Broken Flower

なめめ

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別れ話

別れ話 10-7

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「あのさ·····もう、終わりにしよう。そもそも、お前と俺の関係は正当じゃない。バレるのだって時間の問題だし傷が浅いうちに終わりにした方がお互いのためだよ」

意を決して別れを告げた後、西田の瞳は大きく見開かれて思考が停止したかのようにピタリと止まっていた。

「それどういうこと?」

「別れようって言ってるんだよ」

手に取るように分かる西田の動揺が移らないように敢えて本人の顔を見ることなく顔を背ける。西田は亨の言葉で漸く意味を理解したのか腕を強引に掴まれて「いやよ」と縋りついてきた。

「嫌も何ももう潮時だよ。俺、西田のことそんなに好きじゃないから」

振り落としても何度も添えられる手が鬱陶しい。亨は強行突破で保健室の出口まで向かうがその間も「何で私の事分かってくれないの?私から振られたなんて絶対に嫌よ」「亨は私のモノなんだから、別れるなんて許さない」と俺の気持ちを汲むどころか、自分が振られたことへの劣等感を受けたくないが故の言い訳が並べられる。

亨は鳥のようにビービー喚く姿を無視してドアノブに手をかけたところで「ねぇ、葵くんなの?」と問われて手が止まる。
亨が手を止めたところで西田の手がゆっくり背中をなぞりながら、鳩尾まで回ってくると胸の膨らみをアピールするかのようにくっつけてきた。

「亨、葵くんのこと好きになったんでしょ?やめた方がいいわ、あんな子。それに貴方たち男同士じゃない。私の体の方がいいって教えてあげる。亨は女じゃないと抱けないはずよ」
 
口で説得しても振り向いて貰えないからと体を売りつけてくる西田にゾッとした。
所詮西田にとっては俺も色仕掛けをすれば考え直してくれる貞操の緩い奴と思われているんだろう。

葵はそんな下品な真似はしない。
亨は鳩尾に回った手を強く掴んで、西田が「亨、痛い」と顔を歪めた隙をついて肩を押してやると、西田は盛大に尻餅をついていた。

「男同士だからなに?お前に関係ない。それに、お前のそういう下品なところ嫌いだから。じゃあ、俺にもう関わってくんなよ」

ドアノブを捻り保健室を出る。
出る途中で背後から「はあ?ガキのくせに」と今までの猫を被ったような撫で声は何処へといった低い怒声を浴びせられたが、亨は至って平常心であった。

西田と別れた今、漸く葵に想いを告げられると想うと胸が弾み、この先の明るい未来しかみえていなかった。
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