いたずらに使っちゃいけないよ

幻中六花

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母の言っていたこと

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 中学校、高校と、普通の学校に魔女として通った私は、みんなが毎回大騒ぎするテストも受けなきゃいけないし、それに加えて魔法の勉強も独学でやる必要があった。
 部活なんかやっている時間はない。放課後になると、周りの子はみんな、
「部活がいやだいやだ」
と言いながらとっても楽しそうに元気に手を振って、教室から消えていく。
私にとっては、独りで魔導書を読むことが部活のようなものだ。

  
 両親は私がきちんと魔法の勉強をこなせるように、必要なものはたいてい与えてくれた。魔法に必要なものは結構値が張るものからそうでないものまで、ピンキリだ。
 我が家は特別お金持ちというわけではないのに、可能な限り必要なものは与えてくれた。魔法の練習をする部屋も、生活する部屋とは別に作ってくれたし、鳥を放す庭も作ってくれた。

 大人になるにつれ、私は魔法をどう使おうか、まじめに考えなければならない年齢へと差し掛かる。
仕事はどうしたのかというと、実は魔女や魔法使いは『魔法』を使えるということを思い出してほしい。
 食べるもの、生活に必要なものなど、魔法で作り出すことができるのだ。言ってしまえば、仕事をしてお金を稼がなくても、長すぎる人生を生きることはできた。魔法を使ってお金を儲けているのは、悪いことを考えているやつらくらいだろう。

 私は子供のころ、自分が魔女であると知ってからは自ら普通の子と距離をとってしまい、友達が少なかった。今も存在する、『友達を作るのが苦手な子供の友達』に、なろうと思った。
 子供達の学校が終わる時間帯に公園に行き、綺麗な花を咲かせたり、蝶々やスズメを手懐てなずけて見せれば、子供達は興味津々で寄ってくる。普通の子も、魔女の子も、たくさん寄ってくる。
そこで仲良くなってくれればいいな、と思い、児童館のような集会を公園で開いて過ごしていた。

 たまに赤ん坊を連れて公園にくる母親は、私を怪訝そうに見る人、興味を持って近づいて赤ん坊に見せてやる人などさまざまだ。
 私は悪い魔法は一切使わないと決めていたので、次第にいい噂が広まり、休日には家族連れも来てくれて、遊園地の「ショー」のような催し物を開催するようになっていた。
 もちろん、会場は公園なので会場費も不要。お金を取る必要はない。
 見たい人は見ればいいし、見たくない人は見なければいい。参加したいという子供も少なくないが、普通の子に魔法を使わせることはできないので、誰にでもできる簡単なお手伝いをお願いして参加してもらい、子供達も、家族も楽しめるショーになっていった。

「どうなってるの? タネ明かししてよ!」
なんていう子供もいるが、私がやっているのはマジックではなく、魔法だ。タネなんて本当にないので、魔法を理解できない小さな子供に説明するのにはとても苦労した。

 そのうち、見にくる親御さんからおひねりをいただくようになった。
「うちの子、内気で友達がいなかったのに、ここに来るようになって明るくなったんです。ありがとうございます」
とか、
「ここに来るために宿題を先に終わらせる癖がついたんですよ」
とか、感謝の言葉がまなくなっていた。
 そういう親御さんからいただいたお金は、もちろんこの「ショー」をいいものにするために使わせてもらう。寄付となると、その方の望む使い方と違ってしまうかもしれないからだ。
 スズメを手懐けていたのを文鳥にしたり、杖をちょっと可愛くしたり、地べたに座る子供達のお尻が痛くないように敷物を用意したりした。

 昼間は子供達を楽しませる魔女、そして夜は街を飛んで空からパトロールをして過ごす。そんな生活を、100年くらい続けただろうか。

 見にくる子供達もたくさん入れ替わり、子供として見に来ていた子が親になって子供を連れて来たり、その子がまた親となり子供を連れて来る……。

  ──「ああ、これがお母さんの言っていたことか」

 私の両親はもうとっくに年老いて死んでいる。最期まで私のこれからのことを心配していたようだった。そんなに心配しなくても、のんびり生きるよ。

 公園ショー生活100年目となっても、見た目はまだおばさんくらい。これまで何度か恋愛をして今に至る。
 普通の人のように、付き合って恋人になったら数年で別れたり、自分だけが年を取っていくのが辛いと離れていった男性もいる。そりゃそうだ。相手だけ年を取るのが遅いなんて、きっと辛いだろう。
 おばさんになる前に、こんな私でも一度結婚をしたことがある。

 少し、そのころの幸せな話をしよう。
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