ただし、セーブポイントはない。

ねこめいし

文字の大きさ
28 / 28

Clothes

しおりを挟む
「それじゃ、よろしくお願いします」

「はいよ。出来上がったら組合に連絡するから、受け取り来てくださいな」

 ウィリウスに全部任せていた金庫の注文は、30分ほどで無事に済んだようだ。俺には半分ほど意味の分からない専門用語だったが、2人の表情を見るに良い取引ができたらしい。良かったよかった。

「この後もどこか寄るのか?」

「ん。お前の服買おうと思って。いるだろ?」

「あー……思いっきり着られてるもんな」

 ウィリウスの身内ということにしている以上、それなりの恰好をしないといけないので俺の外出着は全てウィリウスと共有だ。彼の方が二回りほど体格が良いので、つまり奴の服は全部俺のオーバーサイズなのである。今は裾を折り込んでなんとか不格好でないように整えているだけだ。ウィリウスが。

「シシーのはいくらかあるけど、あれは奴隷用だから」

「大変だな貴族って」

 分からないから全部任せるよ、と言ってついて行く。あいかわらず店の前で手を差し出され、ぎゅっと繋がれて先導された。もう慣れたので恥ずかしさはない。そのまましばらく歩いて、大きなショーウィンドウのある呉服屋までやって来た。冒険者専用の、というわけではなく、普通のお店らしい。古着屋よりは高価そうな印象だ。

「ここ?」

「ん。とりあえず一揃い5着ずつくらいありゃいいだろ」

 慣れた様子で扉を開けたウィリウスは、そのまま迷いなく商品の列へ向かって行く。ぎっしりと衣服の詰められた棚がいくつも並ぶ店内は、少し埃っぽいにおいがした。まともな服を選ぶのはウィリウスに任せ、俺は適当に店内を見て回る。ここも古着が多いのか……とか、新しそうなのは高いな……とか、そんなことを考えながら棚の間を歩く。ゲームの中では価格が若干上下するくらいで古着も何もなかった服たちだけれど、こうして見てみると色や形、それから使い込みによるほつれや汚れなんかが1つひとつ違う。ゲームでは再現出来ていない部分で、ああこういうことだったのかなと考察がつながるのは面白かった。

「おい、シン。こっち来て試着してくれ」

「ん。はーい」

 店員と一緒に真剣な顔で服を選んでいたウィリウスからお呼びがかかる。その手にはどう見ても5着以上の商品がこんもり盛られていた。……今日は長くなりそうだ。

「俺別に……着られれば良いんだけど」

「だめ。俺の親族って言って通すんだから、それなりの格好してもらわねぇと」

「……へーい」

 お洒落や作法にはあまり詳しくない。オーバーサイズでなければ良いと難色を示してみたのだけれど、ウィリウス的には許容出来ないらしい。最初はこれ、と服を一式押し付けられ、あれよという間に試着室へ押し込まれた。俺にはウィリウスが手に持っていた服たちと渡された服の違いすらよく分からない。が、ここは生粋貴族のウィリウスへ任せておくのが吉だろう。ゲームの中でも身分ある人との取引や交渉事はウィリ兄さんの役割だったし。

 そう思って大人しく、渡されるまま服を着たり脱いだり組み合わせを変えたりと試着を繰り返した結果、ウィリウスの満足いく5着セットを選び終えた頃には、外はすでに暗くなり始めていた。着せ替え人形にされた俺はぐったりしていたが、ウィリウスは良い買い物をしたとほくほくの顔。包んでもらった服を両手に提げ、ついでとばかりに俺の手も握って屋敷へ戻る。途中買い食いする元気もなく、今日は家でなにか作ろう、と話しながら帰宅。

「……疲れた」

「お疲れさん。シシーの物入れじゃシワになるから、しばらくは俺の服と一緒に管理するぞ」

「頼む……俺はもうだめだ……」

「おーい、ベッド行くなら着替えろよ。着て帰ったそれ外出用のなんだから」

 あれだけ店員と一緒になって俺を着せ替え人形にしていたウィリウスはけろっとした顔で買ってきた服を揃え、自分の服がしまってあるクローゼットへ収納していた。その体力分けて欲しい。慣れている、というのもあるのだろうが、この間のダンジョンとはまた別の体力を使った気がする。もう当分買い物は良いかなあ……。

もそもそと服を脱ぎ、ウィリウスへ投げ渡す。下着姿でベッドに寝転ぶ俺へ、彼は呆れたような目を向けたが、咎めることはしなかった。俺の……というか、俺の身体シシーの体力の無さは俺以上に知っているからだろう。あるいは隷属の鎖の効果なのかもしれないが。

「ウィリ兄さーん、俺の部屋着取ってー」

「そのくらい自分で取りに来い」

 ベッドにごろんと仰向けになったまま怠惰に手を伸ばすと、せっせと洋服をしまい込んでいたウィリウスがため息を付いた。顔をしかめつつ、それでも脇にあるシシーの物入れへ手を伸ばす。ぽい、と服が投げ渡され、俺はそのままベッドに転がりながら楽な服装へ着替えた。

 これでウィリウスと対等に話してても安心、というわけでは無かろうが、見た目の体裁は整った。あとはなんとかかんとかゲーム知識を駆使しながら、ストーリー進行で詰まないようにするだけだ。……それが1番難しいような気がしなくもないけれど。
 今はとりあえず、自分も楽な部屋着に着替えてベッドへ腰を下ろしたウィリ兄さんに、膝枕をねだることから始めようと思う。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

galatea
2023.11.07 galatea

👍

解除

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

腐男子♥異世界転生

よしの と こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、カクヨムさん、Caitaさんでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。