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第10話 ミゲール先生とモズリー

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 ミゲールがアリスとモズリーを連れて来たのは鍛錬場。

 兵士たちのためにある鍛錬場だ。

 今も剣の練習に集中する者も少なくない。 しかし、ミゲールの存在に気づくと鍛錬を中断していく。

 兵士たちからは――――

「おい、ミゲール・コットだ。また鍛錬場を壊しにやってきたのか?」

「新人共は目を合わせるなよ。噛み付かれても仕方ないぞ」   
   
「戦闘狂が、味方の兵士を消耗させてどうする。恐怖で戦えなくなって故郷に帰った奴だって少なくないんだぞ」

 そんな陰口が聞こえて来た。

「――――えっと、モズリー先生。宮廷魔法使いって軍師の役割があるんですよね? ミゲール先生、兵士に嫌われ過ぎじゃありません」

 声を小さくして質問するアリス。答えるモズリーも本人に聞こえないように――――

「先ほどのやり取りでわかると思いますが……戦闘狂ですね。彼女の評価は戦場で1人で戦況を覆す戦闘能力ですので」

「先生、どうして先生はミゲール先生を教師に推薦したのですか?」

「それは――――彼女の魔法使いとしての実力。それから知識と経験が本物だからよ」

 それは事実として、アリスを成長させるため。モズリーはアリスの教師としてミゲールが相応しいと考えての判断で間違いないのだろう。

 ミゲールの性格と危険性は別として……

「なるほど……ところでモズリー先生って、本当にミゲール先生と戦えるほど強いですか?」 
 
「はぁ~」とモズリーはため息をついた。

「それは彼女の思い込みよ。彼女が本気を出したら、私なんて――――」

「おいおい、兵士どもの会話は私への陰口だって決まっているから見逃す。けれども、お前等が私に隠れてこそこそ話をするのは聞き逃さねぇぞ!」
 
 そう言うと、ミゲールは振り返って2人をみた。 どうやら、ここが目的地だったらしい。

 鍛錬場でも魔法を使用した模擬戦が可能な場所。 厳重過ぎるとも言える結界が張られている。

 もはや鍛錬が目的と言うよりも、戦争で兵器として使う魔法の開発が目的であると隠していない。

「それじゃ、ここでテストをさせてもらう」

「う~ん」とミゲールはアリスを観察する。「何をするかなぁ~」と言う辺り、何も考えてなかったようだ。

「えっと……アリス。お前は攻撃魔法は修得していないだよな?」

「はい、両親から何かを壊したり、人を傷つけるような魔法は、まだ早いと言われましたので……」

「そうか、ソイツは残念だな。お前の師匠であるモズリーは冗談のように誤魔化しているが、攻撃魔法に関しては当代随一……私だって攻撃魔法に関しては、『最強』の座ってのを譲渡しなきゃいけない水準《レベル》なんだぜ?」

「本当ですか、モズリー先生?」とアリスは、後ろに下がっていた当人を見た。

「彼女は、ミゲールは大げさなんです。私なんて、まだまだですよ?」

 アリスは困惑する。 

(ミゲール先生とモズリー先生、どっちが本当のこと言ってるの!?)

 そんな彼女の内心を知ってか、知らずか、

「けっ! 謙遜もここまでくると嫌味も過ぎるぜ。せっかくだから、やっぱり本気で戦おうぜ。今、ここが最強決定戦の舞台だ!」

「いえ、今日はアリスの面談と試験でしょ? お願いしますよ」

「わかったよ」とミゲールは簡単に了承したかと思ったが、

「私とお前の決着は、もっとドラマチックじゃないといけないからな。いずれ、来るべき時期に来るべき場所で……ってわけだろ?」

「そんなことは全く考えてません」

「わかったわかった。お前の考えはわかったぜ、可愛い奴め! うっかりキスしちまうところだったじゃねぇか、気をつけな?」

「……あまり、私に近づかないでくださいね」
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