。そう思うと腰が震えた。透明の液が、私の先端からはどんどんと溢れ出てくる。壊れてしまったかのようだった。

 ゆっくりと腰を下ろした。それと同時に太いものが、私の体の中に入り込む。自分でも喧しいと思うほどの悲鳴を上げた。気持ちいいのか、苦しいのか、もう判断がつかない。ただただ、清玖のものを咥え込んでいるという事実に堪らなく興奮した。

「上手に入れられましたね、吉乃様」

 清玖の頭は丁度私の胸あたりにあって、清玖は私の胸に舌を這わせた。固く、しこりのようになっていた胸の先端を清玖は咥えたり、舐めたり、甘く噛んだりと弄ぶ。その快感はすぐに、腰を震わせた。

 私は後ろの孔で清玖のものを咥えきったが、何故だか全然足りない。入れただけでは求めたものは訪れなかった。もっともっと奥。叫びたくなるほどの快感を得るのは、もっと奥だ。

「しん……っ、うごいてっ……、もっと、もっと奥に……っ」

 私の求めに応じて、清玖が腰を動かす。その律動が私にも伝わり、体が上下に揺さぶられる。ぱんぱんと肌と肌とがぶつかる音が響き渡った。触れて欲しいところを貫かれ、離れていっては再び突き立てられる。その繰り返しに悲鳴が止まらない。

 貫かれながら私のものは扱かれ、胸は痛くなるほどに甘く噛まれる。何もかも分からなくなって、ただただ快楽を追って縋った。限界が近い私のように、清玖にも限界が訪れようとしていた。
 
「吉乃、様っ……、吉乃様……、ぅっ……吉乃……っ」

 二度目の吐精は、二人同時に訪れた。清玖が私の名を敬称を付けず呼んだのが、私は嬉しかった。偶然の産物かもしれないが、なんとなく、対等になれたような。そんな気がしたのだ。二人で見つめ合い、整わない息のままに軽い口音を立てて唇をついばみ合う。

「……私が女なら、子ができているかな」
「そんなことを言って、俺を煽らないでください」
「煽ってなんかない……素直に思ったことを言っただけだ」
「それが、男の劣情を煽るんです」

 どのあたりが劣情を煽るのかが分からなかったけれど、私は頷く。そんな私を見て困った、というように清玖はため息を吐いて私の頬を撫でた。その手に、私の手を重ねる。清玖の手はとても大きい。

「お願いですから、そういうことを言うのは俺の前だけにして下さい」
「……清玖のお願いを聞くかわりに、私のお願いも聞いて欲しい」
「吉乃様の願いであれば、何なりとお申し付け下さい」
「そういう接し方をやめて欲しい」
「……と、いいますと」
「そういう話し方もいやだ。蛍星にするみたいに接して欲しい」

 清玖が困っているのは火を見るより明らかだった。けれど、私もこれに関しては譲れない。蛍星には出来るのに、何故私には出来ないのか。私のことを吉乃と呼び捨てにし、気軽に声を掛けて欲しい。

「睦み合う時だけで構わないから」
「……しかし」
「お願い、清玖」

 私の頬につけられた彼の手を取って、その手の甲に口付けをする。懇願するように清玖に願った。その際に無意識で、私の中に入っている清玖を締め付けてしまった。清玖は小さく呻く。

「……分かった。そうするよ」
「ありがとう、清玖」
「その代わり、本当に俺以外にはあんなことは言わないでくれ」
「あぁ、約束する」

 清玖が砕けた言葉遣いになった。それだけで、お互いの立場を忘れられる。清玖の前では、私は三の宮ではなくなる。私の人生の中で初めて手に入れた、自由。たとえそれが、仮初のものであったとしても、私は嬉しくて堪らなくなる。

「だが……、あんな言葉で普通は煽られたなんて思わないんじゃないか?」

 私は思ったことを口にしただけだし、煽る気など微塵もなかった。そもそも、どこに煽るような要素があるのかもよく分かっていない。疑問符を掲げる私に、清玖は大きくため息を吐いた。

「俺の性器が入った状態で、吉乃の手は吉乃の腹を撫でていた。丁度、俺のものが入っているあたりを。そんな状態で、孕んでしまう、なんて言うのは男を煽る言葉以外の何物でもない」
「そういうものなのか……分かった、気をつける」

 神妙な顔をして頷いたであろう私を見て、清玖は困ったように笑う。そして手を伸ばして、私の頭を撫でる。その手は耳に触れ、顎をなぞり、首筋に落ちていった。くすぐったくて、笑ってしまう。

「……俺はこれからどれだけの男に悋気を抱くことになるんだろうな」

 小さく漏らされた言葉。きっとそれは清玖の偽らざる本音。これから、という言葉の中には私が姫宮になったあとの未来が含まれていた。少しだけ、悲しくなる。幸福に満ちていたのに、それが消えてしまいそうだ。

「私と出会ったことを、後悔しているか?」
「後悔なんてない。微塵も」

 そんな即答が嬉しくて堪らない。清玖が私を見上げる。私は清玖を見下ろしていた。お互いの額がひっついて、微笑み合う。清玖の端正な顔立ちがすぐそばにあって、すっと通った鼻筋に私は自分の鼻先を擦り付ける。

「こんなに一途に、一心に想える人に出会えるなんて思ってなかった。……吉乃に出会えて、俺は幸せだ」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

エリート先輩はうかつな後輩に執着する

BL / 連載中 24h.ポイント:3,551pt お気に入り:1,694

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

BL / 連載中 24h.ポイント:10,197pt お気に入り:202

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:5,754

紋章が舌に浮かび上がるとか聞いてない

BL / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:3,989

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:796

努力に勝るαなし

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:525

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

BL / 連載中 24h.ポイント:6,739pt お気に入り:1,649

愛され奴隷の幸福論

BL / 連載中 24h.ポイント:1,718pt お気に入り:1,935

五番目の婚約者

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,231

処理中です...