VTuberでもできるダンジョン配信!

チョーカ-

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第37話 解決(?)

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 2メートルの球体が浮かんでいる。 白い半透明の球体だ。

 その中心に人の顔。 かつて、物申す系VTuberを名乗っていた男─── 炎斉士だ。

 なぜ、彼が? そんな理由が頭に思い浮かぶだろう。

「驚いているな、ライガ! その顔を見たかったぞ」

 彼は高笑いと共に語り始める。

「貴様によって、破滅した俺はダンジョンで隠れるように過ごした。数か月の期間─── それによって、特殊なスキルを手に入れたのだ!」

「あぁ、なるほど。そういうパターンのやつか。気づいてないのか……」

 ついため息交じりに、呟いた。だが、その言葉が気に入らなかったようだ。 

「なんだ、その反応は!」と炎斉士は激高して、怒鳴りだした。

「俺は、俺様は、人を操る強力なスキルを手に入れた。いくら貴様が強くても、俺のスキルの前では無力だ。 怖いか? なら土下座しろ! 俺様にした行為を謝罪しろよおおおおお! ボケが!」 

 正直に言うと、めちゃくちゃ怒ってて……ドン引きする。

「う~ん、どうしよっかな? ちょっと伝えずらいからなぁ……」

「何をブツブツと1人で! もう良い、俺のスキルでお前も操ってやる!」

「────いや、それはスキルじゃなくて、お前はもう死んでいるだぜ?」

「……はぁ?」と炎斉士の動きが止まる。

 その隙に「ほら、証拠」と俺は彼の体に触れようとする。 しかし、何の抵抗もなくすり抜けていく。 だって、幽霊には触れないのだから……

「なっ! 俺様に何をした! 獅堂ライガあぁぁぁ!」

「いや、だから……もう死んでるだって。それにダンジョンで数か月くらい過ごしたから、人を操るみたいな特殊スキルは手に入らないぜ」

 おそらく、ダンジョンにモンスターに襲われて、殺されたのだろう。

 しかし、邪《よこしま》な心を持った人間をダンジョンは歓迎する。

 人間がダンジョンの力によってモンスター化する。これを俺たちは『魔に飲まる』って表現していたが───

 炎斉士にも、それが起きたのだろう。 彼は、自分も気づかないまま死んで、モンスターになった。

「……人に憑りついて悪さをするタイプのモンスター。死霊系《ゴースト》ってところかな?」

「嘘だ、嘘だ、嘘だ……俺様が死んでる? 嫌だ、嫌だ、嫌……」

 炎斉士は必死に否定しているが、心のどこかでわかっているはずだ。だからこそ、否定し続けなければ、自分が保てなくなっている。

「なぁ、助けてくれよ、ライガ。今までの事は謝る。土下座だってなんだってする。だから、俺を人間に戻してくれよ!」

 人間がモンスターになる。 それは公然の秘密であり、情報で商売をしていた彼だって知っているだろう。

 完全にモンスターになった人間は、元に戻れない。

 だから俺は告げる。

「もう無理だ。そうなったら……と言いたいが、方法はないわけじゃない」

 俺の言葉が予想外だったのだろう。「え?」と彼は呆然としていた。

「お前は運が良かった。死霊タイプのモンスターだったからな……」

 まず俺は、浮遊している炎斉士の体を。 

 ダンジョンで身に付けた『聖なる力』ってやつだ。 それを使って───

「お前の体から、モンスターになった原因、邪な心を引き剥がす。に引き剥がすから───相当、痛いぞ」

「な、何を、物理的に引き剥がすって……痛っ! 痛い、痛い、痛い! 止めろ、俺の体を引き千切るな!」

「我慢しろ。人間に戻りたいのだろ?」

 俺は、暴れ狂う彼の体を押さえつけて、続ける。

「痛い、痛い……ふざけるな! いや、ダメだ。お、怒れない。これは、心が、感情が……取られているのか!」

「その通り、この邪心は消滅させて……ほいっと!」

 邪な心。 その全てを失った炎斉士は、人間の顔をしていなかった。

 どちらかと言えば、仏像のような顔になっている。

「よし! これで今日からお前は善霊だ!」

「あぁ、ありがとうございます。ライガさま……全て執着が失われました。このまま成仏しても良いほどに」

 うん、口調まで変わってる。

 本人の希望とは言え、もう完全に別人だ。良かったのかな? まぁ良いかッ!

「俺はお前を生き返らせると約束した。それを反故にさせてくれるな」

「なるほど、それでも私、この炎斉士はどうしたら?」

「うん、そこにいる無駄無駄さんの守護霊になってあげろ」

 急に名前を呼ばれた彼。 いつの間にか、配信中なのを忘れて、部屋の隅でガタガタと震えている。

「えっえっ! 僕に何を……?」と今も怯えている。

 ちょっと、可哀想になってきた。 炎斉士に憑りつかれた事で、俺を貶めるように動かされていただけの人なのに……

まぁ、憑りつかれた時点で炎斉士と相性が良いタイプの人間。何か粗があるから……いや、憶測で人間性を語るのは良くないな。

 とにかく、似たジャンルの配信者で相性が合ったのだろう。

 そんな無駄無駄に俺は───

「今のコイツは最上級の守護霊だ。アンタに預ける。あらゆる幸福が訪れる事になるぜ。その代わり───」

 ――――と俺は金額を示した。

「10っ! 10億!!!」

「あぁ、炎斉士を人間に戻してやる約束だ。 調べてみたらクローン人間を作るのに、そのくらいかかるらしい」

 炎斉士は死霊だ。 

 だったら、クローンでも何でも肉体を作って憑りつかせてやれば解決だ!

 クローンにも心とか自己ってのがあるのだろうが、同じ人間なら統一化されて1つの人間になるってのはダメかな?
   
 クローン技術に関しての倫理観は……まぁ、何とかなるかな?

「ちなみに、最上級の守護霊の対価なら10億は安いほうだ。10倍でも欲しがる人間はたくさんいるぜ」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 さて、これで解決かな? 

 配信画面を見たら、凄い事になっていた。

『何これ? マジで何!』

『俺の穢れた心までなくなったような』

『凄い物を見たな』

『うん、もう二度と見えない凄いもんだ』

 どうやら、無駄無駄の配信でも映像が見えないので、俺の配信の方に多くの人が移動したようだ。

 同時接続者数も見た事ないような数字になってる。

 ちなみに、画面の向こう側にいる連中の『邪な心』にまで何か反応があったみたいだ。
 
 なにそれ? 知らん……まぁ、それは、流石に思い込みだと思うけど。

 そんな時にマネージャーの岡京さんから連絡が来た。「もしもし!」と通話を繋げると───

「岡京です。大変お疲れの所、申し訳ありませんが、これを聞いてください」

 深刻そうな口調。 俺は事件が終わってない事を予感した。

 スマホから、岡京さんが流した音声を聞いて、それを確信する。
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