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恋の蕾
恋の蕾③
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「ああ、うん」
俺よりも葵の方が知識は上だし、何か育て方に間違いでもあっただろうか。葵の店で自然と知識はついてきたものの、きっと自分は花の全てを知ったわけじゃない。
そんな中でも散った後のシクラメンは、ちゃんと手をかけていれば再び芽吹くのだと知った亨は、自分なりに調べて大切に育ててきた。もう葵との関係に望みがなくて苦しかったとしても、花には罪は無い。好きな人の花だからこそ苗の寿命が尽きるまで、見届けたいと思っていた。
「なんでこの花を育てようと思ったんですか?」
「えっと·····、それは·····。その·····」
葵にそう問われて口篭る。
「葵の好きな花だったから·····」なんて言ってしまったら、また葵を不愉快にさせてしまうだろうか·····。
今まで散々嘘を重ねて葵を幻滅させて来たのだから誤魔化したり嘘ついたりはしたくなかったが、以前嫉妬心から我慢できずに江藤のことを問うて、正直に自分の気持ちを話したら、葵が機嫌を損ねてしまい冷たくあしらわれてしまった。
その時のことが思い起こされて正直に話すべきなのか正解が分からない·····。
俺が葵に好意を寄せている発言は地雷になることは分かっている。
慎文さんが勧めてくれた·····たまたま目に付いたから·····なんて様々な言葉を頭で巡らせて、返答に困っていると「僕の好きな花覚えていたんですか?」と確信をつくように葵の方から問いかけられて心臓が跳ねた。
「·····う、うん」
掛け布団を握る拳に力が入ると、深く頷く 。
彼から問われて下手な嘘などつけず、咄嗟に頷いてしまったが、葵が今俺の事をどう思っているのかと思うと怖くて顔が見れない。
諦めると言いながら、彼の好きな花を育ててるなんて未練がましくて気持ち悪いと思われても仕方がなかった。
「だからって、葵は別に気にする必要なくて·····。俺が勝手に育ててるだけだから·····。気持ち悪いって思ってくれても構わないし·····」
沈黙が怖くて矢継ぎ早に自分で言っていて虚しくなっては、風邪が治っても心までは完全の回復を遂げていないのか、目頭が熱くなる。
すると葵はその場に立ち上がると、ベランダの窓辺まで近づいては鉢の中の球根を眺めていた。
「·····シクラメンって難しいんです。だから、蕾をつけ始めたこの花は、あなたがちゃんと大切にお世話をしてくれたことは、よく伝わります。だから気持ち悪いなんてことは無いです、花を慈しんでくれる人に悪い人はいないので」
凄く穏やかにそう語る葵。
何時ぞやかの早朝に高校の花壇で柔らかい表情で太陽に向かってのびのびと咲くお花達に水をあげていた葵のようだった。
てっきりこんな俺なんかがと嫌悪がられると思っていたから、予想外の葵からの言葉に嬉しさで胸が苦しくなった。
花を慈しんでくれる人に悪い人はいない·····。
それは、葵が少し俺のことを嫌悪の対象として見なくなったと捉えていいんだろうか·····。
葵のその言葉の意図が分からない。
諦めたいのに·····彼のその言葉は亨に微かな期待を与える。
俺よりも葵の方が知識は上だし、何か育て方に間違いでもあっただろうか。葵の店で自然と知識はついてきたものの、きっと自分は花の全てを知ったわけじゃない。
そんな中でも散った後のシクラメンは、ちゃんと手をかけていれば再び芽吹くのだと知った亨は、自分なりに調べて大切に育ててきた。もう葵との関係に望みがなくて苦しかったとしても、花には罪は無い。好きな人の花だからこそ苗の寿命が尽きるまで、見届けたいと思っていた。
「なんでこの花を育てようと思ったんですか?」
「えっと·····、それは·····。その·····」
葵にそう問われて口篭る。
「葵の好きな花だったから·····」なんて言ってしまったら、また葵を不愉快にさせてしまうだろうか·····。
今まで散々嘘を重ねて葵を幻滅させて来たのだから誤魔化したり嘘ついたりはしたくなかったが、以前嫉妬心から我慢できずに江藤のことを問うて、正直に自分の気持ちを話したら、葵が機嫌を損ねてしまい冷たくあしらわれてしまった。
その時のことが思い起こされて正直に話すべきなのか正解が分からない·····。
俺が葵に好意を寄せている発言は地雷になることは分かっている。
慎文さんが勧めてくれた·····たまたま目に付いたから·····なんて様々な言葉を頭で巡らせて、返答に困っていると「僕の好きな花覚えていたんですか?」と確信をつくように葵の方から問いかけられて心臓が跳ねた。
「·····う、うん」
掛け布団を握る拳に力が入ると、深く頷く 。
彼から問われて下手な嘘などつけず、咄嗟に頷いてしまったが、葵が今俺の事をどう思っているのかと思うと怖くて顔が見れない。
諦めると言いながら、彼の好きな花を育ててるなんて未練がましくて気持ち悪いと思われても仕方がなかった。
「だからって、葵は別に気にする必要なくて·····。俺が勝手に育ててるだけだから·····。気持ち悪いって思ってくれても構わないし·····」
沈黙が怖くて矢継ぎ早に自分で言っていて虚しくなっては、風邪が治っても心までは完全の回復を遂げていないのか、目頭が熱くなる。
すると葵はその場に立ち上がると、ベランダの窓辺まで近づいては鉢の中の球根を眺めていた。
「·····シクラメンって難しいんです。だから、蕾をつけ始めたこの花は、あなたがちゃんと大切にお世話をしてくれたことは、よく伝わります。だから気持ち悪いなんてことは無いです、花を慈しんでくれる人に悪い人はいないので」
凄く穏やかにそう語る葵。
何時ぞやかの早朝に高校の花壇で柔らかい表情で太陽に向かってのびのびと咲くお花達に水をあげていた葵のようだった。
てっきりこんな俺なんかがと嫌悪がられると思っていたから、予想外の葵からの言葉に嬉しさで胸が苦しくなった。
花を慈しんでくれる人に悪い人はいない·····。
それは、葵が少し俺のことを嫌悪の対象として見なくなったと捉えていいんだろうか·····。
葵のその言葉の意図が分からない。
諦めたいのに·····彼のその言葉は亨に微かな期待を与える。
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