それでも好きな人

なめめ

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終わる関係

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「明日、カズくんとデートすることになった」
「はぁ?」

 中学生の惚気話のような報告に思わず眉を顰めた。当たり前というか、付き合っているなら当然のこと。  
 そんな事でいちいち恋人の写真を眺めるくらい浮かれるなんて本当にめでたい奴だと思う。

「初めてちゃんと誘われてデートするから嬉しくて……」
「相変わらず、めでたい奴だよな」

 昔の情事の後も慎文は和幸のことを嬉しそうに櫂に報告してきたことを思い出す。「休みの日、ゲームをして遊んだ」とか「帰り道に偶然会って一緒に帰った」とか些細なことを飽きずに話してきていた。 

 その時から片想いを続けていたのだから、浮かれて当然と言うべきなのか……。

「明日って、お前の誕生日だったよな。良かったじゃん誕生日デート」

 明日は十二月二十五日。世間一般ではクリスマスイブであるが、慎文にとってはこの世に生を受けた大事な日。自分が彼に身代わりとして抱かれた日でもある。

「先輩、俺の誕生日知ってたんだ」
「まぁ……」

 その様子だと慎文は忘れてしまっているのだろう。
櫂が思い出したくもない過去。行為中に「カズくん、俺今日誕生日だからおめでとうって言って?」と身代わりとして慎文に懇願されたこと。好きだから慎文の寂しさを埋めようと必死だったあの頃のことをふいに思い出してしまった。

 櫂は苦虫を噛み潰したような気分になり、気を紛らわすために咳払いをする。

「今度は失敗すんなよ。あのチューの時みたいに」
「うん……」

 嫌いな先輩の前とは言え相当、和幸とのデートが楽しみなのか耳朶から首筋にかけて真っ赤にしている。

「お前、ロマンチックなもん好きだもんな。クリスマスが誕生日なんていい日に生まれたな」

 好きだった人がここまで幸せそうな顔をしているのは悪くはない。昔と何も変わらない、純粋に和幸を想う慎文がそこにいる。

 和幸を想う慎文がいて、それを傍で見ている俺がいて……。

「デートもカズくんが全部考えて、最高のデートにしてやるって言ってたんだ」

 キスを拒絶された後はあんなに寂しそうで、前なんて全然見えていなかった慎文が今は生き生きとした目をしている。

 ホントこいつに想われている和幸は幸せ者だ。
 慎文の右手の薬指に光る指輪が、櫂の胸を苦しめる。きっと慎文との関係は一生変わらないのだろう。後退することがあっても先に進むことはない。先輩と後輩のまま。

「こんな大事な日なんだからちゃんと、キスしろよ」
「……してもらえるかな」
「してもらえるんじゃなくて、するんだろ?」

 慎文は肩を竦めては「できるかな……」と呟く。

「それよりも、カズくんに好きって言われたいな……」

明日は慎文にとって最高の一日になるのだろうか。

 そう考えれば考えるほど、自分はひとり取り残されたようで寂しい。  

 去年のこの時期は栗山と食事をしたんだっけ……。
 普段であれば絶対に誘いを受けないが彼が好きな人の為にレストランを予約したがダメになったからと代わりに来て欲しいと言われて仕方なく同行した。
 あの時から栗山は自分のことを恋愛対象として接していたのだろうか。好きな人がダメになったのは単なる口実で端から櫂を誘うつもりで……。

 じゃあその後の櫂が本気の愛情と錯覚して、怖くて逃げ出したセックスも疑似的なものじゃなくて……。違う……。そんなわけがない。

 そんなの認めちゃいけない……。もう栗山のことを考えるのは止めよう……。

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