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第九話 奪還と誤認

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 主犯のヤツからいつ通信が入るかわからない。それだけが気がかりだ。今、どこにいるのかと聞かれても事実は言えない。しかし嘘をついたとして、それが通用する気も全くしない。急がなくては。

 マーカスが言っていた倉庫は街外れの山岳地帯への入り口付近にある。倉庫と言っても軍管理なので外観は堅牢だ。食料品や衣類、兵器、備品等一式集まっている。全部で三十棟ほどある。この中の被服棟の『E』にアイカとルクシーがいるはずだ。
 オレは全身、それこそ頭のてっぺんからつま先まで黒づくめの専用全身スーツに着替え、潜入した。

 セキュリティシステムは熟知している。長時間は無理だが日付が変わるタイミングで人とシステムに空白ができる。指令室で待ち伏せし、無人になった隙に携帯端末で不正侵入して一時停止させる。これで数分はやりたい放題だ。

 オレは急いで目的の倉庫に入った。生体探知を発動、二人の存在を確認したが、もう一人いるようだ。見張りだろうか。
 そっと近づき暗視スコープで確認するとフード付きの長いコートを羽織ったヤツが二人の背後にいる。
 さらに近づきアイカとルクシーの状態を確認するとさるぐつわをされて、柱に縛り付けられている。あんな幼い子になんてことしやがる。絶対に許されない。

 コートのヤツがかがんだ。何かをしているようだがわからない。

 姉妹は拘束が解けたようで立ち上がった。オレはピンときた。恐らく何らかの形でオレがここに来ることがバレていて、襲撃される前に人質を他の場所へ移動させようとする魂胆なのだろう。だが、遅かったな。オレはもうここに居る。
 だが、この場所でコートのヤツと接触するとアイカとルクシーの安否に影響がないとも言えない。悲鳴を上げられても困る。口惜しいがその場は見送り倉庫から出るのを待つ。
 コートのヤツは二人の手を握り、小走りでゲートへ向かっている。オレが停止させているセキュリティが回復するまであまり時間がない。ここもやむを得ないが手出しはやめておこう。

 姉妹とコートの人物は外に出て山の方へ向かっている。オレには生体探知能力があるが、車両で移動されると厄介だし、軍のヤツならオレの能力を知っているから何かしらのステルス性能を持った機器を保持しているかもしれない。そうなれば距離関係なく闇夜に紛れてすぐに見失ってしまうだろう。

 仕方ない。オレは足の速さを生かして射程内に近づき、ホルスターからハンドガンを取り出してすぐに一発撃った。

 銃弾はヤツの恐らく背部に命中した。その証拠にコートのヤツはバッタリ倒れた。姉妹が悲鳴を上げてしまったが、ここまで来れば誰にも聞こえないだろう。
 オレは頭部のスーツをずらし顔が良く見えるようにしてから、茫然と佇んでいる姉妹に初対面の時のようにやさしく声を掛けた。

「オレだ。おじさんだ」
「!!」

 アイカとルクシーは混乱しているのか絶句している。

「おじさん! 何で撃ったの!? このお姉さんは、お姉さんは……」

 アイカは泣いている。誘拐に関わったヤツらになぜ同情するのか。

「なに!? どういうことだ!?」

 オレはコートの人物のフードを剥いだ。

「どういうことだ!? なぜ君が!?」

 誘拐犯の主犯、もしくは一味と思しき人物と思っていたコートを被った男……いや女。それはあの妖精だった。
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