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第八話 反攻

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 オレは自分の生体探知機能の索敵領域内から姉妹をさらった犯人と思しき人物が外れないように慎重を期して尾行した。
 相手の移動はやはり徒歩のままと判断し、五十メートル以下に接近してからトラックを降りた。
 
 ヤツを視界にとらえたのは高級住宅街に入ってからだった。確かにラフな格好ではあるものの、決してみすぼらしい感じはなく金持ちの日曜日といった風情だ。
 身長は百八十センチかもう少しあるかもしれない。体格はがっしりしていて、髪は短髪。背中や腕の感じからすると体を鍛えているようだ。だが、後ろ姿だけではこれくらいしかわからない。

 この辺りは遮蔽物が少なく尾行には適さない。特にオレが知らずに出してしまっている軍人臭的なものはわかるヤツにはわかってしまう。顔に付けているゴーグルもこのような場所では明らかに不自然なのだが外すともっと目立ってしまう。
 やむを得ず少し距離を開けたオレはベルトに指してある単眼鏡でヤツを追った。

 最終的にヤツはある家屋の中に入った。全く無警戒且つ無防備に入っていったので、自宅と判断して良いだろう。既に日が暮れつつあるので夜を待つことにした。

 この間、ヤツから無線は入らなかった。オレは明らかに不自然な行動をしている。もし監視されているなら確実にアプローチがあるはず。ならば時間帯か場所かわからないが一定の条件下でしかオレを見ていないということになる。

 日はとっぷりと暮れた。しかしヤツの家全ての窓から明かりが漏れており、同居人の存在が濃厚。潜入出来たとしても『オレの目的』達成には現況では難しい。
 単眼鏡で覗くと家のセキュリティは一般のレベルだ。カメラや窓の振動感知、あとは赤外線式で統一されているくらい。さて、どうするか。

 事態は意外な展開を見せた。ヤツは家の外に出てきたのだ。発見時と同様に軽装であり、遠出は考えられないのでモタモタしている暇はない。この千載一遇のチャンスを逃したらあとは何らかの強硬手段を選択せざるを得ない。

 オレはスニーキングを駆使して後をつけ、ケヤキの葉で街灯が隠れている場所でヤツの背後から羽交い絞めにしながら首にナイフを突きつけた。

「騒ぐな」
「……」

 オレの忠告に落ち着いて小さく頷く犯人。極端に動揺している様子は見せない。そう思った矢先――
 オレの腹辺りで上流の河原にある大きな石と石がぶつかったような音を聞いた。同時に衝撃もあった。

 そう、ヤツはオレにバックエルボーを繰り出したのだ。しかしオレはヤツの体つきを見た段階でプロの可能性も頭に入れて特製のボディーアーマーを着用していた。銃弾はもちろんのこと打撃にも強い。鉄板入りで新旧の技術の結晶だ。

「ぐっ!」

 ヤツは苦悶の表情を浮かべている。そりゃ、そうだ。相当痛いはずだ。

「おい、騒ぐなと言ったろう?」

 抵抗したコイツが悪い。オレはヤツの膝を蹴ってひざまずかせてからナイフでコイツの首の皮膚を薄く切ってやった。ただ、動脈には達しないよう留意した。殺してしまっては意味がない。
 改めて顔を見たが、やはり知らない顔だ。しかしコイツの動きは軍で習得するものだ。

「おい、お前、幼い二人の子供をさらった一味だよな? あの二人はどこにいる?」
「……」

 ヤツはオレの問いに口を割らない。

「お前、軍人か? それとも特別な訓練を受けているかだよな?」
「……」
「お前、あの家に住んでんだろ? 家族も一緒だよな? だったら――」
「わかった!」
「最初からそうしろよ」
 
 コイツの名前はマーカスと言ったが、どうでもいい。オレが休んでいる間に入隊した軍人だった。そしてアイカとルクシーは軍所有の倉庫に囚われていることが判明した。

 このマーカスというヤツが誘拐の実行犯であるのは間違いないようだが、主犯は別にいるようで、ソイツのことはマーカスは知らないと言った。なんでも指示はいつもメールや電話等で直接会ったことすら無いという。ならばなぜ言いなりになっていたかというとギャンブルで多額の借金があり、返済に困っていたところに謎の男から借金を肩代わりしてやると言われ、既に半分をもってくれたという。その見返りに今回の誘拐と武器類の調達や運搬を行っていたということだった。

 同情すべき点がないわけでないが、マーカスをこのまま生かしておくとオレがこの事件の概要を知ってしまったことを主犯に知らせるだろう。
 オレはマーカスの心臓を一刺しした。亡骸は木の陰に隠した。

 コイツの家族が気付く前にここを離れ娘たちを奪還しなくてはならない。オレは急ぎトラックに乗り込み監禁場所へ向かった。
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