Broken Flower

なめめ

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葵の嫌いなもの

葵の嫌いなもの 11-3

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心ここにあらずな生返事をした事で葵に気を遣わせてしまったのか、正座をして平謝りをしている葵の謙虚さが余計に罪悪感を生む。 

「あぁ·····誰だってそんな奴嫌いになるよ·····」

僕の救世主だと、好きだと告白してきた葵は俺の素行を知ってしまえば幻滅するだろうか。想像したくない未来から目をそらす様に
自分の視線も自然と葵とは逆の方を向いてしまう。

今までは相手に誠意のない行動をしてきたかもしれないけど、葵に対しては今を大事にしたいと思う。葵への気持ちはホンモノだから、彼との時間を葵を想う気持ちは全部が特別で決してぞんざいに扱うつもりは微塵もない。

自分の感情を自覚した途端に彼に強く嫌われたくないと願うようになった。その可能性のある自分への不安は拭えない·····。

亨は教科書に添えられた葵の手に自分の手を重ねると強く握っては、葵への好意は本物なんだと訴えるように彼の茶色い瞳を覗き込んだ。体温が低いのか俺よりも微かに冷たい指先を自分の指先と絡めさせる。

亨の積極的な行動に驚いたのか「と、とおるくん·····あの····どうしたんですか·····」と視線を泳がせている姿は彼が動揺しているのが一目瞭然だった。

亨が葵のことをじっと見つめていても一向に目線を合わせてくれず、全身から緊張が伝わってくる。

困らせると思っていてもそんな葵が可愛い·····。

葵が狼狽える姿を見続けていたい·····。
もっと近づいたらどんな反応するだろうか·····。

そんなことを考えていたら自然と葵に引き寄せられるように体を近づけていた。葵が何度も『亨くん·····近いです·····』と動揺を顕にしているのをお構い無しに葵の息がかかるくらいの距離へと迫る。

このまま唇を重ねたい·····。好奇心と葵への熱が織り交ざって胸の鼓動が早くなる。
葵も気配を察したのかキュッと強く結ばれる唇と双眸に微かに力が込められる手。

衝動に突き動かされながら葵との距離が残り数ミリと迫ったところでカランと何かが落下した音が二人の世界から現実へと引き戻される。

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