最愛はすぐ側に

なめめ

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浅倉律しかなくて

浅倉律しかなくて③

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煌びやかな衣装に身を包み、律仁は完璧な姿である自分を楽屋の鏡前で眺めると頬を二回ほど叩いた。それを境に腑抜けた律仁の顔から、誰もが憧れる律の顔へとスイッチを切り替える。

 運営スタッフに呼ばれて、楽屋を出ると舞台へと向かうたびに緊張感が増す。

 この数週間の決意と覚悟を持って、律をやり遂げて見せる。

「律仁、いいな。変なことは考えるなよ。お前はライブを成功させることだけ考えろよ」

イヤーモニタ―の位置を確認しながら会場までの道中、楽屋から出てきたところで隣を歩いていた吉澤が眉間に皺を寄せて声を掛けてくる。

「分かってるって。でも吉澤さん、俺の急な変更受けてくれてありがとね」
「ああ、まぁでも、お前がやる気になってくれて良かったよ。一時はどうなるかってヒヤヒヤしたがな」

「当たり前じゃん。俺を誰だと思ってんの。ちゃんと大事な時には復活する男に決まってんじゃん」

 何時もの調子で返してみたものの、先ほどの藤咲同様に勘のいい吉澤に気付かれでもしたら全てが崩されてしまう。

様子を伺ってみると、「調子がいいな」と呟いただけで特に訝しんだようには見えなかったので一安心した。

 ステージ口前の広間まで到着すると自然と吉澤は離れていき、その代わりにスタッフ達やダンサーや演奏者などが律仁の周りに集まってきた。

どのライブでも恒例の気合の円陣。その中で藤咲は円陣には参加せずに遠くでその様子を眺めていたのが目に入った。彼らしいと言えば彼らしい……。

円陣を組んだ律仁は、開演前の演者、スタッフのモチベーションが上がるように座長として率先として音頭をとる。

今、律仁が考えていることは此処で肩を並べている全ての人を裏切る行為だと分かっているからこそ、後ろめたさはあったが気持ちは揺るがなかった。

円陣の後、それぞれの持ち場へと散らばっていく。律仁も中央ステージの真ん中の階段で待機をすると、しばらくして会場内から黄色い歓声があがった。

今回のライブのオープニング映像が始まったのだろう。
 これから長いようで短い二時間弱の公演が始まる。
渉太は来てくれているだろうか……。
きっと来てくれさえないだろう……。

それでも自分は、浅倉律をやり遂げなければならない。

最後まで完璧な俺であるように。


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