君のために僕は歌う

なめめ

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志すもの

志すもの⑮

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店に入ってきていたことなど全く気づかなかったので、背後に吉澤がお馴染みの吊り上がった目で睨んできたことに心臓が竦む。
一瞬だけ吉澤を見てヒヤっとしてものの、流石芸能マネージャーなだけあってタレントに付けるネーミングセンスはあるのか律仁は思わず吹き出し笑いをしてしまった。

「·····いいじゃん別に、どすこいアイドル案外ウケるかもしんないじゃん。
『僕の体重の重さは、君たちへの愛の重さだよ☆』ってか!最高じゃん」

頬をパンパンに膨らませると両腕で前方へと円を描き、樽のような腹を表現すると得意のアイドルスマイルで吉澤を見る。吉澤は僅かに眉をピクリと上げると聞こえるか聞こえないかの音で舌打ちをしたことから相当ご立腹らしい。

「笑えない冗談を言うな。お前が気を抜いたら幼児体型になるのは把握済みだからな。今日はもうおしまいだ。ほら、大樹も帰るぞ」
「はいっ」

吉澤は律仁の空いた皿をカウンターの台に乗せると強制的に食事を終了させられた。右腕を持ち上げられて強引に座席から立ち上がらず負えなくなった律仁は吉澤に体を引かれながら「おやじ、ありがとう。また今度食わせてよ」と御礼を言った。後に続いて大樹も律仁の鞄と自分の鞄を持って店を出て行く。

吉澤はそのまま律仁を車まで連行すると押し込むように助手席に座らせられ、
本人も運転席に乗ると、大樹が乗り込んだのを確認した後にエンジンをつけた。都内を走る車の窓からぼんやりと景色を眺める。

時折目に入るビル看板。目を伏せたくなる鈴奈の姿。律仁が悩みながらレッスンに明け暮れている間にも鈴奈は怒涛のようにスターへの階段を上っていっていた。

樫谷のプロデュース力と言ってしまいたくなかったが、認めざる負えない。
世間はギターを片手に心のままに歌う彼女ではなくて、愛に飢えて苦しむ者たちに寄り添う歌う彼女を望んでたということだ。

「お前たち、再来月はデビューが控えてるんだからな。不祥事起こすんじゃねぇぞ。特に律仁」
「はいはい」

一層の事不祥事でも起こして……と思った手前で後部座席にいる大樹の存在を思い出してそれ以上を考えるのを止めた。
大樹も大樹で今、藻掻き足掻きながら前を向こうと必死で飛び込んできた未来の邪魔をするのは律仁の行動ひとつで台無しにするのは違うような気がして……。

「それと、お前たちのお披露目はレコード会社の音楽フェスに決まったから」

「それって鈴奈もいんの?」

だから何って訳じゃない。唯訊いただけに過ぎなかったが、吉澤の中では律仁に鈴奈の話をするのはタブーとされているのだろう。
一瞬だけ言葉を詰まらせると、淡々と前を向きながら「さぁ、どうだろうな。そんなことより自分のこと考えろ」とだけ突き放されてしまった。
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