最愛はすぐ側に

なめめ

文字の大きさ
14 / 190
幸せな記念日

幸せな記念日③

しおりを挟む
「あ、あの……。り、律仁さん……」

 首筋にキスを落としてくる律仁さんの顔を優しく両手で退かす。少し残念そうに眉を下げている律仁さんに心苦しくなったが、渉太は「一度、座ってもらえませんか?話さなきゃいけないことがあって……」と告げると律仁さんは静かに向かいの椅子に座り直してくれた。

「渉太、どうしたの?」

 僅かに懸念が伺える彼の表情に根負けしそうになるが、渉太はテーブルの上で拳を握って顔をあげると彼の目を見て話す。

「あの……。律仁さんにちゃんと聞いてもらいたいことがあって……。この間のキャンプの時、律仁さんは俺に海外に着いて来て欲しいって言っていた返事なんですけど……。あれから俺なりに考えて答えを出したんです」

 これ以上、悲しそうな姿は見たくはないが、自分の正直な意志はちゃんと伝えたい。

「……やっぱり俺、律仁さんと一緒に行くことはできないです。すみません……」

 渉太は深々と頭を下げる。きっと律仁さんは一緒に行くことを望んでいたことが分かっているからこそ、頭をあげるのが怖かった。両眼を強く瞑り、唇を噛みしめて律仁さんからの返事を待っていると、「そっか……。渉太、頭あげてくれる?」と向かいから優しい声が聞こえてきた。ゆっくりと首をあげて、彼の顔を見ると案の定どこか、悲しそうなに瞳を揺らしていた。

「どうしてか、理由を聞いてもいい?」

 両手を上で組んで問うてくる彼も不安であるのだろう。それでもちゃんと理由を聞こうと渉太と向き合ってくれることに感謝しかなかった。

「俺、ちゃんと律仁さんを支えられるような大人になりたいんです……。だけど、律仁さんに着いて行ったら自分がどうしたらいいか見失ってしまうような気がして……」

「そんなことないよ?渉太は出会ったことよりしっかりしてるし、自分を持っているから見失うことなんてない。それに向こうで暮らした方が渉太と一緒に堂々と街中を歩くこともできるんだよ?」

きっと律仁さんなりの必死の説得なのだろう。右手が彼の両手によって包まれる。それほどまでに愛されている事実は嬉しいけど、変わらないままでは渉太自身が納得いかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です

月曜9時の恋人 ――上司と部下のリモート勤務録

斎宮たまき/斎宮環
BL
「おはようございます」から始まる恋がある。 在宅勤務の上司と部下、画面越しに重なっていく生活音と沈黙。 誰もいない夜、切り忘れたマイクから漏れた吐息が、心の距離を壊していく。 社会的距離が恋の導火線になる―― 静かな温度で燃える、現代オフィスBLの新形。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

処理中です...