最愛はすぐ側に

なめめ

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最愛はすぐ側で

最愛はすぐ側で⑥

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「おはよう、渉太。ってもう御昼だけど。身体大丈夫?大分無理させちゃったから……」

ギターを壁に立て掛けて置くと、渉太が座る階段の元へと近寄ってくる。渉太の頭を軽く叩くと、そのまま隣に腰かけた。

「大丈夫……ではないです。だけど律仁さんのせいじゃないので気にしないで下さい……」

 俺がしたかったからしたこと。多少の後悔はあるけど幸福感の方が多き今、律仁さんには変に気を遣ってほしくなかった。

「うんうん、渉太が求めてきたんだもんねー。三回目くらいのときは座位で自分からいやらしく腰振っ……うっ」
 
 あまりに下品な物言いに腹が立った渉太は、律仁さんの脇腹に拳をお見舞いした。不意のパンチに律仁さんは鈍い声を漏らす。

律仁さんの言葉で数秒前に気を遣ってほしくないと思った自分をも殴りたくなった。

気遣いとまでいかなくても、せめて気の利いた優しい言葉のひとつでもかけてくれると微かに期待していただけに幻滅する。

律仁さんは前から変わらないのだから、歌を歌う姿を見たことによるアイドル浅倉律補正というやつがかかっていたのかもしれない。

「過ぎたことを弄ってくるなんて性悪ですよ」
「それはっ渉太があまりにも可愛かったからでっ……」
「言い訳は受け付けませんよ?少しは俺を労わる気持ちないんですか?」
「もーう、言葉の綾だって?渉太、前だったら揶揄ったらオロオロしてて、揶揄いがいがあったのにやり返すようになったね」

律仁さんは脇腹を摩りながら、慌てた様に弁解をしてくる。

「そりゃあ……俺だって少しは成長します。それに、いちいち意地悪な律仁さんに負けてられませんから」

もう渉太も律仁さんに振り回されてばかりの初心うぶだった二十代前半の頃ではない。いつまでも甘く見られたくなくて、渉太はプイッと顔を背けた。


「しょーた。怒んないでよ、俺が悪かった」

あからさまなに不機嫌な態度をとって見せると構ってほしそうに渉太の頬をツンツンとつついてくる。猫なで声で甘えてくる律仁さんの姿に緩んでしまいそうになる頬を、歯を食いしばり我慢した。

心を鬼にして「ねぇ、しょーた」としつこくアピールしてくる律仁さんに暫く無視を決め込んでいると、いじけてしまったのか階段の隅に背中を丸めて座り込んでしまった。流石にやりすぎただろうか。

 渉太はそんな律仁さんの肩を叩いて、振り向いてきた隙を見て軽く唇にキスをする。

「俺も悪さが過ぎました。おあいこってことで」

「もう……。本気で嫌われたかと思った。心臓に悪すぎ」と呟いた後で、律仁さんは正面に座り直し渉太の両手を強く握ってきた。

「渉太、さっきの聴いてた?」

 僅かに不安げな瞳が問うてくる。さっきの……と聞いて当てはまるのは一つしかない。

「はい……。あれって那月くんに提供した曲ですよね」

 渉太が静かに頷いて答えると律仁さんが真剣表情で話し始めた。

「うん、表面上はね。でも、本当は俺の歌にするつもりだった。俺が渉太を想って作った曲だから。でも、いざレコ―ディングして世に出すってなった時。歌えなかったんだ。何度も試したけどメロディーを聴いて言葉を発そうとしても、水中で溺れたみたいに苦しくなってダメだった。だから那月に託した」

 曲調、詞の表現から何となく感じてはいたが、やはり律仁さんが自分に向けて書いた曲で間違いなかった。

那月が歌うことになった経緯は初めて聞くことではあるが、自身が歌えなくなる程彼を苦しめてしまっていた根源であるだけに、申し訳なさから何も言葉を掛けられず、黙っていることしかできなかった。

「事務所を去って今までだって歌えたのは渉太が花束を贈ってくれたライブの一回だけで歌ったことない。けど、朝。目を覚まして、隣で渉太が眠っているのを見てさ、無性に歌いたくなったんだ。そしたら凄く暖かい気持ちになれた。苦しくなんてなかった。だからもうこの手を離さないでね」
「もちろんです。絶対放しません」

舞台で光輝くアイドルで、自分には眩しくて、格好良くて、憧れで、手の届かない存在。

いつも渉太の苦しい時には背中を押してくれる特別な存在。

「渉太……。もし、渉太のお父さんとお母さんが良いって言ったら。俺、麻倉の性じゃなくて早坂でいたい……。俺も渉太の家族の一員になりたい……」
「なりたい。じゃなくてもう一員ですよ。律仁さんなら父も母もいいって言います」
「でも俺、嫌われたかもしれないから……」

 実際に見ていたわけではないが、律仁さんが俺に逢いに実家に訪問したとき、キツく追い返したと聞かされていた。

それは渉太がお願いしていたから両親は息子の気持ちを汲んでくれただけ。
 けどそれが、律仁さんの心に相当ダメージを与えて仕舞っていた。渉太の実家に来てくれた時、自分の家族に居心地良さを感じてくれていたことは知っているから、尚更彼に寂しさを与えてしまっていた。

「父も母も本当に律仁さんを嫌った訳じゃないです。だから……。今度日本に帰って俺の両親に会ってください。俺がついてるから、心配せずにいつもの明るい律仁さんで居てくださいね」

 渉太が笑顔で返すと、少しだけ律仁さんの手の力が緩んだ気がした。

楽観的に見えて凄く寂しがりで、弱くて脆い部分があるからこそ、自分が支えられたらと思う。

傷ついて傷つけあった分だけ、傷を癒していけたらいいと思う。
幸せを何年も何十年も律仁さんと重ねていけたらと思う。

渉太は自分には律仁さん以上の人の人はいないのだと心に刻む。

きっと生まれ変わったとしても俺は律仁さんのことを好きであるような気がする。

俺の最推しで最愛の人は生涯で変わることはないのだから。






END
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