Broken Flower

なめめ

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葵の嫌いなもの

葵の嫌いなもの 11-4

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葵は音を耳にした途端に身体をビクリと震わせると繋がれた亨との手を離し、優しく両肩を押されて距離を置かれてしまった。かと思えば体育座りをして膝に顔を埋めて耳を真っ赤にしている。

亨は音のした方に目線を向けると空き缶が踊り場に落下の衝撃の名残でカラカラと転がっていた。確実に上から降ってきたもの。
今まで葵と時間を共にしていたが非常階段に誰かが来ることは滅多になかった。

穴場だと思っていたが、誰かに見つかってしまったのだろうか。赤の他人だとしても、このタイミングで缶が降ってくるなんて誰が一部始終を見ていたに違いない。
ましてや今さっき俺は葵にキスをしようとしていたから·····第三者からしたら不快な光景だったのだろう。誰だって他人のイチャつくところなんて見たくはない·····。

暫くしてゆっくりと此方へと降りてくる足音が聴こえてくる。どこの誰かも分から無い奴とかち合って気まずくなるより、このまま葵と逃げてしまった方がいいだろうか。

「葵·····場所移そうか」

亨は立ち上がると足音の主が来る前に葵の肩を揺すり場所を移すことを提案する。葵は亨の声掛けに顔を上げたかと思えば、俺より遥後ろに視線を向け、次第に表情が青ざめていった。

「橋下くん·····」

自分の後ろにいるであろう人物の名前を呼ぶ葵の視線を追いかけるように振り返ると黒髪パーマの虚ろな目をした男が立っていた。

「へぇーあんなメールで上手くいったんだ。凌介が居ないからって随分、青春謳歌してるね」

橋下とかいう奴は足元にあった空き缶を葵に向かって蹴飛ばすと缶が彼の脛に当たる。葵は「痛ッ·····」と小さく呟いては完全に萎縮してしまっているようだった。

「おい、あんた誰だよ」

見た事あるその顔·········。
葵の表情と男の雰囲気から、もしかして·····葵を虐めている奴の取り巻きの一人なんじゃないかと勘づいた。金髪の奴はよく目についていたけどこんな奴いただろうか·····。

だとしたら、今まで面倒くさいことから逃げてきた亨にとっては巻き込まれたくない状況。でも、保身に徹するよりも葵を守ることの方が今の亨にとっては大切だった。

好きな人だから、先輩であろうとも関係ない。橋下は亨の問いかけを無視して此方へとゆっくり近づいてくるなり、大股を開いて屈んで来たので、葵の間に割るように右手を広げて守備体制に入る。そんな亨に漸く気づいたのか、じっと見つめ不敵な笑みをもらしてきた。

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