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もう一度、子どもを作ろう。
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世の中の変貌をこんなにもたくさん見て生きられるのは、よくも悪くもある。
幾度となく世界中の戦いと平和を見てきたし、事故も、地球の変化も、普通の人間よりも見守らなければならないのだ。
地球温暖化といわれ、地球の温度が上がってきているのも実感している。
ITは瞬く間に進化し、私が子供のころには誰も考えつかなかったような便利な機械が一般家庭に存在し、子供まで使いこなしているのだから驚く。
私はもうそろそろいい年だし、今更若い子の文化についていく必要は感じられない。昔からあったものだけで十分だ。
私が生まれて260年が経った。
一応数えてはいるが、いつまでこの生活が続くのだろう。
1人で日々を見守るのもいい加減飽きてきた。
家族ってどんなものだったか、子供ってどんなものだったか、忘れかけてしまっている私の見た目は、人間でいう90歳くらいのおばあちゃんになった。やっとだ。腰も曲がり、動きもゆっくりになってきた。
あの時、夫が行っていた終活を、そろそろ私も始めなければならないだろうか。
その前に、もう一度子供と過ごす日々を楽しんでおきたいけれど、夫になってくれる人もいなければ、身体もさすがに子供を授かることはできないだろう。
そこで私は、初めて自分のために魔法を使うことにした。
夜、パトロールに使っている箒。ボロボロになっては直し、毎日一緒に過ごしている相棒だ。
「もう、パトロールは若い魔女に任せよう。1人の生活は十分だ。そろそろ坊やでも作ろうかね」
そう言って私は、相棒の箒を二つに折る。ミシッと乾いた音をたてて、箒は二つになった。
それから更に細かく折り、必要な部品を作る。紐を巻いて固定し、手足を作る。頭は穂の部分。
少し雑だが、子供のような形になった箒に魔法をかける。
・
・
・
短い沈黙のあと、箒の坊やがかすかに動いた。成功だ。
命を吹き込まれた箒の坊やは、ゆっくりと動く範囲を広げ、私を見上げて嬉しそうに飛び跳ねた。
「そうかい、そうかい。動けるのがそんなに嬉しいかい。可愛いのう。あまり危ない遊びはせんでおくれよ」
息子が生まれた時もこんな感じだったような気がして、箒の坊やを息子に重ねてしまう。
遊んでいた箒の坊やが紙と鉛筆を持ってきた。
「なんだい、今度はお絵かきかい?」
そこに書かれた拙い文字。覚えたての文字を使って私に意思表示をしてくる。
──『ぼく、こえがほしい』
「そうだねえ。いつまでも動きだけでは、お話しもできないものねえ。じゃあ、ちょっと待っていなさい。魔法の液体を作ってくるからねぇ」
そう言って私は液体の調合を始めた。
──数時間後。
ドロドロとした、緑と紫の液体が出来上がった。
「よーし、できた。坊や、起きてるかい?」
箒の坊やは1人でダンスをして遊んでいたようだ。子供は実に体力が有り余っている。
「坊や、魔法の液体ができたよ。これを今から坊やにかけるからね。少しの間、動かないでおくれ」
粘り気のある鮮やかな緑と紫の液体が、ビーカーからとろりと落ちて坊やの頭に落ちた。少し煙が上がり、坊やはくすぐったそうに動く。
「こらこら、動かないで。もう少しだからね」
二つの液体を全てかけ終えると、また沈黙が訪れた。
動かないようにと言われて固まっていた坊やが、ピクリと動く。
「どうだい? 話せるかい?」
「……く……こ、え、……あ、りが、とう。……こえ、あ、りがとう!」
初めて出す声にしては上出来だ。きちんと言葉になっている。
こうして、私と坊やは会話を楽しむことができるようになり、日々人間の子供のように無邪気に話してくる坊やの話が可愛くて仕方がなかった。
さて、この世に生物として生を受けたわけではなく、最初は『モノ』として生まれた『箒』の坊やでも、魔法を教えたら覚えて、使えるようになるのだろうか。
魔法など使えなくてもいいのだけれど、ちょっとだけ……と思って興味本位で教えてみることにした。
これが私の寿命を短くしたのか長くしたのか、坊やの寿命を短くしたのか長くしたのかは、魔法使いの私にもわかり得ないことだった。
幾度となく世界中の戦いと平和を見てきたし、事故も、地球の変化も、普通の人間よりも見守らなければならないのだ。
地球温暖化といわれ、地球の温度が上がってきているのも実感している。
ITは瞬く間に進化し、私が子供のころには誰も考えつかなかったような便利な機械が一般家庭に存在し、子供まで使いこなしているのだから驚く。
私はもうそろそろいい年だし、今更若い子の文化についていく必要は感じられない。昔からあったものだけで十分だ。
私が生まれて260年が経った。
一応数えてはいるが、いつまでこの生活が続くのだろう。
1人で日々を見守るのもいい加減飽きてきた。
家族ってどんなものだったか、子供ってどんなものだったか、忘れかけてしまっている私の見た目は、人間でいう90歳くらいのおばあちゃんになった。やっとだ。腰も曲がり、動きもゆっくりになってきた。
あの時、夫が行っていた終活を、そろそろ私も始めなければならないだろうか。
その前に、もう一度子供と過ごす日々を楽しんでおきたいけれど、夫になってくれる人もいなければ、身体もさすがに子供を授かることはできないだろう。
そこで私は、初めて自分のために魔法を使うことにした。
夜、パトロールに使っている箒。ボロボロになっては直し、毎日一緒に過ごしている相棒だ。
「もう、パトロールは若い魔女に任せよう。1人の生活は十分だ。そろそろ坊やでも作ろうかね」
そう言って私は、相棒の箒を二つに折る。ミシッと乾いた音をたてて、箒は二つになった。
それから更に細かく折り、必要な部品を作る。紐を巻いて固定し、手足を作る。頭は穂の部分。
少し雑だが、子供のような形になった箒に魔法をかける。
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短い沈黙のあと、箒の坊やがかすかに動いた。成功だ。
命を吹き込まれた箒の坊やは、ゆっくりと動く範囲を広げ、私を見上げて嬉しそうに飛び跳ねた。
「そうかい、そうかい。動けるのがそんなに嬉しいかい。可愛いのう。あまり危ない遊びはせんでおくれよ」
息子が生まれた時もこんな感じだったような気がして、箒の坊やを息子に重ねてしまう。
遊んでいた箒の坊やが紙と鉛筆を持ってきた。
「なんだい、今度はお絵かきかい?」
そこに書かれた拙い文字。覚えたての文字を使って私に意思表示をしてくる。
──『ぼく、こえがほしい』
「そうだねえ。いつまでも動きだけでは、お話しもできないものねえ。じゃあ、ちょっと待っていなさい。魔法の液体を作ってくるからねぇ」
そう言って私は液体の調合を始めた。
──数時間後。
ドロドロとした、緑と紫の液体が出来上がった。
「よーし、できた。坊や、起きてるかい?」
箒の坊やは1人でダンスをして遊んでいたようだ。子供は実に体力が有り余っている。
「坊や、魔法の液体ができたよ。これを今から坊やにかけるからね。少しの間、動かないでおくれ」
粘り気のある鮮やかな緑と紫の液体が、ビーカーからとろりと落ちて坊やの頭に落ちた。少し煙が上がり、坊やはくすぐったそうに動く。
「こらこら、動かないで。もう少しだからね」
二つの液体を全てかけ終えると、また沈黙が訪れた。
動かないようにと言われて固まっていた坊やが、ピクリと動く。
「どうだい? 話せるかい?」
「……く……こ、え、……あ、りが、とう。……こえ、あ、りがとう!」
初めて出す声にしては上出来だ。きちんと言葉になっている。
こうして、私と坊やは会話を楽しむことができるようになり、日々人間の子供のように無邪気に話してくる坊やの話が可愛くて仕方がなかった。
さて、この世に生物として生を受けたわけではなく、最初は『モノ』として生まれた『箒』の坊やでも、魔法を教えたら覚えて、使えるようになるのだろうか。
魔法など使えなくてもいいのだけれど、ちょっとだけ……と思って興味本位で教えてみることにした。
これが私の寿命を短くしたのか長くしたのか、坊やの寿命を短くしたのか長くしたのかは、魔法使いの私にもわかり得ないことだった。
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