憧れはすぐ側に

なめめ

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渉太の過去

9-6

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扉の隙間から中を覗くと、一人の男がピアノの、尚弥が座るすぐ隣に立っていた。
制服のズボンの腰の位置を低めに履いて、茶髪に耳には無数のピアスが光っている。
人のことは言えないし、人を見かけ判断するのは良くないが尚弥の雰囲気ととても相性が良さそうには思えない。

椅子に座っている尚弥は、相変わらずの無表情で男を見上げていた。唯ならぬ空気ではない、ここは大人しく引き下がるべきだろうか…。
でも、もし尚弥に…好きな人に何かあったらと思うとドアを掴んでいる手に力が入る。

「なんだよ。ほんと腹立つ…その気にさせといて」

大声を出して尚弥の胸ぐら掴んだかと思えば、右手が大きく振りかざされる。それは一瞬のことでパシンと音がしては尚弥の顔は叩かれた反動で斜め下に俯いた。
頬を赤くさせては二発目が振りかざされそうになった時、渉太は咄嗟に何も考えずにドアを全開にしては「尚弥」と名前を呼びながら中へと入った。

好きな人が叩かれているのを黙って見過ごせない。二人の視線が此方に向けられると男は渉太が入ってきたことで理性を取り戻したのか、挙げた手を下ろした。そして、先程叩き損ねた手が拳を握り、怒りを込めたかのように尚弥の肩を強めに押しては音楽室を出ていく。

「渉太…」

静かになる音楽室。

「尚弥、大丈夫?」

ゆっくりと尚弥に歩み寄ると、腹部に頭をつけるように無言で寄りかかられてドキっとした。男の前では平然とした顔をしていたが、余程怖かったのだろうか。
心配もあったが、それ以上に腹部から伝わる尚弥の温もりに胸の鼓動が早くなる。


渉太は突然のことに戸惑い、持て余した両手を上げたままじっとしていた。
嬉しいけど、自分が尚弥に特別な感情を抱いていることがバレるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。

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