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第十五話 召喚
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『ケハラだ! トリー、どうなった? お前は大丈夫なのか?』
「大丈夫じゃなかったらこうやって電話はできんだろ?」
『……ああ、そうか。そうだな』
オレは夕暮れになって、ようやく妖精の森から出た。そして心配しているであろうケハラにすぐに連絡を取った。
「全て終わった。サトーはオレが葬った」
『……そうか。今おまえは?』
「車の中だ。それでウチの娘たちは?」
『もちろん、元気だ』
「すまんが声を聞かせてくれ」
『おう、ちょっと待て』
「もしもし、アイカ? ルクシー?」
『おじさん、大丈夫?』
「オレは元気だ。ちゃんと行儀よくしているか?」
『してる』
「そうか。悪いがそっちのアフロおじちゃんと代わってくれ」
『はい。アフロおじちゃーん! 代わって』
「ケハラ?」
『おい! アフロおじちゃんってなんだよ? ひでえじゃんか』
「オレだっておじさん呼ばわりだぞ、我慢しろ」
『あ、そうだ! 魔術師の件だがな、いいヤツを紹介できそうだ。かなりの腕利きらしい』
「魔術師を腕利きって褒めるのはおかしくないか?」
『細かいことはいいだろう!? そんでどうする?』
「連絡先を教えてくれ」
『わかった』
ケハラとの電話を切ってすぐにオレは番号を教えてもらった魔術師に連絡した。
相手はすぐに出た。
『トーリ・ウォリアーさんですね? ケハラさんから伺っております』
「ああ、そりゃ助かる」
『それでご用件は?』
「直接会って話したいんだが」
『……では明朝お越しください。住所は――』
オレは魔術師との通話を終えるともう一度ケハラに電話した。
「トーリだ。たびたびスマン」
『なんだ、どうした?』
「頼みたいことがある」
『またか、今度は一体なんだ?』
「アイカとルクシーを頼む。何でもかんでもお前にばかりで本当にすまなかった」
『え? おい! 一体どういう――』
オレは電話を切り、そして車から投げ捨てた。
翌朝。オレは言われた住所に向かった。市街地の外れにあるさびれた教会だった。オレは無宗教なのでよくわからないが、三角屋根で煙突みたいなものが飛び出ている。先端に何かしらのマークがあるが意味は不明。建物自体はコンクリートのようなのでしっかりしているのかもしれない。
一歩、中に入るとまっすぐ伸びた通路の両脇はベンチシートが何列も並んでいる。奥にはさっきの煙突みたいなヤツに付いていたマークが壁に掲げられている。
「お待ちしていました」
魔術師はオレが中に入るとすぐに出てきた。
だが想像していたよりずっと若い。声は昨日の電話で女だとわかっていたが、下手するとオレより年下かもしれない。仰々しい格好と言えばそうだが、キラキラ光ったまばゆいシルバー系のローブを着ているせいで外見はハッキリとはわからないが、チラリと覗く横顔からするとかなりの美人だろう。いかにもって感じもあるっちゃある。
「朝からすまない。ちょっと面倒なお願いでね」
「……そうですね、召喚をしてもらいたいというわけですね?」
「あ、ああ。もうわかっているのか?」
「……このような仕事をしておりますので」
まだあどけない顔をしているので、正直どうかと思っていたが、ケハラの言う通り『凄腕』なのかもしれない。
「少々お高くなりますが……」
「兵器でもいいか? 他国の物だが、高性能で重火器ばかりだ」
「さすが兵隊さんらしいですね。通常なら駄目ですが、そういうルートへの販路もないこともないので考えましょう」
「助かる。オレは換金できる筋を知らんのでな」
「ではこちらへ」
魔術師はスッと体の向きを変えて奥へ向かって歩き出した。余計なことだが後ろ姿もなんともミステリアスなオーラを醸し出していて本当に人間なのかと疑ってしまう。
正面の大きな祭壇と思しき造形物の脇からさらに奥へ続く通路があるようで、オレは彼女に付いていった。
そこにあったのはステージのような空間。真ん中に……教壇のような台があり、両脇にはキャンドルが三本ずつ灯っている。何かをする場所なのだろうなとは想像がつくが……地味すぎる……
「ここは教会に似せているだけで教会じゃありませんもの」
魔術師は急に振り返って怪し気に微笑んだ。なんだか心が読まれている気がしてならない。
「あ、そうなのか。ところで――」
「こちらに跪いて、両手の指を組んでください」
「あ……わかった」
魔術師は分厚いハードカバーの本を教壇(……ではないと思うが)から取り出し、それをうやうやしく開いて何やら唱え始めた。
プロテなんとかとか? やホメナなんとか? などさっぱりわからん言葉を言い続けている。急に緊張してきたが、オレがやれるのはこの祈りのポーズだけだ。
「お待たせいたしました。ここからは直接どうぞ」
「え?」
召喚を終えたのだろうか。やけにあっけない。魔術師はさらにあとは自分でやれと言わんばかりでこっちはたじろぐばかりだ。ここからどうすれば良いのかなどオレは知らん。
『貴様は誰だ?』
「え、は?」
頭の中に声が響いている。反射的に周囲を目視でくまなく索敵、すぐに生体探知も使った。だが何も見つけられない。
『馬鹿者が。貴様の不毛な愚行に付き合うほど暇ではない。用件を申せ』
「……」
全く経験のない事態に冷や汗が出てきた。
「トーリさん、既にマンセマットをお呼びしていますからそのままお話しください」
魔術師がクールに言い放つ。
「マンセマ?」
『早くいたせ!』
「あっ! あの、実は生き返らせたい人物がいまして……」
空中に向かって話すのはどうも調子が狂う。
『蘇生術は多大な対価が必要だ。それを差し出せるのか?』
「オレでできることならなんでも……」
『ほう。言うておくが金をいくら積んでも足りぬぞ?』
「オレの命でどうです?」
『貴様の命だけでは足りん』
「え? じゃあ、どうすれば!? 無理なんですか?」
『……そうだな、この後五回分の転生を棒に振る覚悟があれば釣り合うか』
「五回分……」
五回分と言われてもピンとこない。
『死後百年ほど霊人として無人砂漠で孤独にさまよう。そして十月十日母親の胎内にとどまり、出生直後に死亡。その後また無人砂漠で百年。この繰り返しを五回ということだ』
「……」
『つまりだな、胎児として五十か月以上、加えてあの世の孤独を五百年味わってもらうがいかがか?』
「……」
『やはりやめるか? その方が賢明だ。頭がおかしくなりそうになってもそれすら叶わない。自ら死ぬことも出来ない。言葉では語りつくせぬまさに地獄の苦しみよ』
「いいえ、やります。やって下さい」
『……構わぬのか?』
「はい」
『今すぐに死んでもらうことになる』
「わかりました」
『で、蘇生すべき者は誰ぞ?』
「妖精の娘でアメリと言います」
『……うむ、承知した。では良いか? 天魔王マンセマットの名において貴様の願いを叶えよう』
「……はい」
目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていった。これで五百年、砂漠をさ迷い歩き続けるのか……辛いな。
「大丈夫じゃなかったらこうやって電話はできんだろ?」
『……ああ、そうか。そうだな』
オレは夕暮れになって、ようやく妖精の森から出た。そして心配しているであろうケハラにすぐに連絡を取った。
「全て終わった。サトーはオレが葬った」
『……そうか。今おまえは?』
「車の中だ。それでウチの娘たちは?」
『もちろん、元気だ』
「すまんが声を聞かせてくれ」
『おう、ちょっと待て』
「もしもし、アイカ? ルクシー?」
『おじさん、大丈夫?』
「オレは元気だ。ちゃんと行儀よくしているか?」
『してる』
「そうか。悪いがそっちのアフロおじちゃんと代わってくれ」
『はい。アフロおじちゃーん! 代わって』
「ケハラ?」
『おい! アフロおじちゃんってなんだよ? ひでえじゃんか』
「オレだっておじさん呼ばわりだぞ、我慢しろ」
『あ、そうだ! 魔術師の件だがな、いいヤツを紹介できそうだ。かなりの腕利きらしい』
「魔術師を腕利きって褒めるのはおかしくないか?」
『細かいことはいいだろう!? そんでどうする?』
「連絡先を教えてくれ」
『わかった』
ケハラとの電話を切ってすぐにオレは番号を教えてもらった魔術師に連絡した。
相手はすぐに出た。
『トーリ・ウォリアーさんですね? ケハラさんから伺っております』
「ああ、そりゃ助かる」
『それでご用件は?』
「直接会って話したいんだが」
『……では明朝お越しください。住所は――』
オレは魔術師との通話を終えるともう一度ケハラに電話した。
「トーリだ。たびたびスマン」
『なんだ、どうした?』
「頼みたいことがある」
『またか、今度は一体なんだ?』
「アイカとルクシーを頼む。何でもかんでもお前にばかりで本当にすまなかった」
『え? おい! 一体どういう――』
オレは電話を切り、そして車から投げ捨てた。
翌朝。オレは言われた住所に向かった。市街地の外れにあるさびれた教会だった。オレは無宗教なのでよくわからないが、三角屋根で煙突みたいなものが飛び出ている。先端に何かしらのマークがあるが意味は不明。建物自体はコンクリートのようなのでしっかりしているのかもしれない。
一歩、中に入るとまっすぐ伸びた通路の両脇はベンチシートが何列も並んでいる。奥にはさっきの煙突みたいなヤツに付いていたマークが壁に掲げられている。
「お待ちしていました」
魔術師はオレが中に入るとすぐに出てきた。
だが想像していたよりずっと若い。声は昨日の電話で女だとわかっていたが、下手するとオレより年下かもしれない。仰々しい格好と言えばそうだが、キラキラ光ったまばゆいシルバー系のローブを着ているせいで外見はハッキリとはわからないが、チラリと覗く横顔からするとかなりの美人だろう。いかにもって感じもあるっちゃある。
「朝からすまない。ちょっと面倒なお願いでね」
「……そうですね、召喚をしてもらいたいというわけですね?」
「あ、ああ。もうわかっているのか?」
「……このような仕事をしておりますので」
まだあどけない顔をしているので、正直どうかと思っていたが、ケハラの言う通り『凄腕』なのかもしれない。
「少々お高くなりますが……」
「兵器でもいいか? 他国の物だが、高性能で重火器ばかりだ」
「さすが兵隊さんらしいですね。通常なら駄目ですが、そういうルートへの販路もないこともないので考えましょう」
「助かる。オレは換金できる筋を知らんのでな」
「ではこちらへ」
魔術師はスッと体の向きを変えて奥へ向かって歩き出した。余計なことだが後ろ姿もなんともミステリアスなオーラを醸し出していて本当に人間なのかと疑ってしまう。
正面の大きな祭壇と思しき造形物の脇からさらに奥へ続く通路があるようで、オレは彼女に付いていった。
そこにあったのはステージのような空間。真ん中に……教壇のような台があり、両脇にはキャンドルが三本ずつ灯っている。何かをする場所なのだろうなとは想像がつくが……地味すぎる……
「ここは教会に似せているだけで教会じゃありませんもの」
魔術師は急に振り返って怪し気に微笑んだ。なんだか心が読まれている気がしてならない。
「あ、そうなのか。ところで――」
「こちらに跪いて、両手の指を組んでください」
「あ……わかった」
魔術師は分厚いハードカバーの本を教壇(……ではないと思うが)から取り出し、それをうやうやしく開いて何やら唱え始めた。
プロテなんとかとか? やホメナなんとか? などさっぱりわからん言葉を言い続けている。急に緊張してきたが、オレがやれるのはこの祈りのポーズだけだ。
「お待たせいたしました。ここからは直接どうぞ」
「え?」
召喚を終えたのだろうか。やけにあっけない。魔術師はさらにあとは自分でやれと言わんばかりでこっちはたじろぐばかりだ。ここからどうすれば良いのかなどオレは知らん。
『貴様は誰だ?』
「え、は?」
頭の中に声が響いている。反射的に周囲を目視でくまなく索敵、すぐに生体探知も使った。だが何も見つけられない。
『馬鹿者が。貴様の不毛な愚行に付き合うほど暇ではない。用件を申せ』
「……」
全く経験のない事態に冷や汗が出てきた。
「トーリさん、既にマンセマットをお呼びしていますからそのままお話しください」
魔術師がクールに言い放つ。
「マンセマ?」
『早くいたせ!』
「あっ! あの、実は生き返らせたい人物がいまして……」
空中に向かって話すのはどうも調子が狂う。
『蘇生術は多大な対価が必要だ。それを差し出せるのか?』
「オレでできることならなんでも……」
『ほう。言うておくが金をいくら積んでも足りぬぞ?』
「オレの命でどうです?」
『貴様の命だけでは足りん』
「え? じゃあ、どうすれば!? 無理なんですか?」
『……そうだな、この後五回分の転生を棒に振る覚悟があれば釣り合うか』
「五回分……」
五回分と言われてもピンとこない。
『死後百年ほど霊人として無人砂漠で孤独にさまよう。そして十月十日母親の胎内にとどまり、出生直後に死亡。その後また無人砂漠で百年。この繰り返しを五回ということだ』
「……」
『つまりだな、胎児として五十か月以上、加えてあの世の孤独を五百年味わってもらうがいかがか?』
「……」
『やはりやめるか? その方が賢明だ。頭がおかしくなりそうになってもそれすら叶わない。自ら死ぬことも出来ない。言葉では語りつくせぬまさに地獄の苦しみよ』
「いいえ、やります。やって下さい」
『……構わぬのか?』
「はい」
『今すぐに死んでもらうことになる』
「わかりました」
『で、蘇生すべき者は誰ぞ?』
「妖精の娘でアメリと言います」
『……うむ、承知した。では良いか? 天魔王マンセマットの名において貴様の願いを叶えよう』
「……はい」
目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていった。これで五百年、砂漠をさ迷い歩き続けるのか……辛いな。
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