Broken Flower

なめめ

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亨の家のシクラメン

亨の家のシクラメン⑤

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確かに一人暮らしで高熱を出しているのならば、起き上がるのですら辛いはずだ。自分も風邪をひいて寝込んだ時は母親に看病して貰っているし····誰が傍にいるのといないのとでは、前者の方が気持ち的に安心感がある。

亨には看病してくれる人が居るのだろうか·····。

一瞬だけ考え込んでみたが、彼は僕のように一人ではないことを思いだす。

サークルに所属しているほど外向的な彼は、高校時代も友達と居るところをよく見かけていた。内向的な僕と違い、充実した大学生活を送っているのであれば看病してくれる友達の一人や二人くらいいるに違いなかった。 

それに、彼に好意を寄せてお世話してくれる人が居るかもしれない……。

「大丈夫だよ·····。塩谷さんは·····友達が沢山いるから」
  
亨を息子のように可愛がっている百合は、葵の返答に対して憂わしげに「そうかしら·····」と呟いては、雨が地面に強く当たる店の外をぼんやりと眺めていたので亨のことが相当気がかりのようだった。

そんな亨のことを心配する百合のことが気になりながらも、店が暇なのをいいことにコンテストのデザインを考える葵。暫くして、「そうだ」と何か思い立った百合は、慌てて店の裏へと捌けて行ったかと思えば、何やら乳白色のビニール袋を手にして店内へ戻ってきた。

「果物、お得意さんからもらったの思い出したわ。ついでだから、葵ちゃん。亨君の様子見がてら届けてくれる?風邪ひいたときには、オレンジがいいって言うでしょ?」

オレンジ色の球体が二玉と透けて見える袋を百合に差し出される。

「なんで僕が……っ。母さんが行ってくれば?店のことは僕がやってくし……」
「ダメよ。一応お店の責任者なんだから。それに、葵ちゃんも忙しいでしょ?そのまま亨君のところ行ったら帰っていいわよ。いつも亨君には無理させてちゃってるじゃない?お見舞いぐらい行かなきゃね?はい、これ住所」

受け取りを拒否しようとした右手に強引に袋が掛けられて、その左手には住所の書いた紙を持たされる。お見舞い以前に亨と二人きりになるのは、どう接していいか分からず、気まずい空気になりかねない。

今の自分では彼をどう位置づけしていいか、答えが出せていないのだから……。

かと言ってニコニコと背中を押して、亨の家へと促してはお見送りしてくる百合に反抗期の息子のように突っぱねることが出来なかった葵は気乗りしないまま、店の車に乗らざる負えなくなってしまった。

お使いだとすぐに果物を置いて帰ってくればいい……そう云い聞かせて、葵はエンジンキーを回した。
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