てのなるほうへ

幻中六花

文字の大きさ
1 / 3

忍び冬

しおりを挟む
 僕は普段、桜吹雪さくらふぶきさくらという名前で家に引きこもって文章を書いている。所謂いわゆる作家ってやつだ。

 外に出るのはごくたまに。こんな生活は断じて身体に悪い。けれど、長年、紙と向かい合わせで生きてきた僕には、軽いノリで集まる友達などおらず、外で誰かと外食をしたり、酒を飲み交わすこともあまりない。
 そもそも、酒というものは今日思い描いていた作品の世界を一瞬にしてぶっ壊すから、あまり好きではない。

 食べ物はいつも適当にこしらえている。言い忘れたが僕には妻も子供もいない。さっきも言ったが、長年、紙と向かい合わせで生きてきたが故、出会いもないし、誰も僕になど興味を示さない。

 今日は食材があまりにも少なかったので、久しぶりに外に出た。
 部屋でずっと着ている部屋着に薄手の上着を羽織り、普通の人は仕事に行っているであろう平日の昼間にサンダルを突っ掛けて、ポケットに手を入れて歩く。隠しきれない猫背が、一層僕を世の中から孤立させるようだ。

 ペンネームに表れているように、僕は日本の四季の中で、春が一番好きだ。そして、春から一番遠くて淋しい印象のあるこの秋が、一番嫌いだ。

 家から少し離れた頃、僕はこの格好で家を出てきたことを後悔した。
 ずっと家の中にいたから気づかなかったけれど、いつの間にか冬がすぐそこまで来ている。
 僕は北国出身なのだが、そこで幼い頃嗅いだ、懐かしい冬の香りが、ほのかに漂っていた。

 その夜、夕方まで静かだった空が突然不機嫌になり、僕の部屋の窓を激しく叩き始めた。
 まるで意思を持っているかのように、まるで命が宿ったみたいに、バンバンバン! バンバンバン! と激しく叩いた。
 時々家を大きく揺らしては、突然無口になって、僕に
「冬を忘れるんじゃねぇぞ!」
と叫んでいるようだった。

 ──パラパラパラ! パラパラパラ!

 また無口になったかと思えば、今度は光のシャワーのように窓を細かい白いものが襲ってくる。
 まるでライブ会場のように、光のシャワーは僕の方へ襲ってくる。

「あぁ、もしかして、この激しいライブはみぞれの仕業だろうか」

 僕はわざわざ確認するためにカーテンと曇ったガラスがはまった窓を開けたりしない。
 もしも霙の仕業だったなら、明日僕が目覚めた時には、きっと外は銀色世界のはずだ。

 寒いのは嫌いだけれど、窓を開けて眼前がんぜんに広がる銀色の世界は、田舎を彷彿ほうふつさせてくれるからいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...