憧れはすぐ側に

なめめ

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律仁さんと先輩と、藤咲と

30-2

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四人掛けのテーブルに座っては窓の外を眺めていた藤咲は此方に気がつくと立ち上がっては深く会釈をする。

「尚弥くん、久しぶりだね。お疲れ様」
「どうも、先日はご迷惑をお掛けしまして申し訳ありませんでした」
「いいよ。渉太もいてくれて結果大成功だったし、俺の前では改まらなくていいから」

律仁さんに会うことに緊張していたのか、少し顔を強ばらせていた藤咲を察して、砕けたように返すと真っ先に彼の向かい側に座る。

渉太も律仁さんの隣に座ろうとしたところで藤咲と目が合い「渉太もごめん」と謝られたので首を左右に振って応えた。

「あれ、浅倉さんもうひとり連れてくるって言ってませんでした……?」

挨拶も終わり、お冷がきたタイミングで飲み物を注文しては一段落したところで、藤咲が問いかけてきた。問われた律仁さんは、思い出したように「あーそう。後からくるって」と言ってお冷に口をつけたタイミングで個室の扉がスライドされる。


「悪い、実習で遅くなった」

注文した飲み物でも店員さんが運びに来たのかと思ったが、部屋に入ってきたのは大樹先輩だった。

「大丈夫、俺たちも来たばかりだし。大樹の分も飲み物頼んどいたから」

律仁さんは、通常運転で友達が来たかのように接しているが、渉太ももちろんのこと驚いたが、藤咲は更に目を見開いて硬直しているようだった。律仁さんが、先輩と藤咲の過去を知っていて呼んだのかは知らないが、この二人の組み合わせは余り良いとは言えないことは、この間のライブの件で目撃した渉太には理解できていた。

昔の知り合いだとしても、藤咲はどういう訳か大樹先輩を敬遠している。

「なんであんたが来てんだよ」
「律仁に呼ばれたから……」

藤咲の敵意剥き出しの表情は、数週間前まで俺に向けていた顔と一緒だった。
鋭く睨んでは、相手を威嚇するような目。

先輩も藤咲の冷たい視線に萎縮したのか、半ば苦笑いを浮かべていた。

「まぁ、尚弥くん。大樹と知り合いなんでしょ?渉太も大樹と先輩後輩だし、丁度いいかと思ってさ?ねっ?」

あくまで藤咲はお詫びをする側だし、場の空気を全て取り仕切っている男に口ごたえは出来ないのか、何か言いたげにした様子をみせていたが、律仁さんに根負けして押し黙っていた。

先輩も「藤咲、ごめんな」と言いながら、半ば気まずそうにして空席の藤咲の隣に座ろうとしたとき、藤咲に少し強めの声音で名前を呼ばれる。

「隣にきて?この男が隣にくるのは勘弁してほしい。渉太なら分かってくれるでしょ?」
「えっ……」

助けを求めてくるように、じっと俺を見つめてくる藤咲。律仁さんと先輩の視線が一気に俺へと向かい、渉太は酷く困惑していた。
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